第97話 捕虜

 ファムを連れて砦に戻る。


 完璧なメイドっぷりに疑いを持つ者はいなかった。

 ちなみにメイドになっている間は、リンと呼べと言われた。


 正体を知っているはずのシャーロットも、


「あんなメイドさんいたっけ?」


 と完全に騙されて聞いてきたくらいだ。

 ファムであると説明すると、そもそもファムの存在を忘れていた。最初に会ったのは忘れ去ってしまうほど前の出来事ではないと思うのだがな……


 ロセルは当然覚えていた。


 そして知らないはずのミレーユだが、


「あれ? リンちゃんじゃん」


 とファムを見てそう呼んだ。

 そういえば、ミレーユはファムの紹介で私の下に来たのだったな。

 リンという名前は、変装するとき名乗っている名前なのだろう。

 ミレーユの様子だと、ファムの正体に気づいてはいないのだろうか。

 まあ、ある程度察しはついているだろうがな。

 私も腕利きの密偵傭兵と契約を結んでいるという事は、ミレーユには話しているからな。


「あ、お久しぶりですミレーユさん」

「君のおかげで無事仕官できたよ」

「おめでとうございます~」

「ありがとう。メイド服も似合うね。食べちゃいたいくらいだ」


 その場でファムの正体を指摘するような事はせずに、世間話だけをしている。


 そのあとミレーユは私に近付いてきて、


「ところであの子は、どれだけ腕のいい密偵なんだい?」


 と小声で話かけてきた。

 やっぱり流石に気づくか。


「腕利きなのは確かだ。城に潜入して書状を盗んできた実績がある」

「ふーん、リンちゃん、っていうのかどうかしらないけど、彼はどんな役目の子なの?」

「リーダーだが」

「あの子がリーダーなの? まだ子供だよね」

「ああ見えて実年齢は二十二歳だ」

「へー、そりゃぁ驚いたね。性別が男ってことは分かったけど、年齢までは分からなかったよ」

「男とは分かったのか?」

「ああ、大体見れば分かるだろ?」


 いや、私も鑑定スキルを使うまでは、女だとしか思わなかったのだが……

 鑑定した後も男であると分からなかったくらいだ。もっと言うと今でも少し疑っている。直接証拠を見たわけではないからな。本人の口から男であると言われて、さらに鑑定で男であると出ても、まだ疑うほど完成度の高い女装だからな。


 それを見破るとは……

 ミレーユももしかして、女装している男だったりするのか?

 正直女らしさはあまり感じない奴だしな。


「あんた今失礼なこと考えなかったかい?」

「か、考えてないぞ」

「ならいいけど」


 ミレーユに睨まれて、私は慌てて否定した。


「しかし、あの子が見事サムク城の工作に成功したら、あっさり落ちるだろうね。数で負けている上、城を開城されたらもはやどうしようもないだろう」


 何だかそういうミレーユは面白くなさそうな表情をしていた。


「不満か?」

「そういうわけじゃないがね。もっとこうビリビリ来るような戦がしたいと思っているだけさ。ベルツドまでは退屈しそうだねぇ」


 ミレーユはそう言ってあくびをした。

 どうやらサムク郡は簡単に落ちすぎて、逆にやる気を失っているようだった。

 いざという時、やる気を出してくれればいいが、何とも心配になってくる態度だ。


 それから数日砦で過ごし、陥落の報告を受けたクランがやってきた。



「よくやったぞ、兵の犠牲をここまで少なく落とすとは、天晴である!」


 クランは砦に到着したのち指揮をしたルメイルを褒め称えた。


「アルス、お主もよくやった。ルメイルを手助けしたのだろう」

「いえ、私はほとんど何も出来ておりません」

「ハハハ、謙遜するな。お主の家臣であるシャーロットなど、凄まじい活躍だったと聞くではないか!」


 確かに今回のシャーロットの働きは大きかった。

 防壁をあっさりと破壊したからな。後に聞いたがいくら魔法に対する防衛力が弱い防壁でも、あそこまで早くは壊れないらしい。というか、普通の防壁でも一撃で壊すことは、まず不可能だとか。

 あそこまで早く防壁を壊したのが、敵を混乱させた大きな要因となったので、今回の一番の戦功は、シャーロットにあると言って、間違いないだろう。


「クラン様、今回捕縛した敵の兵はいかがなさいますか?」


 ルメイルが質問した。


「ふむ、出来れば全員我が軍の兵として戦ってもらいたいが……まあ、忠誠を誓えぬ者もおるだろう。その者はここで首を刎ねるしかあるまいな」


 クランは予想していた通りの、捕虜の扱いをするようだ。


 実は私は捕虜の鑑定を行っていなかった。

 能力のあるものが処刑される定めになってしまった場合、必死に助命してクランから評価を落としかねないと思ったのだ。

 それこそ信長級の有能人物がいて、その者が処刑される定めにある場合、冷静でいられる自信がない。

 命の重さに才能は関係ないので、こんな考え方は本来間違っているのだと思う。だが、それでも才能があるものが殺されるのは耐えがたく思ってしまう自分がいる。


 助かることが決まった人間だけ、鑑定するつもりだった。


「アルス。お主、捕虜たちの鑑定はしてみたか?」

「まだでございます」

「ならばやってみるがよい。才あるものを殺すのは忍びないからな」


 クランはそう言った。

 才能があれば忠誠を誓わない者でも一応命を助けるつもりなのか。

 野に放ったら一層危険なので、牢に閉じ込めて気が変わるのを待つというやり方にするのだと思う。


 しかし、そうなると私が才能なしと判断した人間は、殺されるという事になるのか。

 それはそれで心苦しいな。

 でもそれが残酷ではあるが合理的なやり方なのかもしれない。

 嘘を吐いて全員才能ありと言ったら流石にばれるだろうから、ここは情けをかけず本当の事を言おう。


 私は鑑定スキルで捕虜たちを鑑定した。



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