第98話 処刑

 私は捕虜の鑑定を行う。


 捕虜の数は約五十名。

 多少目が疲れたが、何とか全員分終わらせた。


 結果、リーツやシャーロットのようにとんでもない能力を持った者はいなかったが、それなりに優秀な人物が五人いた。


 その中で、クランに忠誠を誓う気のないものは三人。

 この三人は縛られたまま、堅い牢があるクランプレス城に移送された。

 忠誠を誓う者は、そのままワクマクロ砦の護衛兵の一人として組み込まれるようである。


 忠誠を誓わず、その上、能力もあまり優れていないのは二十人である。


 最初は三十人が忠誠を誓わない姿勢であったが、説得したことにより十人の気を変えることが出来た。残りの二十人は説得不可能なくらい強固に反クランの態度を貫いたため、処刑されることが決定した。


 二十人が頭を台に乗せて並べられる。

 それから斧を持った処刑人も、二十人の捕虜の近くで斧を構えている。


 私はこの処刑を見ないなら見ないで特に咎められることはないのだが、見ることに決めた。


 自分が選別しなかったために、死んでいく者たちの死から目を逸らすことが出来なかったからである。


 以前処刑は見たがあれは一回だった。それも処刑されたのは罪を犯した罪人だ。

 今回処刑するのは、味方に忠誠を誓う誠実な人たちと言ってもいい。

 正直心苦しかった。


「やれ」


 クランの合図で、処刑人が捕虜たちの首に斧を振り下ろした。


 首が落ち、鮮血が周囲に飛び散り、地面を赤く染め上げた。


 私はその光景から目を逸らさず見続けた。

 今回は吐き気はしなかった。慣れてきたというのもあるが。


 ただただ、捕虜たちが死んでいくのを哀れに思った。

 まだ二十歳にも満たない若者もいた。

 戦になり死ぬ覚悟はしていただろうが、それでも彼らにはまだ未来があったかもしれないのにと思うと、悲しみが胸からこみあげてきた。


 せめて彼らにも私と同じように転生し、二度目の人生が与えられるよう祈りをささげた。





 死体を片付けた後、クランは主要な人物を集めた。

 早速軍議を行うようである。


「さてワクマクロ砦を落としたので、次はこの勢いでサムク城を落とす。サムク城さえ落とせば、サムク郡は制圧したも同然だ」

「あの少しいいですか?」


 私は手を上げる。


「申せ」

「次の城ですが私の知っている密偵傭兵の力を使いませぬか? 事前に工作をしておけば、容易く城を落とせるかもしれません。まだまだベルツドまで戦っていく必要があります故に、少しでも兵と資源は温存してサムク城を落とした方がいいと思います」

「ほう。お主の知っている密偵傭兵とは、以前ペレーナ郡から書状を盗んできた者達か? 確かに凄腕であることは間違いないだろうし、悪くない作戦ではあるな」

「はい、しかし依頼料金が結構かかりまして、金貨二百枚は必要となるかもしれません。私には払えないので、クラン様に融通していただけないかと……」

「そのくらいなら出しても問題はない。その者たちには実績もあるし、お主の見る目も信用しておる。必ず戦果を挙げると期待しておる」


 金貨を払って貰えることになった。


 これでシャドーの力を借りれるな。

 サムク城の情報はまだ聞いてはいないが、ワクマクロ砦よりかは恐らく落としにくい城だろう。


「どういう工作を行うか、本人の口から聞きたいため、軍議の場に呼び寄せたいのだが出来るだろうか?」

「えーと、なるべく自分の正体を知られたくないようで、軍議の場に呼ぶのは難しいかもしれません」

「ふむ……まあ、密偵としては当然ではあるが……では交渉はお主に任せた。私としてはサムク城の門を開けることと、それから城にある魔法罠の解除、魔力水を集めている貯蔵庫の破壊などをしてもらえると、相当落とし易くなるだろう」

「魔力水の貯蔵庫は破壊してもいいのですか? 物資は城を落とせば我が軍の物として利用できますが」

「物資は大量にあるから問題ない。落とす難易度を下げる方が大事である」

「分かりました。それでは私が交渉しましょう」

「軍議はこれで以上だ。あとは、傭兵密偵がいつまでに工作を完了させるかなどの情報を聞いてから、出陣の時期を決める」


 軍議が終わり解散する。

 それから私は、ファムと依頼について交渉を開始した。

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