第90話 進軍開始

 私たちは兵を引き連れて、カナレへと向かう。


 到着したときにすでにある程度兵は集まっていた。


 まだ集まっていない兵がいる。

 しばらくのあいだ待機することになった。


 この時間を利用してやるべきことを済ませることにする。


 シャドーへの依頼内容を変更したいと思っていた。


 戦の際には、シャドーの力を借りたくなる局面があるかもしれない。

 城を落とすときなど、かなり役に立ってくれそうだ。

 そのため、一度アルカンテスから引き上げて、ベルツドの調査を行って欲しいと言伝を頼んだ。

 報酬はアルカンテスを調べるときと同じである。


 あと、情報を伝えに来る場所をトレンプスにしたのでは、情報伝達に時間がかかりすぎるので、最初はセンプラー付近で情報を貰うことにした。

 そのあとは、状況次第で情報を貰う場所は変えていくつもりだ。


 カナレには、シャドーから情報を貰う家臣を置いている。

 ベンが来たら、依頼内容の変更と、それから情報を貰う場所をセンプラーに変更するよう頼んだ。


 いつベンがセンプラーまで来るか分からないし、その時、私はセンプラーにいない可能性もあるので、情報伝達役の家臣に、ベンに情報を伝えたあとは急いでセンプラーに向かい、同じ仕事を務めるよう指示を出した。


 それから数時間後、トルベキスタ領主ハマンド・プレイドとクメール領主クラル・オルスローも、兵を率いてカナレへとやってきた。


 トルベキスタとクメールは、ランベルクより領地も広く人口も多いので、兵の数もランベルクより多い。


 と言っても、ハマンドが率いている兵が三百五十人、クラルが率いている兵が二百五十人くらいと、そこまで大きな違いはない。


 今回集まっている兵は、ほとんどがカナレの兵で、四千人はいるようだ。

 カナレ郡の兵をすべて合わせると、約四千八百人いるということになるな。


「皆の者!! よく集まった!!」


 ルメイルが兵たちの前に出て、大声を張り上げる。


「今、ミーシアンの州都アルカンテスは、逆賊バサマークの手に落ちている! それを奪還するため我々は、クラン様の軍に参加し、バサマークを討つための手助けを行う! 今回の戦では敵方に付いているミーシアンの大都市の一つ、ベルツドを占拠する! ベルツドを占拠すれば、アルカンテスを攻め落とすのも容易になるだろう! では出陣だ!!」


 オオー!! と兵たちの雄たけびが上がった。


 五千人近い数の兵の雄たけびである。

 かなり大きな声となり、響き渡った。


 ルメイルの指揮で、我々はセンプラーを目指して行軍を始めた。



 〇



 数日間、行軍を続けて、四月十八日センプラーに到着する。


 センプラーにはすでにすさまじい数の兵が集まっていた。


 話によると現時点で六万人はいるようである。


 ここからさらに一万人は来るようだが、進軍開始予定の明後日には間に合わなそうである。来なくても待つことはしないだろうな。


 全軍で十万人いる。

 残りの兵は防衛と、取られた要所の奪還に使用する。


 しかし、これだけの兵が戦をするのか……


 緊張感が私を襲ってきた。

 どれだけ大規模な戦になるだろうか。

 パラダイル州がアルカンテスを攻めるのは、あと二日後である。

 家臣たちがいる前でみっともなく取り乱すことは、絶対にできない。


 どんな光景を見ようとも、心を強く保つよう覚悟を決めた。


 そしてその二日後、四月二十日。


 パラダイルがアルカンテスに向けて侵攻したという情報がもたらされた。


「機は熟した!! 今からアルファーダ郡へ侵攻を開始する!!」


 クランの号令と共に、大軍勢がアルファーダ郡へと進軍を始めた。


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