第41話 同行

「う、うー……何も喋れなかったし、何も聞いてなかった……」


 城から出たロセルが頭を抱えてそう呟いた。


「だいぶ緊張していたようだな」

「だ、だってあんな怖そうな人がいっぱいいるところだと、思ってなかったんだもん」


 軍議の場にいた家臣の中には、当然武闘派の男たちもいる。髭を生やして厳つい顔をしているので、確かに怖いかもしれない。

 しかし、ローベント家にもそういう男はいる。

 大勢いたらダメなのだろうか。


「話聞いてなかったから、結局どうなったか俺分からないんだけど、これからどこいくの?」


 私は今からシャドーに会いにいくとロセルに説明した。


「ふーん、じゃあ予定通りと言えば予定通りなんだ……はぁー、でも傭兵団の人たちも怖そうだな……も、もしかして捕まって売られるかも……」

「そんなことないから、安心しろ。仮に何かあっても、リーツやシャーロットがいれば安心だろ」


 多少はマシになりはしたが、やはりロセルのネガティブな性格は治りそうにないな。


「リーツ、シャドーとは何処に行けば会えるのだ?」

「カナレの城郭外の町にある、トレンプスという酒場です。案内しますね」

「頼んだ」


 私たちはリーツの案内について行く。


 すると、


「アルス様、お待ちください!」


 聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。


 この声は……


 振り向いて確認すると金髪の少女、私の許婚であるリシアがいた。


「……リシア様、驚きました。ハマンド様について来たのですか?」

「はい。反対されたのですが、どうしてもアルス様にお会いしたくて。軍議の場には入るなと言われて、終わるまで城のお部屋で待っていたのです」

「そうですか。しかしお久しぶりですね」


 リシアとは文通はしていたが、直接会うのは一年ぶりくらいである。

 最初に会ったあの日から、一度会う機会があったのだが、それ以降は直接会う機会はなかった。


 一年ぶりに会ったリシアはだいぶ成長していた。

 背も伸びて体つきも女性らしさが出て来ている。

 リシアは十三歳。第二次性徴期なので、たった一年で大きく成長しているのも不思議ではない。


「そうですわね。アルス様もしばらく見ない間に、凛々しくなられましたね」

「いえいえ、リシア様はお美しくなられました」

「まあ」


 リシアは顔を赤らめる。


「ところでアルス様たちは、これからシャドーという傭兵団に会われに行かれるのですよね?」

「そうですが、どうしてそれを?」

「実はこっそり聞いていたのです。傭兵団の下に行くのならわたくしも連れて行ってくださいませんか? もしかしたら、何か役に立てることがあるかもしれません」


 そう提案して来た。

 確かにリシアは政治力が高く、傭兵団との交渉で力になってくれるかもしれない。


 しかし、傭兵団のいる場所は危険な場所である可能性が高い。護衛がいるから大丈夫ではあると思うが、それでも連れて行くのは少々まずいだろう。


「リシア様、シャドーのいる場所は危険である可能性が高いです」

「大丈夫ですわ。わたくし父上からアルス様に同行しても良いと、許可を得ていますの。それでも駄目でしょうか?」


 ハマンドから許可を得ているのか。

 うーん、それなら連れて行ってもいいか。

 せっかく頼んでくれているのに断るのも、何だか申し訳ないしな。


 私はリーツに大丈夫そうか尋ねてみる。


「問題ないとは思いますよ。そこまで警戒が必要なほど危険な場所に行くわけではありません。そんな場所だったら、そもそもアルス様も連れて行きませんしね」

「そうか。では、リシア様、一緒に参りましょうか。私たちから離れないよう、注意をしてくださいね」

「ありがとうございます!」


 リシアは嬉しそうに微笑んでお礼を言ってきた。


 リシアを同行者に加え、私たちはリーツの案内に付いて行き、酒場トレンプスへと向かった。




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