第45話 依頼をする

 アレックスに、ファムの下に案内すると言われ、私たちは彼についていく。


 階段を上り、三階へ。鍵のかかった扉を開けて、私たちは中に入った。


「ファム、客だ……ってあれ? 何で今日は素顔なんだ?」

「バレているから、隠しても意味ないからな」

「は?」


 アレックスは状況が飲み込めていないのか、少し狼狽えている。


「バレているって……え? 働いているお前が、シャドーの団長だと見抜かれたっつう事なのか?」

「ああ、そこの小僧には、変わった能力があるらしい。一発で見抜かれた」

「マ、マジでか……」


 かなりの衝撃をアレックスは受けているみたいだ。店員状態のファムが団長であると見抜かれるのは、それほどまでに想定外な事態なのだろう。あの完成度の高い店員の変装を普段から見ているのだろうから、そう思うのも無理はないか。


「ア、アルスの言う通り、本当にあの人が団長だったんだ……」

「男性だというのは本当なのでしょうか……?」


 リシアはファムの性別が男だというのは、疑っているみたいだ。まあ、本性を表している状態でも、容姿は女にしか見えないし、声も店員時よりは低いのだが、それでも男の声とは思えない声である。


「間違いなくオレは男だよ」


 リシアは本人が言っても、完全に信じているわけではないようだったが、別にファムの性別が男だろうが女だろうがどうでもいいことか。


「ちなみにあの格好は趣味ではないぞ。この世で一番油断される存在は、女のガキだ。それになりきれれば、仕事の成功率が上がる。店員として働いているのは練習のためだな」


 練習のために働いていたのか。完璧に少女に扮せていると思うのだが、まだ足りないとファムは思っているのだろうか。

 変装の完成度が落ちないために、ずっと続けているという可能性もあるか。


「それで、早速依頼内容を聞かせてくれ」

「ん? 依頼を受けるって決めてたのか?」

「ああ、中々ユニークな能力を持っていて、面白そうなんでな」


 私は依頼内容をファムに説明した。


「ふーん……ペレーナ郡が降参しない理由ねぇ……」

「出来そうか?」

「愚問だな。出来るに決まっている。この手の情報収集はオレたちの十八番だ。短期間で済ませることができるだろう」

「そうなのか」

「一週間もあれば可能だな」


 思ったより時間はかからないみたいだ。

 一ヶ月くらいはかかると思っていただけあって、意外だった。


「依頼料は初めての依頼だから安くしてやろう。金貨一枚でいい。前金として約三分の一の銀貨三枚を今いただこうか」


 銀貨三枚、想像していたよりかは安い。


 これなら手持ちの金でも余裕で足りる。

 場合によっては値段交渉もしようと思っていたが、必要ないみたいだ。私は銀貨三枚を支払う。


「毎度あり。一週間で終わると思うが、念のため二週間時間をくれ。二週間後の夜、またここに来い」


 そこでファムとの交渉は終了した。


 もうちょっと色々話し合うかと思ったが、案外あっさり終わったな。


 あとはファムの腕を信じて待つだけであるが、鑑定の結果や変装のクオリティなどを見ると、腕は良いと思って間違いないと思う。


 私たちは店を出る。


「あっさりと交渉終わりましたわね。わたくし役に立つためについてきたのに、何も出来ませんでしたわ」


 リシアが申し訳なさそうにしている。


 依頼は出来たんだから、申し訳なく思う必要なんて全くないんだけどな。ここはフォローを入れておこう。


「私はリシア様と一緒に居れただけで楽しかったですよ」

「へ? そ、そんな……」


 リシアは私の言葉を聞いて、呆けたような表情を浮かべたまま赤面した。


 そのあと、顔を下に向ける。三秒くらい経過したら顔を上げ、


「わたくしもアルス様と一緒に居れて、楽しかったですわ」


 満面の笑みを浮かべてそう言った。


 今まで見てきたリシアの笑顔の中でも、一番輝いて見えた。心の底から浮かべた笑顔だという感じだ。

 これはたぶん嘘の笑いではないだろうと、直感で思った。


 それから私たちは、一晩城に泊まった後、屋敷へと帰った。


 二週間後、言われた通り夜トレンプスへと訪れた。


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