第60話 模擬戦
ローベント家では定期的に模擬戦を行うようにしている。
模擬戦は実戦を想定した戦いであるが、当然練習で兵を殺すわけにはいかないので、実戦とまるっきり同じというわけにはいかない。
大まかなルールだが、人数は指揮官を含めて五十一対五十一で行う。
シチュエーションは、敵がランベルクに攻めてきたので、それを野戦で食い止めるという感じだ。
そのため進攻隊と防衛隊に分かれる。
進攻側は離れたところから屋敷へと進軍をし、防衛側は侵攻を食い止めるため、ランベルク村近くの平原で敵を迎え撃つ。
相手の隊長を討ち取るか、降参させれば勝利となる。
歩兵三十人、弓兵十五人、魔法兵五人だ。
騎兵は模擬戦では使わない。
兵たちの武器は木剣である。当たれば痛いが、きちんと防具を装備すれば死ぬ危険性はほぼない。
弓は木の矢を使う。先端は尖らせずさらに赤い塗料を染み込ませた布を巻く。
この赤い塗料は木剣にも塗る。これは致命的な位置に攻撃が当たったのかどうか判別するためだ。頭や胸などの当たってはいけない位置に攻撃が当たった場合、討ち取れたとみなし行動禁止だ。
そして魔法だが、炎の魔法はほとんど危険な魔法なので、使うのは禁止だ。防御系の炎魔法はあるのだが、それらは全て同じ炎属性の魔法攻撃を防御する魔法である。そのため使う意味がないのだ。
それと音と炎の魔法水以外は、ミーシアンでは貴重なものなので、これも使うわけにはいかない。
使っていいのは音属性の魔法だけだ。
音魔法は敵に攻撃を与えるようなものはほとんどない。
ただ、指示を届けたりするのに非常に重要な魔法が多いので、戦闘では必須のものである。
防衛隊の隊長はリーツで、侵攻隊の隊長は私だ。自分の屋敷を攻めに行くとは不思議な気分である。
侵攻隊には私の他にミレーユがおり、防衛隊にはロセルやシャーロットがいる。ちなみにロセルは少し前から模擬戦で軍師のような事をするようになっている。
向こうの方がシャーロットがいて強いようだが、音魔法だけならシャーロットはそこまで脅威ではない。まあ、それでも相手の方が強いような気がするのは間違いないが。
ただ模擬戦だと、当主である私に委縮してしまう者も出てくるので、単純に比較することは出来ない。
ミレーユは私と同じ方の隊にしてくれと頼んで来た。
理由は言ってこなかったが、恐らく私と同じ侵攻隊なら自分の指示を兵たちに聞いてもらえると思ったからだろう。
兵たちはミレーユを嫌っているため、もしかしたら無視をされる可能性もあるが、私に助言するという形にすればそれもなくなるだろうからな。
私としても自分の隊に置く事で、ミレーユの実力をより理解する事が出来るだろうし、悪くはない。
そして二日経過し、模擬戦を行う日になった。
もしその間に軍議の連絡があればどうしようかと思っていたが、来なかったので問題なく行う事ができた。
侵攻隊である私は、現在五十人の兵を伴ってランベルクを離れていた。
ランベルクから約一キロ離れた地点に行ってから攻める。
侵攻隊は疲れて不利のように最初は思ったが、やってみると攻めだと結構有利な事も多いので単純に比較は出来ない。
まあ、多少不利であるとしても、模擬戦はスポーツではないので、特に問題はない。不利な条件でどれだけどうするのか。有利な条件でどうするのか、というのも模擬戦で試しておくべきことではある。
向かう途中、私はミレーユと話をしていた。
「模擬戦とはいえ、戦うのは結構久しぶりだね」
「そうなのか?」
「昔は戦ってばかりだったが、追い出されてからはほとんどないね。坊やはもう初陣はしたのかい?」
「まだだ」
私はまだ実戦に赴いたことは一度もなかった。
「そうなのか。じゃあ、本当に坊やじゃねーかい。今回の模擬戦は実戦に比べるとお遊びみたいなもんだろうからね。それは心に留めておいた方がいい。これで私は戦に慣れた、なんて事は間違っても思わないようにね」
「それは分かっている」
「そうかい。まあ、坊やは賢そうだから愚問だったね」
実戦の話を何度か聞いたことがあるが、それはそれは大変なようだ。
魔法が使われるようになった、今の戦はとにかく様々な魔法が戦場を飛び交うらしい。
それに対して膨大な対応策を練らないといけないため、どうしても軍師のような存在は必須となってくるのだ。
今回は音魔法だけの使用となるが、音魔法だけでも結構種類があるので、対策は一筋縄ではいかない。
地球での中世の戦争ではそれほど人は死ななかったらしいが、この世界の戦争は一度の戦争で結構人が死ぬことがある。まあ、小競り合いだと高威力の魔法はあまり使わないため、あまり死なないのだが、大規模な戦争になると数万単位の死亡者数が出るのがざらである。
そのため指揮官が前線に出て指揮をするという例はほとんどない。前に出たら高確率で死んでしまうからである。ちなみに父は前線に出てバリバリ戦っていたらしい。それでも生き続けたのだから、とんでもないことである。
侵攻隊が行く場所には小屋が立っている。そこまで行くと進軍を止める。
「じゃあ、いくつか作戦を考えてたからここで言ってから、始めようか」
ミレーユがそう言った。
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