第96話 依頼変更

「久しぶりだな」


 私はリーツと共に城の外に出て、ファムに会いに行った。

 ファムのいた場所は城から少し離れた場所である。ファム一人で来たわけではなく、伝令用に置いておいた家臣と一緒に来ていた。彼がリーツにファムの来訪を伝えてくれたようだ。


「ベルツドに行くようお願いしたのだが、何か不都合でもあっただろうか?」


 早速、私は本題を切り出した。


「当然ある。依頼内容を大きく変更するのなら、人伝でなく直接聞いておきたい。伝達ミスが起きた時、非常に困るからな」


 なるほど。

 確かに人伝で情報収集する場所を変えるよう指示するのは、少しまずかったかもしれない。そこまでファムと私とでは付き合いが長いわけではなく、強い信頼関係を構築できてもいない。


 私はベルツドへの侵入を依頼しようと思ったが思いなおす。


 ベルツドが一番難関な城であることは確かであるが、それまでもいくつか城はある。今回みたいに全ての城が簡単に落とせるとは限らない。


 ほかの城を落とすのにも、シャドーの力は使えるかもしれない。


 例えば城の中の魔法罠を事前に解いてもらうとか。

 城の門を開けるとか。城の兵に毒を盛るとか。

 兵糧庫に火をつけて、籠城できなくするとか。


 シャドーの力ならもしかしたら、色々やれるかもしれない。


 私は自分の考えをリーツに話してみた。


「なるほど……いいと思いますよ。確かにシャドーの力を借りれば、城の攻略を早められそうですしね」


 リーツは賛成のようだ。


「まあ、でもシャドーが戦の城攻めに役に立つようなことがどれくらい出来るのか、それは分かりませんけど」

「そうだな。聞いてみよう」


 私はファムに城の攻略に役立つ仕事が出来るか、尋ねてみることにした。


「シャドーは城に潜入して魔法罠を解いたり、城の門を開けたり、戦をする際に、役に立つようなことは出来るか?」

「どっちかというと、それの方が得意分野だな」

「そうなのか」

「まあ、人によって何が得意かはあるんだが、オレの得意分野は潜入してからの破壊工作活動だ」


 それなら戦でかなり活躍してくれそうだな。


「ただ、情報収集より依頼料が高額にはなるがな。出せるのか?」

「いくらだ?」

「一回の侵入に付き、最低金貨二百枚は貰う。命懸けになるから当然だな」

「私が払うのは無理だな……クラン様なら払えるだろうが」

「お前の大将か? まあ、払うのは誰だっていいさ」


 クランにファムの話をする必要があるようだな。

 私の鑑定に信頼を寄せているクランなら、たぶん払ってくれそうだが。


「ベルツドに行くって話はいいのか?」

「ああ、依頼内容は変更する。これから城を攻略していくから、必要になったらシャドーの力を借りたい。しばらくは軍に同行してくれないだろうか?」

「分かった」


 ファムは軍に同行することになった。

 ほかのシャドーの団員も来ているようだが、団員たちは軍に同行せず後ろから軍を尾行するようである。必要になったらファムが招集するようだ。


 ちなみにファムは私の近くに常にいることになるようで、私の付き添いのメイドという事になるらしい。主人が心配で心配で急いで駆けつけてきたという設定にするようだ。


 気づいたらいつの間にか、ファムはメイド服姿になっていた。一体どこにメイド服など持っていたのか全く不明である。そもそも、この話をする前はメイド服に着替える予定などなかっただろうに、何で持っていたんだ。


「変装道具は常に持っておくものだ」


 表情で私が疑問に思っているのを察したのか、ファムはそう言った。


 私たちはメイドになったファムを連れて、砦に戻った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る