第107話 調略

「調略するとして、誰を説得に行かせるのが適任であろうか?」


 クランがそう尋ねた。


 貴族達が次々に自分が行くと名乗り出る。

 バルドセン砦を守る将と、知り合いだという貴族も何人かいたため、その者たちに任せると思ったが、


「アタシは坊やを推薦するよ」


 とミレーユが何故か私を交渉相手として、クランに推薦した。


「なぜ私だ?」

「いや、坊やは結構交渉事上手いと思うけどね。それに能力で相手が望むものが分ったりするんじゃないのかい?」

「そこまで便利な能力ではない」


 敵将の野心は測れるので、裏切る可能性が高いかどうかは測れるかもしれない。

 野心が高ければ、大きな餌をちらつかせれば飛びついてくるだろうからな。


「アルスは我が軍でも欠いてはならん人材だ。交渉に行かせて危険な目に遭わされる可能性がある」

「それはどうかね。普通はまず最初に、敵将に会談をしたいという旨を書いた、書状を届けるだろ? それを相手が受けてきたら会談スタートという流れになるはずだ。会談するということは条件次第では、寝返ってもいいという事。それで相手を斬るなんてマネはそうそうしないと思うけどね」

「万が一という事もある」

「万が一を考えてるなら、坊やはそもそも戦場に出てくるなという話だけどね」

「む……」


 相変わらず口は上手いためクランを言いくるめてしまう。

 怒らせていないか胃が痛い。

 そんなに口が上手いならお前が行けばいいだろうと思ったが、相手を怒らせるだけ怒らせて終わりになってしまいそうである。


「アルス、お主はどうしたい?」


 クランが私に意思を尋ねてきた。


 どのくらい危険があるか分からないが、ミレーユのいう事も間違っているとは思わない。

 ここで調略に成功したら、大きな手柄になるのも間違いないし、報酬として金を貰えるかもしれない。金はいくらあってもいいものだ。


 問題は私に出来るかどうかだな。


 正直自信はない。

 失敗したらクランの評価は下がるだろうが、それよりも私の失敗でベルツド攻略が遅れてしまうというのが痛い。

 戦になるべく早く勝利をするという目的を考えると、手柄を欲して出来もしないことをやろうとし、攻略を遅らせるのは良くないだろう。


 ここは敵将の知り合いに任せた方がいいとも思ったが……

 しかし、よく見てみると、知り合いを名乗る者たちは、武勇は高いが政治力は低い者たちばかり。


 果たしてこの者たちに任せていいのかとも、疑問に思う。


 政治力の高い者はロビンソンなどいるので、私が行かなくてもいいが……

 鑑定スキルが調略の役に全く立たないというわけでもない気がするので、ロビンソンや知り合いの貴族を行かせてそれに私も同行するという形がベストであるという気がした。


「行く気はありますが、私一人では達成できるか分かりません。ロビンソン殿や、敵将とお知り合いの方と一緒に行かせてくれれば、成功できるかもしれません」

「ふむ、ロビンソンらの力を借りたいとな」


 クランが少し考える。


「ロビンソンとお主を行かせると、成功率は高そうではあるが、失敗したときの痛手は大きいな……まあ、知り合いの者を行かせれば、斬られる可能性は減るか。まあ一応私から手練れを護衛として付けておこうか」


 クランはその方針で行くことに決めたようだ。


 それから一度書状をバルドセン砦に送った。


 書状を届けに行った使者が斬られたとなれば、もはや力押しで何とかするしかないが、使者は戻ってきた。


「バルドセン砦のリューパ殿は会談に応じるようです」


 そう使者は報告をした。



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