第91話 アルカンテス城②
「申し上げます! パラダイル州総督、マクファ・サーカシアが州境を越え、侵攻してきました! 兵は三万はいるとの報告です! 現在ルンド郡のメンファをあっさりと落とし、ルンド城へと進軍している模様です!」
アルカンテス城、議論の間。
軍議を行っている最中にその報告が飛び込んできた。
バサマークはその報告を耳にして、普段あまり変えないその表情をわずかに変化させる。
バサマークの腹心のトーマス・グランジオン、知将リーマス・アイバスら、議論の間にある円卓に座っている、バサマークの家臣たちは、全員その報告を聞いて驚いた表情を浮かべていた。
「それは真か?」
バサマークが報告してきた兵士に尋ねる。
「は、はい……どうやらマクファはここアルカンテスを目標に進軍しているようです……何やらバサマーク様を皇帝陛下の敵であり、それを討つべく出兵をしていると……」
「私が皇帝陛下の敵である……か、まあ、あながち間違いではないが……」
バサマークが呟くと、さらにもう一人兵士が議論の間に駆け込んできた。
「報告いたします!! クランがセンプラーからアルファーダ郡へ侵攻しました! 兵数は五万を超える大軍の模様です! すでに関所を難なく落とし、アルファーダのクランプレス城へと進軍をしております!」
その報告を聞いた議論の間は静まり返る。
これはとんでもない事態になったと、その場にいた全員が悟った。
「クランとマクファが同盟を結んだようですな……何とも厄介な事態になったようで」
リーマスが眉をひそめながら呟いた。
「悠長に言っている場合ではねーですぜ。サイツ州はどうなってるんですか?」
バサマークにトーマスが尋ねた。
「サイツからの連絡は騒乱が起こってから途絶えておる。もはや援軍には期待できまい」
「そうっすよねぇ……こんな時に、頼りにならねー奴らだぜ」
トーマスはため息を吐いた。
「しかし、パラダイル州と同盟とは…………皇帝へ仲立ちを頼んだようだが……それでも難しいと思っていたが可能にしたとは……予想外であるな」
「なってしまったものはしかたないですぞい。それよりも、対策を考えないといけませんなぁ。敵の狙いは間違いなくベルツドじゃろう。ここを落とされれば、甚だ不利となってしまいます。ベルツドを落とすには、最低でも二つの郡を落とす必要があります。アルファーダ郡と、サムク郡の二つですなぁ」
「ベルツドとベルツド付近の兵は総勢約三万。恐らく敵はほぼ全軍で向かっているだろうから、八万はいるだろうな。本来なら防御が薄くなったセンプラーを落とすなどの作戦を取りたいところであるが、パラダイル州が攻めてきているとなるとそうもいかん。数的にはこちらより少ないが、パラダイル州は強兵であり、少しでも隙を見せると、ここが落とされかねん」
「アルファーダの奴らは状況を知ったら速攻で降伏するでしょうね。あそこは利がありそうな方へ付くって考え方ですから、少しでもこちらが不利になりそうだと分かりゃ、速攻で寝返るだろう。サムクはバサマークへの忠誠が厚い。簡単に寝返るとも思えないが、如何せん兵数がいないうえに、城も古く堅牢ではないからなぁ」
バサマーク、トーマス、リーマスは現状の分析を開始する。
どう考えてもあまり良い状況とは言えない現状に、どうするのか色々な意見が出るが、効果的と言える案は出て来ない。
「結局、兵数に劣る状況で、何とかベルツドを防衛する以外手はないように思えますなぁ」
リーマスがそう呟く。
「……トーマス。お主はベルツドまで行き、指揮に加われ。劣勢であるがお主の手腕で持ちこたえてみせろ。時間を稼げばいずれサイツでの騒乱も収まり、我らにもチャンスが生まれるはずである」
「分かりました。ぜってぇクランの奴に吠え面をかかせてやりますよ」
バサマークはその後、ベルツド郡長へ宛てた書状を書き、それをトーマスに持たせ、トーマスはベルツドへと出発した。
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