第64話 出発

 模擬戦から数日経過。

 クランから軍議が開始されるから、来いという手紙が届いた。

 場所はクランの本拠地であるセンプラーである。


 センプラーはミーシアン州の南にあり、ランベルクから見て南東方向にある。

 行ったことがないので正確には分からないが、到着までには最低十日は要するようだ。


 急いで出発の準備を行う。

 軍師として役立ってもらう、リーツ、ロセル、ミレーユと、護衛の兵をシャーロット含め、何名か連れて向かう事にした。


 移動方法は馬車である。時間がかかるため荷物は多めに持って行く必要がある。そうなると最適な移動手段は馬車であった。


「それではセンプラーに向かうぞ」


 準備を完全に終わらせて、私たちはセンプラーへと向かった。



 〇


 センプラーまでの道のりは、平地を行くのでそれほど険しくはなかった。

 道自体は楽だったのだが、ランベルクを出た辺りで何度か野盗に襲われた。

 カナレ郡を移動しているときは、野盗に襲われることなど一度もなかったのだが。カナレが安全だったのか、もしくは運が良かったのか馬車に乗ってて金を持ってそうだと思われたのか。


 野盗自体はあっさりとシャーロットが追い払っていた。

 基本的に魔法を使うやつを見ると分が悪いと見て逃げるのか、一発撃てばだいたい逃げていく。シャーロットは魔法の威力調整が可能なので、全力で撃つときの大爆発は起こさずに威嚇射撃をして追い払っていた。

 それでもたまに威嚇が効かない奴らがいたので、そいつらは殺していた。


 父が罪人を死刑にした時以来に、人の死体を見ることになった。

 一度見てはいるのであの時ほど動揺はしなかったが、やはり気分は悪い。

 これから慣れなければならないだろうな。



 出発してから数日経過。


「なあ、ちょっとあの子、何とかしてくれないか」


 ミレーユがそう言ってきた。だいぶ困っているような表情である。

 人を困らせる側であるミレーユであるが、珍しく誰かに困らされているみたいだ。


「あの子って誰だ」

「ロセルだよ、ロセルの坊やだ。あの日から質問攻めにあって仕方ないんだ」

「あー……」


 家臣たちからのミレーユへの評価は、模擬戦終わりも思ったほど上がらなかったが、ロセルからの評価は大幅に上がったようだ。

 元々ミレーユの能力を怪しみ毛嫌いしていたロセルだが、積極的に質問をするようになった。

 教えるのが嫌いだと言っていたミレーユだが、しつこく聞かれると答えざるを得ないらしい。


 そのおかげなのか、長い間上がっていなかったロセルの知略が、この短期間で2も上がった。

 現在は93になっている。経験が足りないからロセルの成長が止まったと思っていたが、彼に足りないのは指導者だったのかもしれない。リーツも知略は高いが、ある程度まで行くと、ロセルの能力の高さ故に教えることがなくなり、対等な感じになっていたので、現時点で格上である知略を持ち、さらに経験豊富なミレーユは良い先生になったのだろう。


 まあ、ミレーユは迷惑そうであるが、ここは我慢してもらおう。


「すまないが、聞かれたことは教えてくれ。ロセルのためだからな」

「あー、分かったよ。追放されるのは嫌だしね。それに坊やのいう通り、ロセルに軍師としての才があるような気がしてきたところだからね……」

「そうなのか?」

「ああ。たまに普通じゃない発想をすることがある。さらに理解力と思考力がアタシが思っているより抜きんでているようだし。確信をもって才能があると思っているわけではないが、アタシの目が間違っている可能性もありそうだ」

「それなら教えてもいいだろ?」

「限度があるだろ? 休憩する間もなくずっと聞いてくるからさ。子供だから強く言えないし、説得しようにも意外と頑固だし、困ったものだよ」


 割と本気で扱いに困っているようだ。案外ぐいぐい来られると困惑するタイプなのかもしれない。

 とにかくロセルがミレーユに教わろうとしているのは、良い傾向と見ていいだろう。このままロセルの知略が順調に育ってほしい。



 そして数日後、私たちはセンプラーに到着した。





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