第66話 面会

「よく来たアルス」


 部屋に入ると、クランが出迎えてくれた。


「きちんと部下たちを連れてきたようだな。期待しているぞ」

「はい」

「ふむふむ、そのマルカ人が有能だというリーツ君か」


 クランがリーツを見る。


「名前を覚えていただき光栄です。リーツ・ミューセスと言います」

「中々好青年のようだな。横にいる子は、アルスと同い年くらいか? その子も軍師なのか?」

「はい、才能自体は今まで出会った者の中でもナンバーワンです」

「ロ、ロセル・キーシャです……よ、よろしくお願いします」


 物凄く緊張した様子でロセルは挨拶をした。

 クランは高貴な人物であるという事を恰好から全面に出しているので、緊張してしまうのも無理はないだろう。


「それは楽しみであるな。横にいる少女もか? 魔法兵のようにも見えるが」

「ああ、彼女は護衛として連れてきたシャーロット・レイスです。シャーロットには魔法兵として高い才能があり、野盗に何度か襲われましたが、彼女が追い払ってくれました」

「よろしくおじさん」


 とんでもなく無礼な挨拶をシャーロットはした。


「シャ、シャーロット! 失礼だぞ! クラン様だ!」

「はっはっは、構わん。確かに若い子から見たら、私などおじさんだろう」


 クランは器の大きな人みたいで、笑って許してくれたが、肝が冷えたぞ全く。


「たぶんその子がルメイルから聞いた、すごい魔法を使う女の子だな。それでもう一人は……」


 クランの視線がミレーユに注がれる。

 すると表情が一変した。


「お、お前は! ミレーユか!?」


 知っているようだった。

 いや、知っていて当然と言えば当然か。昔ミレーユは領地を持つほどの貴族だったのだから。


 ……ちょっと待てよ。ミレーユは追放されたと言っていたよな。理由は難癖をつけられたと自分では言っていたが、ミレーユの性格を考えると何か問題を起こして追放されたというのは明白。

 やらかしたことが何か分からないから何とも言えないが、場合によってはここに連れてきたのは、まずかったのではないか?


 ただ、ミレーユの事を知っているのなら、彼女が有能であり尚且つ、敵の軍師の一人と兄弟であるという事を、知っているはずだ。

 クランならリスクを覚悟してでも、ミレーユを軍師として使う決断をするはずだ。


「……生きていたのか」

「何とかね」

「貴様なら確かに軍師として能力は申し分ないだろうな。しかし、問題がいくつかある。アルス、お前はこの女の素性をどの程度知っている?」


 私は尋ねられて、ミレーユについて知っていることをすべて話した。


「そうだ。この女は敵の軍師の姉である。その上、元々バサマークと仲が良かったはずだ。敵の密偵であるという可能性も否定は出来ない」

「一応言っとくけど、アタシはバサマークと仲が良かったことなんてないよ。利用してただけだね。追放されてからは奴には恨みしかない」


 どうもミレーユの追放にはバサマークが大きく関わっているようだ。


「それに密偵ならなぜローベント家に仕えるんだ? なぜか弱小貴族のローベント家が、アンタに会うと聞いて驚いたくらいなんだから」

「確かにそれは一理あるな……」


 私がクランと会うこともない、弱小貴族なら。密偵として仕えてもあまり意味はなかっただろう。


 彼女が密偵なら、クランに直接仕えに行くか、もう少し強力な貴族たちに仕えに行くだろう。


 クランは腕を組んで考え込む、ミレーユの存在を認めるメリット、デメリットを天秤にかけているようだ。


「アルス、君はミレーユを家臣として雇って何日経つ?」

「一月ほどです」

「ミレーユはローベント家ではどのような様子であった?」


 私はミレーユの仕えている様子を詳細に語った。

 よくサボったり、酒を飲みまくったり、色々問題行動を起こして家臣たちには嫌われていると語った。

 語ってて思ったが、とてもじゃないが密偵というにはおかしな所業である。

 普通は信用されようと、必死になるはずだ。まあ、密偵じゃなくてもおかしいのだがな。


「それだけで確定ではないが、ミレーユが密偵でない可能性は高そうであるな。問題は貴族たちからも大きな反発がありそうだが……それは何とかなるか」


 どうやらクランはミレーユの存在を認める決断を下したようだ。


「軍議の開始はもう少しあとだ。それまで我が城でゆっくりしていってくれ」


 その後、軍議が開始されるまで、センプラー城の豪華な一室で待機することになった。

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