第67話 開始
それから数時間経過し、軍議を行う時間になった。
場所は議論の間と呼ばれる部屋で行う。
長い机が中央に置かれている部屋だ。その机には地図が乗せられている。
すでに貴族たちが来ており席についていた。
この前のパーティーで見たことのある者たちがほとんどである。
ただこの前のパーティーでは、貴族たちに直接仕えている家臣たちは参加していなかったが、軍議には参加しているようだ。なので見ない顔も何名かいる。
「おや、アルスではないか。お主も呼んだとクラン様から聞いておったが、本当の事であったか」
「ルメイル様」
ルメイルが声をかけてきた。彼も軍議に呼ばれていたようだ。
少し後ろに家臣のメナスの姿もあった。
「しかし、もうすでに軍議に呼ばれているとは、かなりクラン様に気に入られたようだな。凄いではないか」
「ルメイル様が、私の話をクラン様にしてくださったおかげでございます」
「そういえば、確かにお主の話をクラン様にだいぶしたな。それでか。まあ、私は特に大げさに話をしたつもりはなく、事実をお伝えしたまでなので、気に入られたのはお主の実力だ」
そんな会話をしていると、近くにいた貴族から、
「その者は、この間のパーティーにも参加していた小僧ではないか。なぜこの場にいる?」
そう声をかけられた。怪訝な表情を浮かべている。
「クラン様に招待されたので」
「お主のような子供が? 子供というだけでなく、ローベント家と言えば、弱小領地だったはずだがな」
「随分と気に入られたものだな」
侮蔑を含んだ表情で見られる。何やら汚い方法を使ったのかと、邪推されているようだ。
「それよりも、そこのマルカ人はお主の家臣か? なぜマルカ人などを連れてきた」
今度はほかの貴族から声を掛けられる。
「彼は家臣ですので」
「マルカ人が家臣? 馬鹿なことを言うでない。奴らは劣等種である。そんなものを家臣にするなど何を考えておるのだ。さっさとつまみ出せ不愉快だ」
露骨に蔑んだ目でリーツを見ながら、そう言った。
「待て彼は……」
ルメイルが言い返そうとするのを、私が止める。
こういう時は自分で言い返さないといけない。
「リーツは有能な人材です。剣の腕も高く、頭脳も明晰です。何度も私の役に立っております。それにあなたの方が身分が上だからといえ、ここはクラン様の城であり、軍議を仕切られるのもクラン様です。あなたの命令にこの場で従う必要はありません」
「……」
貴族は言い返す言葉が思いつかないようで、私をにらみつける。
「……ふん、どうせそのうち無能っぷりを晒すだろう。その時を楽しみにしている」
と言い残して私の前から去っていった。
「……アルス様ありがとうございます」
「主として当然のことを言ったまでだ」
それからもリーツには厳しい視線が向けられるが、直接文句を言ってくる貴族は現れなかった。
私たちは席に座る。
結構大人数が、軍議に参加するようだ。人が多いほどいいアイデアも出るだろうという判断だろう。
「皆の者、よく集まってきてくれた」
クランが議論の間に入ってくる。
「早速話し合いを始めるとしよう。今回は戦の戦略について話し合いたいと思う」
戦略とは、戦の運び方、シナリオの事だ。これを上手く作っておかないと、たとえ局地的な戦いで勝利を収めたとはいえ、最終的に戦で勝利を収めることは出来ない。
「ロビンソン」
「はい」
名前を呼ばれたクランの右腕ロビンソンは、手に持っていた丸めてあった紙を開いた。
「現在我が方の戦力は、総勢約十一万人。歩兵五万五千、弓兵三万、騎兵二万、魔法兵五千。触媒機は小型三千、中型千五百、大型五百。魔力水は全部で約五万四千百三十です。兵糧は潤沢にあり、数年は戦い続ける事が可能です」
ロビンソンが自軍の戦力を語る。
「敵軍の戦力は完全に判明しておりませんが、兵数はこちらより二万ほど多いでしょう。しかし、兵の装備質は、こちらに分があります」
相手の戦力は、まだ完全に把握していないようだ。
ロビンソンが戦力情報を語った後、貴族の一人が、
「私の考えを申し上げます!! 我が軍は士気も高く兵の質も良質です!! 戦になれば必ず勝てるでしょう!! 今回の目標は敵の本拠地であるアルカンテスを陥落させる事です!! 全軍を動員して攻め込めばすぐに陥せるでしょう!!」
大声でそう言った。見るからに武闘派という感じの見た目の男だった。意見も武闘派のそれで、深い考えなど一切なさそうであった。
「浅すぎる考えだ。そんな単純なやり方で確実に勝てるほど甘くはない」
今度は眼鏡をかけている貴族がそう言った。
少し頭の良さそうな男だった。鑑定でしらべてみると、知略が71あった。ちなみにさっきの男は41である。
「戦に確実に勝つためには、敵の弱点を突くことが肝要です。バサマークの弱点とはズバリ主張に正当性がないことです。本来、長子のクラン様が家を継ぐのが道理ですが、バサマークは自分が元々後継者として指名されており、白紙にはなったがそれはクラン様がごねたため仕方なくそうしただけで、実際は自分を後継者にする心は変わっていなかったと、それこそ前総督様に聞かなければ分からないような主張をしております」
眼鏡の貴族は流暢に語る。
「バサマークは調略するのが上手いので、多くの貴族たちを丸め込んで味方には出来たでしょうが、民衆はどうでしょうか? アルカンテスの住民は、現在バサマークが統治している事に、疑問を抱いていないでしょうか? バサマークが、アルカンテスの民衆から支持を失い、クラン様を支持し始めたら我々の勝利は確定したも同然です」
今度はまだまともな戦略を言ってきた。
具体的にどうやってアルカンテスの住民に、クランの方を支持させるかは言っていないが、それは戦略ではなく戦術だろう。
「マークよ、情報が不足しているようだな」
そう言ったのはクランだ。マークとは先ほどの眼鏡貴族の名前である。
「奴は民衆から支持を集めるのが非常に上手い。私はセンプラーを州内有数の商業都市に育て上げたが、その間、バサマークはミーシアンの色んな都市から支持を集めていた。特にアルカンテス住民のバサマークへの支持は厚いはずだ。バサマークを倒した後に、どうやって支持を集めるかが課題である。バサマークが生きている間に、私がアルカンテスの民衆の支持を集めるのは、非常に難しいだろう」
「そ、そうでしたか……申し訳ありませんでした」
考えを否定され、青い顔でマークは謝った。
「意見をいうことは悪いことではないため、謝る必要はあるまい」
クランはそうフォローしたが若干場の空気が重くなる。
しばらく意見を言う者がいなくなり、議論の間を静寂が支配する。
「あ、あ、あの、俺の意見を言っていいですか?」
静寂を破ったのは、ロセルの震えた声だった。
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