第112話 クラマント

 軍議で決めた通り、私たちは本隊とは別途行動をとり、ロルト城を攻めることとなった。

 調略で城を落としたので、兵たちの休息は十分である。

 出陣する準備をすぐに終わらせて、明後日には出陣する予定である。


「しかし、私が大将か……アルス、お主のおかげでもあるかもしれんのう」


 ルメイルが私にそう言った。


「私のおかげですか? いえ、これはルメイル様をクラン様が信頼しての人事であると思われますが」

「いや、お主とお主の家臣たちは、この戦いで大きく活躍しておる。本心ではお主に軍を預けたいお気持ちだろうが、それは流石にまだ若すぎるからな。だからお主の上についておる私に兵を率いらせたのだ」

「か、考えすぎでございますよ」


 内心そうかもしれないと思ったが、この場は否定しておいた。


「しかし、此度の戦で私の軍勢に加わるメイトロー傭兵団とは、いかなる者たちかのう。傭兵はあまり信頼できぬからな……クラン様が実力は確かであると仰ってたが……やはり少し不安だ。働いてくれればいいのだが……そうだアルスよ。お主は傭兵団の団長である、クラマントにあったことはあるか?」

「すれ違ったことはあります」

「鑑定はしたか?」

「いえ、しておりませんが、するつもりでした」

「それはちょうどいい。クラマントと話してみるつもりだったから、お主も同席してくれ」

「承知いたしました」


 そのあと、ルメイルは使いを出してクラマントの居場所を探し出し、連れてくるように命令した。


 その使いは数分後、一人で戻ってきた。


「クラマントはどうした? 見つからなかったのか?」

「いえ、見つけたのですが、話があるならそちらから来いと。カナレ郡長であるルメイル様がお呼びであると言っても、何も気にしていない様子で……何とも無礼な奴でありました」

「ふむ。いや、こちらが話をしたがっているのだから、出向くのはおかしい話ではないだろう。傭兵に過度に礼儀を求めるのも何だしな」


 ここで無礼と激怒する貴族もいるだろうが、ルメイルはどちらかというと温厚なタイプであった。


「クラマントがいる場所まで案内するのだ」

「わ、分かりました」


 私たちは使いの案内についていき、クラマントがいる場所へと向かう。


 クラマントは砦の外で兵士たちと一緒に訓練をしていた。

 かつてセンプラー城で見た、ただならぬ雰囲気を漂わせている男がいた。

 すれ違っただけであるが、不思議と顔を覚えていた。

 ベンのようにすぐに忘れてしまうような人間もいれば、クラマントのように強烈な印象を残す人物もいる。


 クラマントは兵士たちと剣を打ち合っていた。

 一対一ではなく一対五である。

 多方向から来る剣を華麗に捌ききっている。


 凄まじい剣術である。まだ鑑定はしていないが、適性Sであることは容易に想像がついた。


 しばらく打ち合って、数分後休憩に入るのか打ち合いを止めた。


「見事である」


 ルメイルがクラマントに話しかけた。


 クラマントは言葉を発さずに、ルメイルを見た。

 感情のこもっていない冷徹な目つきである。

 はっきり言って少し怖い。

 ただルメイルは怖じ気づくことはなく


「流石は名高いメイトロー傭兵団の団長だ。あそこまでの剣術は見たことがない」


 と言葉を続けた。


「俺は剣術はそう得意じゃない」

「それはおかしなことを。あれだけ使えて得意ではないと」

「得意なのは槍と弓だ。それも馬に乗っている時が一番だ。馬から降りての戦いはあまり得意ではない」

「苦手であれなら、得意だとどうなるのだ? 恐ろしい男だな」


 私もそう思った。

 嘘かもしれないので鑑定をしてみた。


 クラマント・メイトロー三世 30歳 ♂

 ・ステータス

 統率 91/95

 武勇 110/112

 知略 65/68

 政治 55/61

 野心 50

 ・適性

 歩兵 A

 騎兵 S

 弓兵 S

 魔法兵 D

 築城 C

 兵器 C

 水軍 C

 空軍 A

 計略 D


 帝国歴百八十年三月十日、サマフォース帝国ローファイル州バルカ郡バルカで誕生する。父親は死亡。母親は健在。リアリストな性格。肉料理全般が好物。訓練をするのが趣味。強い女が好み。


 なるほどすさまじい武勇だ。

 そして、剣が苦手というのもあながち嘘ではないかもしれない。

 騎兵と弓兵がどっちもSで歩兵がAだからな。

 Aで苦手というのもおかしな話ではあるが、クラマント基準では苦手と言ってもいいかもしれない。


 実力は申し分ないがリアリストな性格という事で、不利になったらすぐに逃げだすだろうが、それはクラマントに限らず傭兵はそうだろうな。

 とにかく能力は申し分ないのは間違いないので、信頼してもいいだろう。


「あんたは?」

「私はルメイル・パイレス。今回ロルト城攻めを任された男だ。協力してくれるという傭兵の顔を見ておきたかったのだ」

「ふーん、さっきの使いはあんたの部下か」


 貴族と聞いて特にひるむことないようだ。


「そうだ」

「そっちのガキは何者だ」

「私はアルス・ローベントと言う」

「名前は何でもいいが、俺を観察するような目で見るのはやめろ。気持ちが悪い」


 鑑定スキルを使っていることを感じ取ったりしたのか?

 そんなこと今まで誰に使ってもなかったんだがな。

 偶然かそれともこの男が常人離れした感覚を持っているのか。


 そのあとルメイルは一分ほど会話をしたあと、訓練を再開したので強制的に会話は打ち切られた。


「それで鑑定はしたのだろう? まあ、只者ではないことは分かっているが」

「はい、きっちり鑑定しました。武勇だけではなく、兵を統率することにも優れております。能力は申し分ないかと」

「ふむ、そうか。お主が有能であるというのなら、疑う余地はないだろう。あとはやる気があるかであるが……だがな」


 ルメイルはまだ心配であるようだ。

 傭兵としては食べるため戦わないといけないので、ちゃんと戦うとは思う。

 何か不利になるような状況なら別だが、兵数ではこちらが上だし心配はないと思う。


 そのあと、ルメイルの命令で出陣の準備を始めた。


 出陣する前に、私はファムにロルト城の情報収集を依頼した。

 それほど詳しい情報を収集するのではなく、敵の城に動きがあったかとか、どれだけの兵がいそうだとか、城はどんな感じなのかといった情報を集めてくるよう依頼した。

 斥候のような仕事を任せたため依頼料はかなり安い。


 これで敵の城の情報はどんどん入ってくるだろうから、不測の事態にも対応可能だ。


 そして出陣する日を迎えた。


「ロルト城の攻略は重要である。必ず成功させなければならない。我が軍は敵軍より数は優っている。有利な戦ではあるが決して気を抜くことなく戦うのだ。それでは出陣する!」


 ルメイルの号令でロルト城へ出陣した。


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