第43話 正体
この容姿で男? しかも二十二歳の大人。しかも、非常に高いステータス。名前はマザークというのか。
使いすぎたから鑑定スキルがバグったのか?
私はリーツに鑑定をかけてみるが、正常な数値が出た。バグってはいないようだ。
念のためもう一度、店員に鑑定をかけてみるが、全く同じステータスが表示された。
ステータスに間違いはないみたいだな。
……これはもしかして……この子マザークがシャドーの団長なのだろうか。
そうとしか考えられないステータスだ。少なくともこれだけのステータスで、ただの一般人ということはあり得ないだろう。限界値が高いだけならともかく、現在値もほぼ限界近い数字になっているからな。即ちかなりの訓練を積んできているということだ。
このステータスが正常であるならば、十中八九マザークがシャドーの団長だろう。
よく考えれば、シャドーは情報収集や工作などを行う傭兵団だ。少女という見た目は、他人に油断されやすく向いているのかもしれない。
しかし、この見た目で二十二歳の男とはな。
変わった人種なのか、もしくは発育不全の病気なのか。
発育不全の病気だと、ここまでのステータスになることはできない気がするので、普通の人種ではないのだろうか。
「あの……まだ何か頼むものがありましたか?」
店員が困った表情でそう言ってきた。
どうやら彼女……いや彼の顔を見過ぎていたようだ。
ここでシャドーの団長だろ? と尋ねない方がいいだろう。
理由は分からないが、少なくとも昼の間は、団長としてでなく店員として働いているので、ここで指摘しても仕事を受けてくれないだろう。
逆に私が正体を見破ったせいで、プライドを傷つけて反感を持たれる恐れもある。
悪印象を与えると、仕事を受けてくれなくなる可能性もある。指摘はしない方が無難である。
「いえ、何でもありません」
「そうですか。では、お水をお持ちしますね」
彼はそう言って水を注いで持って来て、それを置いて去っていった。
口調や細かい仕草を見ていても、ただの少女にしか見えない。これが男など、自分からそうであると明かされても、証拠を見るまで冗談であるとしか思えないだろう。
「アルス様、随分と先ほどの女の子が気になるのですね」
リシアがそう尋ねてきた。
笑顔だが、目は笑っていないような感じがする。少し怒っているようにも感じる。マザークを見ていた事が何か気に障ったのだろうか。
リシアの怒りを鎮めるため、私はマザークを見ていた理由を正直に話す事に決めた。
「たぶんあの子が、シャドーの団長です」
聞こえないよう、小さな声で言った。
私の言葉に、全員ポカンとした表情を浮かべる。
「わたくしと同い年くらいの女の子でしたよ?」
「いえ、あれで二十二歳の男なのです」
「「「え!?」」」
「し、静かに」
話を聞いていた全員が驚いた。
少し肝が冷えたが、まあ、驚くだけなら特に問題ないだろう。
「じょ、冗談だよねー。だって俺の目には女の子にしか見えなかったよ?」
「間違いない筈だ」
「わたくしは……あの方が団長だというのは、信じられますが、男性で二十二歳というのは、信じがたいですわ……」
まあ、性別に関しては鑑定結果を見た私ですら、半信半疑なところもあるので、仕方ないだろう。
「僕は信じます。アルス様がおっしゃる事ですから。しかしアルス様には、隠された性別を見抜く力もあったのですか」
リーツは信じるみたいだな。彼が一番私と一緒にいた時間が長いため、鑑定の精度への信頼度は一番高いのだろう。
「あの子が団長なら今すぐ依頼しに行かないの? わたし待つのちょっと飽きた」
シャーロットがそう言ってきたので、私は今は依頼を受けてくれないだろうから、黙っておくべきだと説明した。シャーロットは不満げな表情をしながらも、渋々了承した。
しばらく経過して尿意を感じてきたので、私はトイレへと向かった。
リーツが護衛に付いてくると言ってきたが、この店は特に荒れてはいないようだし、トイレについてくるというのに気恥ずかしさも感じたため断った。
まあ、私がトイレにいる間は、リーツは警戒してトイレの入り口辺りを監視しているだろうが。
私はトイレに入った。
この世界は下水がそこそこ整備されているため、トイレもそこまで不衛生というわけではない。
用を足し、トイレから出ようとして私は後ろを向く。
その瞬間、私は心臓が止まりそうになった。
「お前、なぜオレがシャドーの団長であると分かった?」
マザークが、先ほどまでとは別人のような様子で立っていた。
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