第89話 書状を届ける

「ア、アルス様!! おかえりなさいませ!!」


 屋敷に帰ると慌ただしくリーツが駆けつけてきた。


 私が帰ったという報を聞いて、急いで屋敷の玄関まで来たのだろう。


「ただいま戻った。リーツ苦労をかけたな」

「いえ、アルス様こそよくぞご無事で……早速アルス様の帰還を祝うパーティーの準備を……」

「待て待て、パーティーをする必要はない。すぐにカナレへと向かわなければならないからな」

「カナレへですか?」

「ああ、クラン様からの書状を届けに行く必要がある。明日、出発するつもりだ」

「そうですか。まあ、パーティーはしないにしろ、アルス様の久々の帰還です。いつもより、豪華な料理を用意させましょう」


 リーツは急いで屋敷の料理人に指示を出しに行った。


「リーツ君、わたしも帰ってきているというのに、アルス様しか見ていなかった。このわたしを無視するとは、何と失礼な態度だろうか」


 シャーロットが頬を膨らませる。

 確かにリーツはシャーロットとシンは、全く気にしていなかったな。


 特にシンなんかは新顔なのに、全く気付いていなかった。

 よほど私が帰ってきてほっとしたのだろうか。


 ……そういえば、シンは帝都の人間だったな。

 帝都ではマルカ人差別が酷いと聞いたが、シンはリーツを見てどう思ったのだろうか。


「ここがランベルクの屋敷か。まあ、弱小貴族って話やし、こんなもんか」


 若干失礼なことを呟いているが、リーツの事を気にしている様子はなさそうだった。


「なあ、シンは、リーツ……さっきのマルカ人の男を見て、悪感情を持ったりしないのか?」

「マルカ人? ああ、そういえばそうやったな。確かに貴族の家におるのは珍しいかもな。まあ、でもわしは飛行船が作れればええから。あんたが誰を家臣にしておろうが全く関係ないことや」


 どうやら、シンは飛行船以外のことに異常に興味が薄い人間のようだった。


 その後、ロセルやミレーユとも再会した。


 二人は少し仲良くなっていたようだった。

 お土産を全員に渡す。


 それから夜になり、いつもより豪華な食事を取った。

 帝都がどんな場所であったかなど、皇帝はどんな人だったかなど色々聞かれた。


 ランベルクで私がいない間、何か有ったのかも聞いたが、これと言って変わった出来事は起こっていなかったようで安心した。

 シャドーからの新しい情報も今のところは入ってきていないようである。


 翌日、クランから受け取った書状を持ち、カナレへと向かう。


 昼には到着した。


 カナレ城に入り、ルメイルと面会する。


「アルス、よく来たな。クラン様からの命は無事に終わったのか?」

「はい。交渉は成立いたしました」

「おお! そうであるか! そうなるとクラン様が断然有利になったな! それでその書状は、もしかすると、出陣の要請か?」

「流石ルメイル様、その通りでございます」


 私は書状をルメイルに渡す。


 ルメイルはその書状を読んだ。


「やはりな。今はサイツがこちらに攻めてくる可能性はまずないだろう。サイツで騒乱が起きていたことは、この私がいち早く情報を掴み、クラン様にお伝えした。どうも有力な貴族がサイツ州総督に反乱を起こし、それに呼応して複数の貴族が反乱を起こしたようだ。ほかの州へ兵を差し向ける余裕などないだろう」


 詳しい状況はここで初めて聞いたが、そんなことになっていたのか。

 サイツ州の総督はあまり有能な人物では、ないかもしれないな。


「一度カナレ郡内の兵を、ここに集結させ、それからセンプラーへと向かう。今が四月一日だから、四月二十日に間に合うかは微妙ではあるな。とにかくお主は急ぎランベルクへと戻り、兵を従えて再びここにくるのだ」

「承知しました」


 命令を受けて、私は急いで屋敷へと戻る。


 屋敷に到着したら、兵たちに急ぎ準備をするよう命令した。


 今回はリーツ、シャーロット、ミレーユ、ロセルは連れていくつもりだ。

 シンは屋敷に残す。

 戦が終わるまで、自分の飛行船の理論が完全に正しいのか、見直し作業を行うらしい。


 屋敷の方が少し心配ではあるが、私が生まれる前からローベント家に仕えている家臣も何人かいるため、任せることにした。


 今のローベント家が出せる兵の総数は、200である。


 以前よりは増えているが、まだまだ少数なのには変わりはない。


 私は兵たちを率いて、カナレ城へと向かった。



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