第65話 センプラー

 センプラーは海に面している都市だ。

 街は城壁に囲まれていた。カナレとは違い城壁に囲まれていない箇所はない。新しい城壁であることから、最近になって作られたと推測できる。


 街の中に入る門の近くからは海を見ることが出来た。

 前世、日本では海なし県に生まれたわけではなかったので、海は何度も目にしている。

 しかし、この世界に来てから海を目の当たりにしたのは初めてだ。

 まあ、異世界とは言っても海は海だ。あまり違いはない。

 色も青色。塩の匂いと、波の心地の良い音。どれも変わらない。


「ここなんであんなに水があるの?」


 シャーロットは海を初めて見るのか、不思議そうな顔をしている。


「これは海ってやつだよ。俺も初めて見るけど本当に広そうだね。どこまで続いているのか先が全く見えないや」


 ロセルは海を初めて見るのか感動しているような感じで見ている。


「でも、こんだけ水があったら、飲む水には困らなそうだね」

「シャーロット、海の水には塩が多く含まれているから飲むことは出来ないぞ。飲んだら逆にのどが渇いてしまう」

「えー? じゃあ、これ無駄じゃん」

「無駄ではない」


 海を無駄などと何とも恐れ多いことをいうやつだ。


 久しぶりに見た海を眺めることはやめて、センプラーに入った。



 門番はいたが、特に厳しく調べられることはなく、中に入ることが出来た。


 センプラーは人口が多いのか、通りの人がカナレより明らかに多かった。


 私は前世での経験があるので、人通りが多くてもそこまで驚きはしないが、ロセルやシャーロットなどは、人の多さに驚いていた。


「センプラーは人口に関しては、ミーシアンでも二番目に多い都市ですからね」


 リーツが説明をする。


 一番はアルカンテスで、二番がセンプラーだろう。


 人が多いだけでなく、活気も凄い。

 道の脇に露店が立ち並んでいるのだが、大声で客に商品のアピールをしている。


 色々珍しそうな物があって興味は惹かれたのだが、今回は買い物をしにきたわけではないので、当然買ったりはしていない。


 街の奥の方に、大きな城が見える。

 センプラー城である。軍議が行われる場所だ。

 本来なら色々見て回りたいところであるが、私たちは一直線でセンプラー城へと向かった。


 奥にはもう一つ城壁があった。

 古い城壁だ。元々はカナレと同じように、この城壁だけだったのだろうが、最近、外にも城壁が作られたのだろう。

 よく考えると、カナレは敵のサイツ州に近いため、今の防備では不用心極まりない。まあ、壁を作るのには時間と金がかかるので、簡単ではないのだろう。


 中にある城壁を超えるには、通行証が必要のようだ。クランからの書状が通行証代わりになると、書状に書いてあったので、それを門番に見せる。すぐに通ることが出来た。


 二つ目の城壁の中は、身なりの整った人が歩いており、家もどれも上品で高級そうである。恐らく金を持っている者たちが住んでいるのだろう。


 城に到着すると、もう一度門番がいたので書状を見せると中に入ることが出来た。


 センプラー城は、近くで見るとさらに大きく感じた。少なくともカナレ城よりかは確実に巨大である。大きいだけでなく、全体的に金色である。

 金箔でも貼っているのか、とにかく金色だ。いくつか城を見てきたが、金色の城を見たのは初めてである。クランの趣味なのだろうか? ずっと前からこんな感じなのだろうか。

 あまり金ピカなのは、ダサく感じて好きではないのだが、権力を示すには分かりやすい方法なのかもしれない。


「お待ちしておりましたアルス・ローベント様。我が主クラン様の下へご案内します」


 そう言って我々を出迎えたのは、以前クランと話した時に出会ったロビンソンだった。


 挨拶を返して、ロビンソンの案内についていく。


 城の内装はかなり豪華であった。絨毯は赤く、壁は外と同じく金色だ。

 金や宝石を使用して作られた像が、いくつか建っている。


 どれだけ金があるんだと呆れてしまうほどである。


 すると、目の前から真っ黒い鎧を身に着けた男が歩いてきた。

 整った顔立ちの男で、年齢は推定で二十代後半くらい。

 上手く言葉には出来ないが、只者ではないというオーラというか、そんなものを肌で感じていた。


 男は私を横目で見ると、何も言わずに通り過ぎて行った。


「……もしかして今の方は、メイトロー傭兵団のお方でしょうか?」


 リーツが尋ねる。


「ええ、彼はメイトロー傭兵団団長の、クラマント・メイトロー三世です」


 メイトロー傭兵団というと、クランが雇ったという最強の傭兵団の事か。

 鑑定し損ねたので、今度会ったら鑑定しておこう。


 ロビンソンに案内される。広く高い城で、上階の方にクランはいるみたいなので何度も階段を上がる。


「こちらの部屋の中にクラン様はおられます」


 だいぶ歩かされて疲れた時、ようやくクランのいる部屋の前に到着した。



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