第46話 理由

「よく来たな」


 私はリーツ、シャーロットとその他護衛を引き連れて、ファムに会いに行った。今回はロセルはいない。


「依頼は成功したのか?」

「当然だ。情報を教える前に、依頼料を前払いで貰おうか」


 私は残りの銀貨七枚を支払った。


「毎度あり」

「ところで気になっていたんだが、お前以外のメンバーはいないのか?」

「いるさ。だが依頼人と交渉するのは、団長であるオレの役目だ」


 団員もいるみたいだが、会うことは出来ないか。まあ、わざわざ全員を、依頼人に会わせる必要はないか。


「じゃあ早速ペレーナ郡がクラン側につかない理由を説明をしよう。まず軽く情報を調べた結果、ペレーナ郡長ルルーク・ドーランはバサマークに恩があるという事が判明した」

「恩?」

「ああ、ドーラン家は成り上がりで、ペレーナ郡長になったが、その際、バサマークからの口利きがあった。その恩がある」

「それで弟に味方をしているのか?」

「そう単純な話じゃない。いくら恩があるとはいえ、そう簡単に家が滅ぼされるという選択はしないもんだ」

「ほかに理由があるということか?」

「そうだ。もっと深く調べたところ興味深いものを入手することができた」


 ファムは、巻かれた書状を私に手渡してきた。


「これは……」

「読んでみろ」


 私は中身を読んでみる。


 私はそれを見て驚愕した。

 書状は、バサマークが出した盟約状であった。バサマーク側に付く貴族たちの署名と押印がなされている。

 バサマーク側についている、東側、北側の郡に加え、ペレーナ郡の署名と印もある。

 この盟約状は署名した家はすべて所持しているみたいだった。

 そこまでならいいのだが、その署名と印の中には、西側の大都市マサ郡のものもあった。


「これは……」

「マサ郡がバサマーク様の側に付く……ですか……」


 書状の中身を一緒に見たリーツも、驚きを隠せないようである。


「マサがバサマーク側に付くと、戦況は一気にバサマーク有利となるからなぁ。バサマークは、恩があるペレーナ郡長ならば、自分に付くはずだと思ってこの書状を出したんだろう。クランに付いたら、最終的に負け組になるだろうと判断したペレーナ郡は、クラン側へ付かないと決めたのだろう」

「これは本物なのか? どうやって取ってきたんだ? こんな大事なものそう簡単に取ってこれないだろ」


 私には他家の印が本物であるか判断できないので、これの書状が本物かどうかも分からない。


「方法は言えないな。仕事の仕方だけは、どんなに信頼のおける奴にも話さないことにしている。知っているのは、団員だけだ。オレが言えるのは、間違いなくこれはペレーナ郡長家が住んでいる、ペレーナ城にあったものということだけだ」


 取ってきた方法は言えないか。まあ、仮に方法を聞いても本物であるという確証はない。嘘をつく可能性もあるからな。

 そもそも、彼の言っていることを信用しなくては仕事を頼んだ意味はない。

 ルメイルは他家とやり取りはしているだろうから、印にも詳しいだろう。彼に見せればこれが本物かどうかは、はっきりと分かるはずだ。


「少し信じられない情報だったから、疑ってしまった。気を悪くしたのならすまなかった」

「別に問題ない。オレの調査結果は以上だ。また何かあったら依頼をしてくれ」

「分かった。情報感謝する。この書状は持って行くがいいか?」

「好きにしろ」


 私たちは書状を持ってトレンプスを出た。




 トレンプスを出た後、宿を借りてこれからどうするか話し合っていた。


「しかし、とんでもないことになりそうだな。仮にこの書状が本物なら、クラン殿は戦で大きく不利な状況に陥ることになるぞ。我々はこれからどう動けばいいものか……やはり今すぐにでも、ルメイル様に渡しに行ったほうがいいだろうか」

「そうですね…………」


 リーツは何か考えながら、改めてファムから貰った書状を見る。


「この書状、少し怪しいですね」


 リーツはじっくりと書状を観察した後、そう言った。


「ファムは信用できないのか?」

「いえ、そういう意味ではありません。これはペレーナ城から盗み出されたものであるとは思うのですが、問題はこのマサ郡の署名と印ですね。これが本物でない可能性があります」

「というと?」

「つまりこれは、バサマーク様の策略の可能性があります。マサ郡長の偽の署名と印がなされた盟約状をペレーナ郡長に見せ、署名と押印をさせた」

「出来るのかそんなこと? ペレーナ郡長もマサの本物の署名と印くらい見たことがあるだろ?」

「署名と印の偽造は不可能ではないと思いますよ。本物と見まちがうくらいのものを作って、金を稼いでいる者たちがいるとも聞いています」

「ふむ……しかし、なぜこれが偽物であると思う?」

「盟約を結ぶよう勧誘されたのが、ペレーナ郡長だけというのは、不自然のような気がするからです」

「そうか? ペレーナ郡長はバサマーク殿に貸しがあると言っていたよな? ならこちらに付く可能性が高いということで、ペレーナ郡長を勧誘に行くのはおかしくないだろう。仮に断られたら情報を漏らされるかもしれない」

「情報を漏らされるというのが、バサマーク様の不利になるのでしょうか? 西側の郡はマサ郡長が、クラン様側になるなら、自分たちもクラン様に付こうと判断した郡も多いと思います。マサ郡が味方になったのなら隠すのではなく、それを宣伝するだけでバサマーク様の味方になる郡が増えるでしょう。有利になりこそすれ、不利になることはありません」

「ふむ……確かにそれはその通りだな。ただ、この盟約状が偽物でも、カナレ郡長には声をかけたほうがいいのではないだろうか」

「あまりやりすぎると、嘘であるということがばれる可能性がありますから。偽物ならマサ郡に聞けば一発で分かりますからね。そうなると作戦は失敗に終わってしまいます。なので、貸し借りがあり、恐らく何らかのつながりがあるであろう、ペレーナ郡長だけに、これを送ったものと思われます」

「なるほどな……」

「ルメイル様に持っていき、マサ郡長に尋ねてもらえばどうなのか分かるかもしれませんね。……いや、もし仮に本物だとしたら、マサ郡は何らかの策略があって黙っていたということなので、素直に本物であるということはないですかね……まあ、書状は今すぐにでもルメイル様の目に入れたほうがいいでしょう」

「そうだな。よし、じゃあ早速カナレ城に行くか」


 夜に訪ねるのはマナー違反ではあるが、大事な情報であるので今回は問題ないだろう。

 私たちはカナレ城に向かった。






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