第59話 性格に難あり
ミレーユが家臣となり数日経過。
まだ軍議が始まるという知らせは届いていない。
「あのアルス様、少し宜しいでしょうか?」
部屋の外からリーツの声が聞こえた。
「入れ」
「失礼します」
扉が開きリーツが入ってくる。
リーツの表情はどこか不機嫌そうに見えた。
「ミレーユの事なのですが……」
「彼女がどうした」
「あの……このような事を言うのは、アルス様に大変失礼であるとは思うのですが、ミレーユは家臣には不適格であると思います」
リーツは少し躊躇いながらもそう意見をした。
新しく家臣になったミレーユだが、最近悩みの種となっていた。
というのも家臣たちから、ミレーユに対する苦情が採用して数日にもかかわらず、相次いでいるのだ。
まだ戦は始まっていないので、ミレーユには兵たちの指導や、ロセルの先生役などを任せていた。
武勇がそこそこ高く、歩兵適性が高いので一対一で男にも普通に勝てるほどの力がある。その上、魔法もそれなりに仕えるので、魔法への指導もしている。
ただその時、やる気を感じずよくサボったり、さらに他人のやる気をそぐような言動をとったりするらしい。
「ミレーユの能力がそれなりにあることは認めますが、人格はいかがなものかと思います。今日も昼、仕事を放り投げて部屋で寝ていました。さらに練兵場でも、兵の指導にやる気を感じないという指摘が多々上がってきております」
リーツは頭にきているのか、話しながら徐々に顔を赤くしていく。
「態度を改めるよう指摘すると、人間そういう気分の時もある、とか何だとか言って、反省している様子をまるで見せません。ある程度能力があるとはいえ、彼女が家臣にいるのは、ローベント家に間違いなくマイナスになっております」
喋れば喋るほどリーツの顔は紅潮していく。とにかく頭に来ているということは伝わった。
まあ、欠点はあるにせよあれだけの能力だし、そう簡単に追放は出来ないけど……
「アルス、入るよ!」
ロセルの声だ。私の許可を聞く事なく部屋に入ってきた。ロセルの表情も、リーツと同じく少し怒り気味である。
「ミレーユさん何だけど、彼女に教えて貰えってアルスは言ったけど、もう限界だよ!」
ロセルはあまり怒りという感情を周りに見せるタイプではない。だが、今回はカンカンに怒ってるようだ。
「何があった」
「ミレーユさんは基本寝ててやる気ないんだけど、それだけならまだいいんだ。起きてたら、読書は無駄だとか言って、外に連れて行かれて何か走らされるんだ。終わった後、これに意味はあるのか聞いたら、それは自分で見つける事だ、とか訳の分からない事を言ってきた。あれは絶対面白がってるだけだ! 別に人に教えて貰う必要はもうないから、居眠は別にいいけど邪魔してくるのは許せないよ!」
「……」
相当鬱憤が溜まってるみたいだな。
うーん、もしかしたらミレーユなりの考えがあっての事かもしれないが。
彼女の人柄はまだ掴めていないので、どうなのか判断は出来ない。
それからも家臣たちからは、ミレーユへの苦情が何件か入って来た。
だいたい内容はやる気を感じないとか、余計な事を言われたとか似たり寄ったりであった。
家臣たちの評価は著しく落ちているみたいだ。
戦で使ってみるまで正当な評価は出来ないが、このままなら少し考える必要がある。私の方から一度注意をした方がいいかもしれない。
そう思っていると、外からドカーン!! という大きな音が響いた。
「な、何でしょうか?」
「びっくりしたー」
その場にいたリーツとロセルが動揺している。
私たちは急いで外に出て音の正体を確認しに行く。
家臣たちが敵兵から襲撃の可能性も考慮して、武装して外に出てきた。練兵場から兵士たちも駆けつけてくる。
屋敷の外には林があったのだが、そこに大きなクレーターが空いていた。
これは昔、シャーロットの魔法を試した時の光景に似ていた。
そのクレーターをミレーユとシャーロットが、並んで眺めていた。
「凄いなぁ。これほどの才能を持った魔法兵がいるとは。驚いた」
「本気出せばこんなもんじゃないよ」
「マジか。じゃあ、もう一発頼む」
「よーし」
「よーし、じゃない! やめろ!」
魔法を撃とうとしたシャーロットを止めた。
音の正体はシャーロットの魔法だったようだ。
「あ、アルス様だ」
「なぜこんな事をした」
「ミレーユ姉さんから魔法が見たいって言われたから、使った」
シャーロットは家臣の中では珍しくミレーユと気が合うようだった。
「こんな高威力で撃ったら、危険だし騒ぎになるだろ。もっと威力を抑えたものを使えばよかったではないか」
「それじゃあつまらんだろ。シャーロットが凄いって聞いたから全力を見たかったんだ。こりゃ予想以上だね」
「あのな……使う前に一度知らせても良かったんじゃないか?」
「あー、それは悪かったね。ここまでだとは思っていなかったんだ」
ミレーユは悪気があったわけではないみたいだ。
まあ、シャーロットの魔法は想像を遥かに超える威力なので、分からないではないが。
ただ私以外の家臣たちは元々鬱憤が溜まってた上に、さらに謝る態度に真剣味を感じなかったからか、今回の件で怒りが頂点に達したようだ。
「ふざけんなよお前!」「いい加減にしろよ!」
と不満が続出し始めた。
魔法を使ったシャーロットの責任も大きいと思うのだが、家臣たちの怒りはミレーユに向いているようだった。
「何だアンタら。アタシにやめて欲しいのか」
罵声を浴びせられても、全く堪えていないようにミレーユは堂々とした態度でそう言った。
「坊やはどう思っているかだな。アタシをやめさせたいか?」
「それは……今すぐやめさせるつもりはないが、これからこの調子が続けば……」
「ふーん、それは少し困ったな。アタシはここに来てから自然体でいるだけだ。中々この歳になって自分を変えるというのも難しい。そもそもアタシは戦で活躍するタイプだしな」
どうも態度を改める気はないようだ。ミレーユは難癖を付けられて追放されたと言っていたが、この態度が原因で辞める事になったのじゃないだろうか。
「アタシも辞めたくはない……そうだな。今度模擬戦があると言ってただろ?」
「ああ」
定期的にローベント家では模擬戦が行われる。
次の模擬戦は2日後だ。ミレーユは初参加となる。
「そこで活躍をしたら、アタシを辞めさせないってことにするのはどうだい?」
ミレーユがそう言うと、私が返事をする前に家臣たちから反発の声が飛んで来た。
ただ私としてはいい案だと思った。元々戦での活躍を期待して採用したのだ。それさえあれば他の面は目を瞑ってもいい。少なくとも今回の戦が終わるまではな。
「皆、聞くのだ。私はミレーユには戦で発揮する素晴らしい才能があると見抜いた。ほかの面では欠点はあるかもしれないが、今回模擬戦で彼女が結果を出したら、大目に見て欲しい」
そう言うと家臣たちは渋々ながら、反発するのをやめた。
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