第88話 ランベルクへ

 帰還した私たちはクランの家臣たちから迎えられた。

 クランが私たちを労うため、直々に会いたいという。


 私はレング、テクナド、リシアと共にクランに面会した。

 シンとシャーロットは別の部屋で待機している。


 最初レングとテクナドに労いの言葉をかけたのち、褒美を渡した。

 あまり褒められ慣れていなかったのか、レングはかなり嬉しそうにしている。


 そのあと、私とリシアに、


「よくぞ戻ってきたアルス、リシア。交渉が成立したということは聞き及んでいる。中々の働きであったようだな。リシアとアルスに褒美を取らせよう」


 そう言ってきた。

 私自身はそんなに役には立っていないが。

 リシアを紹介したという事は、手柄ではあるだろう。

 くれるというのなら、貰っておこう。


 金貨百枚を褒美として受け取った。リシアにも同じ額が送られた。


「これからもクラン様のお役に立てるよう努めます」

「頼もしい言葉だ。此度の交渉成立により、戦は我らの有利に動き出すだろう。実はすでにアルファーダ郡の攻略を始めているのだが、あまり上手くいっておらぬ。さらにこちらが奇襲で攻め落とされた要所の奪回も上手くいっておらぬので、形勢は少し悪かったのだが、今回の交渉成立で確実にひっくり返るであろう」


 今のところ戦は上手く行っていなかったのか。


 そのあと、レングとテクナドとリシアは下がらされて、私だけが残された。


「お主に頼みがある」

「何でしょうか?」

「この書状をルメイルに届けてもらいたい」


 私は書状を受け取った。


「これはルメイルに出陣命令の書状である。今は一度アルファーダ郡から兵を引かせておる。今回パラダイルがアルカンテスを攻めるということで、防御を手薄にしても攻められる危険は減るだろう。一度大軍を集めて、アルファーダ郡へともう一度侵攻する。パラダイル州から四月二十日にアルカンテスを攻めると伝えられているので、それに合わせて侵攻を開始するつもりだ」


 今は三月十九日。約一か月後だな。


「ルメイルにはサイツからの侵攻に備えて、防備を固めるよう命じてあるのだが、サイツでは騒乱が起き他所へ攻める余裕は今はない状態である。多少防備を手薄にしても問題ない。ルメイルにはカナレ兵を率いて、センプラーへと来てもらう。その軍にお主も参加するのだ」

「承知しました」


 となるとこれが私の初陣となると見ていいだろうな。

 そう考えると少し緊張してきた。

 一か月後か……


「戦ではお主とお主の家臣たちの働きも期待しておるぞ。アルファーダ郡の攻略は手間取ることはないだろうと思うがな」

「期待に応えられるよう尽力します」


 クランの用件はそれで終了した。


 いよいよ、本格的に戦が始まるか……

 ミーシアンは全州の中でも人口が多い。

 かなり大規模な戦になるだろうな。

 人も大勢死ぬだろう。


 少し怖気づいてしまったが、私は自分の頬を叩き気合を入れた。


 私は今は領主である。それが戦に怖気づいてどうするというのだ。

 弱気になっては死んだ父に申し訳が立たない。

 覚悟を決めるんだ。


 私は自分に言い聞かせるように、心の中でそう言った。


 その後、私たちはカナレへと戻った


 私はルメイルに書状を届ける前に、ランベルクに戻る。


 リシアとはトルベキスタへと帰るため、そこで別れることになった。


「戦が終わったら約束はお守りになってくださいね」


 結婚するという約束か。

 私は少し動揺しつつ、


「はい」


 と言って頷いた。


「約束を破ったら……」

「破ったら……?」


 リシアはしばらく沈黙しながら笑顔で私を見つめる。


「それではまた」

「え? あ、はい。また……」


 破ったらどうなるか言わずに去っていった。


 何だか逆に恐怖を感じた。

 まあ、破る気などないから、恐れる必要などないのだがな。


 戦に勝ったら真っ先に、リシアに求婚する必要がありそうだ。

 かなり緊張するが、今考えるべきことではないな。


 私はランベルクの屋敷へと帰還した。


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