第47話 解決

 私たちは、夜カナレ城に行った。

 門番はいなかったのだが、城の周りを見回りしている兵がいたため、その兵に事情を話して中に入れてもらった。


 城に入ると、慌てたようすでメナスがやってきた。


「いらっしゃいませアルス様、ペレーナ郡の情報はルメイル様も待ちわびておりましたよ」


 兵士から、私たちが来た理由は聞いているみたいだ。


「すみません、こんな夜分に」

「いえいえ、大事な報告は一秒でも早くするべきですから。では、ルメイル様の下にご案内します」


 急に訪ねた割に、あっさりと案内してくれるんだな。ちょうど何もしていなかった時間帯なのだろうか。

 私たちはメナスの案内についていき、ルメイルの下へと行った。



「アルスよく来た」

「申し訳ありませんこんな夜分に」

「構わん構わん。正直、お主に任せて本当に良かったのか悩んでおったが、こんなにも早く情報を手に入れるとは、中々やるではないか」

「あのお褒めになるのが少々早すぎるかと……」


 ルメイルの言葉に、メナスがそう指摘した。


「そ、そうだな。うむ、まだどんな情報かわからんからな。早速教えてくれ」

「かしこまりました。ではこれをご覧ください」


 私はリーツに預かってもらっていた盟約状を受け取り、それをルメイルに手渡した


「書状か……」


 ルメイルは盟約状を受け取って、中を見た。


「これは…………盟約状? バサマーク様についている郡の署名と印がなされておるな…………むう、ペレーナ郡のもある……………………何っ!? これは!?」


 恐らくマサ郡長の署名と印を見たのだろう。

 驚愕して、目を見開く。


「な、何と……マサ郡がバサマーク様に付いたということか? そ、そんな馬鹿な……マサ郡長殿はクラン様を高く評価していたはず……嘘をつかれるようなお方でもないし……」


 実際にマサ郡長と会ったことがあるルメイルは、私たちより大きな衝撃を受けているようである。


「こ、これは本物なのか?」

「これがペレーナ郡長の屋敷から出てきたのは、間違いないようです。ですがこの盟約状に書かれている、マサの署名と印が本物かは分かりません」

「どういうことだ?」


 私はこれがバサマークの策略である可能性があるということを説明した。


「なるほど……バサマーク様は頭が良い方だから、そのくらいの策を弄してきても不思議ではない……しかし、私の目からこの盟約状にある署名と印は、すべて本物であるように見える」


 ルメイルは盟約状をじっくりと見ながらそう言った。私たちより何度も貴族たちの署名や印を見てきただろうから、彼が言うのなら間違いなのだろう。

 しかし、そうなるとマサ郡が敵になるという事になる。そうなった場合、ルメイルはどういう判断を下すのだろうか。


「あの、その盟約状ちょっと見せてください」


 ルメイルの横で話を聞いていたメナスがそう頼んだ。


「おお、そうか。お主はこういう時、使える力を持っていたのだったな」


 メナスはじっくりと盟約状を見つめる。


「ふーむ。これはマサ郡の署名と印は偽物だと思いますよ」

「本当か!?」

「ええ、ちょっとお待ちください」


 そう言ってメナスは部屋を出て行った。


「メナスにはこういう署名や印などの目利きをすることができるのだ」


 そんな特技があったか。

 私の鑑定は、ステータスを見ることが出来るが、こういう特殊な能力などがあるかないかを測ることはできない。なので、鑑定の結果で完全に人間の有能無能が測れるとは思わないほうがいいだろう。

 スキルが成長して、特殊な能力も鑑定結果に表れるようになってくれれば助かるのだが、私の鑑定で表示される事柄は最初に使った時から、一向に成長していない。期待は出来ないか。


 しばらくしてメナスが戻ってきた。


 もう一つ書状を持ってきている。


「これにマサ郡長様の署名と印が押されおります。念のため見比べてみましょう」


 メナスは持ってきた書状と、盟約状にある署名と印を見比べる。


 ちなみにマサ郡長の印は、六角形の中に円、その円の中に五芒星が書かれているというでデザインである。


「やはり……若干丸の形がおかしいですね…………六角形もわずかに小さいような気がします」


 正直よくわからないが、じっくりと見比べれば、そんな気がしないでもない。


 メナスは今度は物差しを持ってきた。それで二つの印を計っていく。


「やはり僅かですが違いますね。署名のほうもよく似せていますが、字の癖に僅かな違いがあります。これは偽物で間違いないでしょう。ほかの署名と印は恐らく本物なので、バサマーク様側に付く郡長すべての協力を得てやっているのでしょうね」

「うむ、偽物であるのか。安心したぞ」


 マサ郡が敵方に付いておらず、郡長はほっとしたようだ。


「これからこの件はマサ郡長殿、クラン様に報告して解決にあたる。今回は大儀であった。褒美は後に取らせるから、それまで待っているのだ」

「勿体無いお言葉です」


 今回情報を知れたのはファムのおかげなので、褒められても戸惑いはある。ファムもリーツの紹介で知ったわけだし。

 まあ、家臣の手柄は自分の手柄でもあるというのが、領主らしい考え方なのだろうな。


 私たちは、城に一泊して屋敷に戻った。


 そして、数週間後。


 ペレーナ郡の調略に成功したので、カナレ城に登城しろと、書状が届いた。

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