第70話 シャドーからの報告

 私は一度屋敷に戻る。


 いきなりリシアの実家まで行くのは失礼なので、まずは手紙を書いて来訪の意思を伝え返事を聞いたのちに向かう事にした。


 内容は、戦争の事で大事な話があるので一度リシアを加えて話をしたい、持て成す必要はない、ということを書いた。ちなみに送り先はリシアではなく、父のハマンドである。


 どちらかというと、リシアを帝都に行かせることには、ハマンドからの反対があると私は思っていた。

 まあ、仮にダメと言われても、それでクランからの評価は大きく下がることはないだろうから、問題はない。それに、リシアがどれくらい交渉の役に立つのかは未知数だ。しつこく食い下がって説得する必要はないだろう。


 返事の手紙を待っていると、


「アルス様、シャドーのベンが報告を持ってきたようです」


 と家臣が報告に来た。

 センプラーに行く際に時間を空けると、ベンからの報告を受けられないので、直接私ではなく、カナレに派遣している家臣に情報の受け取りと、金貨の支払いを任せることにしていた。

 その家臣が、ベンからの書状を持ってきた。


「ご苦労」


 私は書状を受け取り、中身を読む。


 内容は、敵の情報を少しずつであるが得られるようになってきたとまずは書かれていた。方法は全く不明である。


 調略できそうな貴族は見当たらない。バサマークは時間が経てば経つほど、アルカンテス城を支配している自分が有利になると考えており、自分から仕掛ける可能性は低い。

 だが、家臣の一人がペレーナ郡への侵攻を主張しているらしく、それについての話し合いが現在行われている。


 それからサイツ州との同盟を結ぼうとしている。

 サイツ州からクラン領への攻撃を要請する計画もある。

 こちらはまだ成功したわけではないが、手ごたえを感じているようだ。

 パラダイル州と皇帝家にも、水面下で交渉しに行ったようだが、これはどちらも上手くいかなかったようだ。

 バサマークはクランがパラダイル州と同盟を結ぶ作戦を取ってくることも予測しているが、これは成功しない可能性が高いと考えている。


 といった感じだ。

 家臣の一人から聞き出した情報であり、百パーセント正しいと断定できるわけではないと最後に付け加えてあった。


 それでもこれだけ色々な敵の戦略を調べてこられるとは、シャドーはかなり優秀なようだな。契約してよかった。


 サイツ州との同盟は成功したら大変なことになる。

 特に州境にあるカナレ郡など、一番被害を受けることになるだろう。ランベルクも当然無事では済まない。


 これらの情報は一度クランに報告をしておこう。

 もしかしたらクランもシャドーのような密偵傭兵を雇っており、この情報は掴んでいるかもしれないが念のためだ。


 私はシャドーからもたらされた情報を書状に写し、クランへと送った。


 それから数日後、ハマンドより許可の手紙が届いた。

 私は護衛を連れて、プレイド家の屋敷があるトルベキスタへと向かった。


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