第106話 ベルツド進攻

 その後、サムク城で捕虜たちの処刑が行われた。


 凄惨な光景も戦が始まってから何度か見てきたので、少しは慣れて来た。


 これから貴族として生きていくには、いちいち動揺していてはやっていけないので、いいことではあると思う。だが慣れすぎて、人の死を軽く見るようになってはいけないとも思った。


 私はまずシャドーにベルツド郡の情報収集を依頼することにした。

 スターツ城周辺の情報ではなく、まずはその前にある要所の情報から集めさせる。

 サムクからいきなりスターツ城へ侵攻は不可能なためだ。

 ベルツド郡にはそれなりに防御力の高い砦が複数あり、油断をしていると大きく足止めを食らう可能性がある。

 スターツ城を侵攻するまでに落とす必要がある、砦、城の情報は全て集めておくことにした。


 それから予定通りサムク郡に残っていた勢力を制圧していく。


 残存勢力は少なくあっさりと制圧が終わった。


 こうしてサムク郡は完全にクランの手に落ちることとなる。


 いよいよ、ベルツドへの侵攻を本格的に行うため、クランは大軍を率いてサムク城を出陣した。

 当然私もその軍に参加している。


 サムクからベルツドを侵略するには、まずバルドセン砦という要塞を落とす必要がある。


 郡境付近にある砦で、ここを落としてベルツド侵略の足掛かりにする必要がある。


 ただこの砦もそう簡単に落とせる砦ではない。


 中々落としにくい構造な上に、守っている将が名の知れた優秀な者である。


 私たちは進軍の休憩中、本陣に集まり軍議を行っていた。


「正攻法で落とすとなると、多くの犠牲が出るかもしれんが、ここまでくればやむなしか……」


 クランはそう言った。

 現時点で兵の消耗を抑えてここまで侵攻してきたクラン軍。

 拠点を侵略すると、そこで戦っていた下っ端の兵士たちの多くは、侵略したものに従うので、兵の数は若干であるが増えているくらいだ。


 力攻めで攻め落とした場合、時間の浪費は抑えられるが、兵士は大勢消耗してしまう。


 兵士を失う事より、時間を稼がれる方が、今の状況では痛いとクランは考えているようだった。


「兵士は多少失ってもいいかもしれないが、バルドセン砦を力攻めで落とすとなると、魔力水を大幅に使用することになるよ。それはどうなんだろうねぇ」


 ミレーユがそう意見をする。

 力攻めとなると、この前のワクマクロ砦を落とした時のように、魔法で防壁に穴をあけて突入するというやり方を取るのが一番だ。


 ワクマクロ砦は魔法に対する備えが甘かったため、シャーロットの超人的な魔法力の前になすすべもなくやられてしまったが、今回のバルドセン砦はワクマクロ砦よりかは、魔法の備えがあるようである。

 必然的に落とすには何発も魔法を放つ必要があるが、そうなると魔力水を多く消費してしまう。


「私も魔力水の消費はなるべく抑えるべきだと思います。敵がどれだけ持っているのか分かりませんからね」


 リーツがミレーユの意見に賛同した。


「ふむ……魔力水か……しかし、力攻め以外で落とすとなると、どうするのだ。包囲をするのか? そうなると時間がかかりすぎるぞ」


 クランは眉をひそめながらそう言った。


「そうですね……バルドセン砦を守っている将は、なるべく時間を稼げと命令をされている可能性が高いですし、砦から出撃はしてこないでしょうからね」


 ロセルはそう予想した。

 包囲するとなると、敵が城から出てこない限りある程度時間がかかるのは間違いない。

 今回の状況ではやってはいけない作戦であると思った。


「力攻めでなく、包囲でもないとしたら……どうするのが最善だ?」

「そうなると、調略をするのが一番だろうな」


 調略。

 即ち敵をこちらに寝返らせるということだ。

 上手くいけば血を流さず、その上でかなり早く城を落とすことが出来る。


「……出来るのか?」

「さあ? やってみる価値はあると思うよ。相手からしたら劣勢だし、戦っても無駄死にするだけだと思っている者がいてもおかしくはない。まあ、だめだったら力攻めで落とすしかないね」

「そうであるな。やってみる価値はあるか……ではまずは調略を試みてみることにしようではないか」


 バルドセン砦の調略を試みることが決まり、次に誰が調略をするのか話し合うことになった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る