第49話 二度目の依頼

「さて帰るか」

「ちょっと待ってください」


 城を出て屋敷へ戻ろうとすると、リーツが止めてきた。


「どうした?」

「あのシャドーのことですが。今回はペレーナ郡の情報を得るために、彼らに依頼をしましたが、元々はミーシアン全土の情報を得るために、シャドーを使おうとしていたことをお忘れではありませんか?」

「…………確かにそうであったな」


 一度依頼をしてすっかり忘れていた。そもそもペレーナ郡の情報を得るという目的がなくても、シャドーとはコンタクトを取るつもりだったのだ。


「そうだな。ちょうど金貨も大量にもらって、依頼料もあるからな。トレンプスに行って、依頼をするか」

「はいそれがいいでしょう」


 依頼するといっても何を依頼するべきか。


 味方の情報はルメイルから、ある程度聞き出せるだろうし、今回パーティーが行われるので、それでどんな人材がいるかもしれるし、わざわざ頼む必要性もないだろう。


 当然ここは敵の情報を得る必要がある。

 敵の情報が一番集まっている場所といえば、やはり本拠地のアルカンテスだ。


 警備も厳しいだろうから、シャドーとはいえアルカンテス城に潜入して情報を聞き出すのは難しいかもしれない。ただ、情報を得るには何も城に潜入しなければならないというわけではない。

 城下にある町で情報収集を行うだけで、それなりに情報を得ることは出来るだろう。依頼の終了日は戦が終わるまでだな。


「アルカンテスに行って、有用な情報を集めてきてもらうと、依頼しに行けばいいか、戦が終わるまで情報を集めてもらおう」

「そうですね。それで大丈夫でしょう。ただ依頼の終了日を戦が終わるまでにした場合、結構依頼料は払わなければならないでしょうね」

「金貨は大量にもらったからな」


 依頼内容を決めて、夜になり私たちはトレンプスに向かった。



「依頼だけどバサマークってやつを殺して貰ったりは出来ないの?」


 トレンプスに入る前、突飛な発言をしたのはシャーロットであった。

 私はだいぶ戸惑う。


「暗殺は……さすがに難しいだろう。身辺警護はガチガチに固めているはずだし。決まったら確かに戦がすぐに終わる可能性もあるが」

「やめたほうがいいと思いますよ。少なくとも自己判断でやるべきことではありません。クラン様が戦に勝った時、バサマーク様をどうなさる腹積もりか、分かりませんから。敵対しているといえ肉親ですので、殺さずにどこかに幽閉するつもりという事もあり得ます。クラン様から直接頼まれでもしない限りは、やるべきではないでしょうね」

「駄目かー、敵将を倒したら戦には勝てるって教えてもらったのになぁー」


 多分教えたのは父だろう。まあ、間違った教えではない。

 今回使うのは、乱暴すぎる手であると思うが。


 私たちはトレンプスに入る。夜なので働いているファムの姿は見えない。

 アレックスに依頼をしに来たことを話し、しばらく待って以前ファムに依頼しに行った場所に通された。


「思ったより早く再会できたな。アルス・ローベント」


 少し口元に笑みを浮かべて、ファムはそう言った。

 相変わらず女にしか見えない外見である。


 私は手早く依頼の内容だけを説明した。


「有用な情報ね? 具体的に何が欲しい?」

「そうだな……敵の戦力情報、戦術、戦略、貴族たちの弱み強み、外交情報とにかく役に立ちそうと思った情報を逐一報告してくれ」

「アルカンテスか。あそこは結構面倒だからな……依頼料は結構かかるぜ。戦の終了までが契約期間ということだが、そうなると具体的な年数は分からないな。一月で金貨五枚でどうだ?」

「一年で六十枚か。まあ、いいだろう」


 想定していた値段とそうは変わらなかったので、交渉はしなかった。


「それからかなり有効であると思われる情報を手に入れた場合、その度に特別報酬を貰えるというのはどうだ?」

「特別報酬か。金額はどうやって決める?」

「報酬額はその時その時で、話し合って決定する」

「なるほど。特に問題ない」

「分かった。じゃあ依頼を受けよう。金貨は最初の一か月分をいただこうか。それから報告はオレの部下にやらせる。一月に一回そいつがここに来るだろうから、オレが情報を書いた書状を受け取ってくれ。次の月に払うはずの報酬も、そいつに払うんだ」

「分かったが、それならその部下と一度会ったほうがいいな」

「そうだな。明日またここに来てくれ」

「了解した」


 そのあと金貨五枚を渡し、交渉は成立した。


 私たちはトレンプスを出て、宿屋に泊まり翌日の夜、再びトレンプスに行ってファムの部下に会った。


「ベンです。よろしくお願いします」


 何というか、めちゃくちゃ地味な顔の男を紹介された。

 顔に特徴が全くない。声も平凡。

 明日にでも顔を忘れてそうで、一か月空いても覚えているか不安なくらいである。

 ここは顔でなく、ステータスで覚えておこう。

 私はベンを鑑定してみる。


 アレクサンドロス・ベルマドルド 29歳♂

 ・ステータス

 統率 33/88

 武勇 78/80

 知略 77/78

 政治 45/66

 野心 3

 ・適性

 歩兵 A

 騎兵 B

 弓兵 A

 魔法兵 B

 築城 C

 兵器 C

 水軍 C

 空軍 C

 計略 B


 色々驚きどころのあるステータスだな。

 まず名前、ベンというのは本名ではないと思ったが、本名が個性的すぎる。これは顔を覚えてなくても、鑑定すれば一発でわかるな。

 次にやけにハイスペックなステータス。

 統率の限界値が非常に高い。

 将になれるレベルである。

 流石にここで引き抜きをかけるわけにはいかないが、家臣にしたいくらい優秀だ。まあ、家臣にしたいくらい優秀というのは、ファムもそうであるが。


 そういえば傭兵を家臣にするというのは、この世界ではあるのだろうか?

 あり得ない話ではないと思うが。シャドーを家臣に出来ることならしたいな。

 もうちょっと私が出世すれば、それも可能かもしれないな。


 そのあと私も挨拶をした。

 今回は顔を合わせるだけで、特に何も話すことのなく終わった。



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