第92話 降伏
クランの指揮の下、私たちはアルファーダ郡へと侵攻した。
アルファーダ郡の郡長が住んでいる本拠地は、クランプレスと呼ばれる地域にある。元々はアルファーダ郡のアルファーダに郡長が住んでいたようだが、クランプレスの方が色々と都合がいいという事で、本拠地を移したようだ。
本拠地は移ったが、アルファーダ郡という名前自体は変わらなかったようである。似たような郡はいくつか存在する。
アルファーダ郡へは、まず関所を難なく落として郡内に侵攻する。
まともな戦いは起こらなかった。
関所の兵士たちも、こちらの軍勢を見てあっさりと降伏し関所を開いた。
あまり忠誠心の高い兵士たちではないようである。
関所を抜けて大軍勢でそのまま進軍する。
進軍途中、アルファーダ郡長から使者が届いた。
どうやらこちらの兵を見て、さらにパラダイル州が出兵したということで援軍は期待できないという現状を知り、降伏したいようだ。
ただし無条件での降伏ではないようで、降伏した後もアルファーダ郡長の地位を剥奪しない、という事を条件とした。
一度向こう側に付いておきながら、それは少し虫が良すぎるという意見も多く出たが、ここで申し出を断るとアルファーダ郡長を無傷で手に入れるチャンスを失う上に、ほかの郡も降伏できなくなるだろうから、ここはアルファーダ郡長の申し出を受けるとクランは決断したようだ。
結局ほとんど戦う事なく、アルファーダ郡を落とすことに成功した。
初陣の心構えを決めて、出陣をしたというのに私としては肩透かしを食らった気分だ。
アルファーダ郡を落とした後、降伏勧告の書状をベルツド付近の全ての郡に送り、降伏を促した。今降伏すれば、郡長のままでいられるという事を書いた書状である。
ムタという郡が降伏を伝える使者を寄越してきた。
ほかの郡はどうやらまだ降伏する気はないようである。
ムタ郡と、アルファーダ郡にいた兵士たちも、軍に加わり八千人ほど兵数が増加した。
そしてクランプレス城の軍議の間。
有力な貴族たちが一堂に会し、軍議を開始していた。
一応私やリーツ、ミレーユ、ロセルも軍議に参加しているが、相変わらず視線が痛い。
まあ、以前にも軍議参加はしていたため、文句を言ってくるものはいなかった。
「さて、次はサムクの攻略であるが……ここは簡単に降伏はしてくれないだろうな。サムクの郡長はベルツド郡長の従弟であり、結束が固い。ベルツド郡長はバサマークの義理の弟であるので、ここも結束が固く裏切りは考え難いだろう」
話によればバサマークの妻の弟が、ベルツド郡長であるようだ。
「この大軍でかかれば、敗北は万に一つもないだろう。しかし、予想以上の抵抗をされる可能性もある。兵を無駄に失うのは避けなければならない。慎重に作戦を練って攻めようではないか」
軍議は進み、奇襲をするだとか、サムク郡長は寝返らないがその家臣は分からないので、家臣を調略するだとか色々と案が出る。
しかし、サムク郡は家臣団の結束が固く、簡単には調略は出来ず、奇襲は失敗した場合のリスクが大きく、普通なら不利な方がやる戦法で数で大きく勝るこちら側がやるようなことではないと、どちらも却下される。
「敵の狙いは何かを考えるのが大事であると思います」
ロセルが発言をした。
「敵は恐らく戦の勝利を狙っては来ません。時間稼ぎをしてくるはずです。現状は著しく不利な立場でありますが、時間が経てばサイツの情勢が改善したり、アルカンテスがパラダイルの兵を追い返し、援軍に来れるようになるかもしれないなど、不確定ながら有利になる可能性がありますからね」
「ふむ、確かに私でもそうするかもな。勝とうと思って勝てる差ではない。よほど追い込まれているのなら、奇襲も考えるだろうが、時間を稼げば光明が見えてきそうであるこの情勢ではその作戦もありだろう」
クランがロセルの意見に同意した。
「それで時間稼ぎに有効な戦法というと……まあ、現代だと魔法を使うのが得策だろうな」
「はい、罠系の魔法を多く仕掛けて、混乱させようとしてくるでしょう」
魔法には色々種類がある。
罠系は仕掛けた場所に、誰かが通ったりすると発動する魔法だ。
罠がある場所を探し出す特殊な訓練をした兵に探し出させることで、事前に防ぐことが出来る。
「もうすでに罠はだいぶかけられているでしょうね。当然、罠に引っかからないよう慎重に進まないといけませんが、あまり時間をかけすぎてしまうと、さらに多くの罠を配置され、物凄く攻め込み難くなってしまうでしょう」
「なるほどな……まあ、だが罠魔法に関する備えは十分にしてある。ほぼすべての罠解除兵を動員しようではないか。軍の進軍ルートにある罠を素早く解除していきながら、進軍をしようではないか」
それから具体的に誰を先鋒にするだとか、どういうルートで進軍するだとか色々話し合ったあと、軍議は終了した。
そして翌日、サムク郡への侵攻が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます