第105話 ベルツド城
ベルツド郡の最重要拠点のベルツド城にある議論の間。
「報告いたします! サムク城がつい先ほど落城いたしました!」
軍議をしている最中、その報告を兵士が伝えてきた。
「ば、馬鹿な……ワクマクロ砦は異様な速さで落ちたようだが、サムク城もこれほどまで早く落ちるだと……?」
報告を聞いたベルツド郡長、カンセス・バンドルは信じがたい気持ちで呟いた。
サムク城は堅城とまでは言わずとも、ワクマクロ砦より攻略し難い場所であり、さらに自身の従弟であるフレードルは能力は間違いなくある。
それなのにここまで早く落とされるとは、はっきり言って想定外の事態であった。
「そいつぁ予想外だなぁ……どうやって落ちたかとかは聞いているか?」
ベルツド防衛のためバサマークから派遣された、トーマス・グランジオンが兵士に尋ねた。
「いえ、とにかく落ちたと聞きましたが、方法までは……」
「そうか。まあ、もうちっとしたら、具体的な報告も来るだろうが……たぶん、敵に有能な密偵がいるんだろう」
「密偵?」
「そうじゃないとこんなに早く落ちちまうのはおかしいですからね」
「フレードルは密偵に対して備えをしていなかったのだろうか?」
「してたとは思いますが、不十分だったんでしょーね」
「むう、ならば我々は密偵に対する備えは、今以上に厚くしなければならないな」
カンセスは渋い表情でそう言った。
「……ところでフレードルはどうなったのだ? まだ生きているのか?」
「敵軍に捕らえられたと聞いております。もしかしたら処刑されたかもしれません」
「そうか……」
「いざという時は人質としても使えそうですし、殺さない可能性もあると思いますがね」
トーマスから生きているかもと言われて、少しカンセスはホッとする。
従弟であるフレードルが死ぬのは、彼にとって心苦しいことであった。
「トーマス。敵はこれからどう動いてくると思う?」
「普通に考えたら、速攻でスターツ城まで落としに来ますよ。あそこを取れば、敵方は相当有利になりますからね。これだけサムク城が早く落ちるという事をこちらが想定していなかったということは、敵も分かっているでしょーからね。準備をし終わる前に落としておきたいと思うのは当然のことだと俺は思いますね」
「それならば、こちらとしては一秒でも早く、兵の準備をしなければならない」
「そうですね。でも、敵が俺の言った通りの戦略で来るんなら、割と何とかなりそーではありますがね」
「どういうことだ?」
「無理に行軍速度を速めると隙が出来やすくなるから、奇襲が成功しやすくなるんです」
「そうか。お前の得意戦術は奇襲だったな」
「クランの命を取るまでは難しくとも、補給線を断って敵軍の進軍を大幅に遅らせることは可能だと思いますね」
「やはり頼もしいなお前は」
サムク城が早く落ちすぎたことで、ここがどうなるかかなり不安になっていたカンサスであったが、トーマスの話を聞いて少し希望を見出してきた。
「敵がスピード重視で来るとは限りませんから。それに俺の特技が奇襲だってことは知っている奴もそれなりにいますし、警戒されている可能性もある。そうなると普通に侵攻してくるか、またまた何か策を練ってくるか」
トーマスは少し考え込む。
「とりあえず今やるべきことは、密偵に対する備えを万全にすること。前線の城に兵を送り、戦いの準備を急がすこと。あとは今後の情報次第です」
「そうだな。早速他の城を守っている将たちに急ぎ書状を送ろう」
カンサスは急いで書状を書き始めた。
内容はサムク城が落ちた事、戦いの準備をすること、密偵に対する備えを万全にすること、敵軍の情報を掴んだら、逐一こちらに報告すること、などである。
数では劣るベルツドの防衛戦が始まろうとしていた。
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