第40話 軍議
カナレ城に到着する。二回目とあって一回目のように兵士に止められることなく、簡単に通ることが出来た。
「アルスよく来たな……レイヴンの事は残念だった……惜しい男を亡くしてしまった……」
郡長ルメイルは沈痛な面持ちでそう言った。
「レイヴンの死を悼んでいる暇は、今の私にはないのが辛いところだ。ほかの領主たちが集まり次第、軍議を開始する」
「了解しました」
その後、しばらく待つとほかの領主達も登城してきた。以前と同じく円卓に腰をかける。
「まず、軍議を始める前に話がある。先日、ランベルク領主、レイヴン・ローベントが病に倒れ死んでしまった。戦場では誰よりも活躍する、才気に溢れた男であった……」
ほか二人の領主は、すでに父の死を知っているため驚きはしないが、沈痛の面持ちで話を聞く。
「我々にレイヴンの死を悲しんでいる暇はない。このカナレの未来のために戦い続けることこそ、レイヴンへの弔いとなろう」
ルメイルは力強い口調でそう言った。そのあと私に立ち上がるように促した。
「知っているだろうが、このアルスがレイヴンのあとを継ぎ、ローベント家の当主となる。まだ子供だが精神的には大人と変わらないくらい立派である。必ず領主としての務めを果たすだろう」
改めてルメイルが私の紹介を行った。
ここは私も何か言った方が良さそうだな。
「新領主のアルスです。若輩者ですが精一杯役目を果たしたいと思います」
普通すぎる挨拶だが、変な挨拶をしてひかれるよりマシであろう。
私の挨拶を聞いていた者たちが拍手を始める。数十秒で止み、私は再び着席した。
「それでは軍議を始める。この場にいる者は意見があれば挙手をして言ってくれ。的外れな事を言っても怒ったり罰を与えたりはしないので、遠慮せずに言うのだぞ」
ルメイルはそう言った。
領主だけでなく家臣たちの意見もきちんと聞く気があるみたいだな。
チラリとリーツたちに視線を向ける。
リーツは私と目が合うと軽く頷いた。何かあれば言うという合図だろう。
ロセルはリーツの後ろに隠れるようにしていた。
どうもロセルは、人見知りを発動させているみたいだ。これは意見を言うことに期待出来そうにない。
「まずは現在の状況を詳しく説明しようではないか。メナス、頼んだ」
「かしこまりました」
ルメイルは、家臣のメナス・レナードに説明を任せた。
「まず、クラン様と当家とでは、水面下で色々やりとりが行われております。今回挙兵をしたのは、戦で勝つ算段が立ったからとの話です。現在のマサを含む四郡と、南側の五郡の合計九郡の調略に成功しており、さらにローファイル州より最強と名高いメイトロー傭兵団と契約をして十分な戦力を保持しており、勝つのは確実だそうです」
当然だが結構色々やってるんだな。兄もそれなりに能力はあるようだ。
ただ、勝つのは確実と言うのは誇張だろう。
戦に確実なんてないだろうし、弟の方も当然黙ってみているわけではないだろうからな。
「西側にある郡で唯一、ペレーナ郡だけが調略に応じていません。ペレーナ郡は立地条件的にクラン様につかなければ、完全に敵に囲まれると言う状況になるのですが、それでもクラン様には付かず、バサマーク様に付くと主張を変えないそうです。私たちにはこのペレーナ郡の調略、もしくは戦で落せとの命が来ました」
ペレーナ郡は、カナレの隣の郡であり、最近は小競り合いの絶えない場所だ。
そうなると調略は難しい、じゃあ戦で落とすことになるのか。
「調略は難しいかもしれませんが、戦わずに落とすに越した事はないので、まずは調略を試みるつもりです。そこで皆様に調略のアイデアをお聞きしたいと思っております」
調略をするのか。予想は外れたな。
しかし調略する方法と聞かれても分からないな。何せペレーナ郡の情報はないに等しいのだから。
ふと、リーツを見ると挙手していた。
「アイデアがあるのか? 話してみよ」
ルメイルがそう言った。
何人かマルカ人であるリーツを見て、侮蔑する表情を浮かべたが、ルメイルにそんな様子は全く見られない。差別をしないタイプの人間なのだろう。
「どう調略するかは、相手の情報がなければ難しいでしょう。そのためまずはペレーナ郡長がなぜ、この状況でクラン様に付かないのか探るべきでしょう」
「もっともな話である。しかし探ると言っても具体的にどうする?」
もしかして傭兵団シャドーを使うと提案するのだろうか。まだ、雇えると決まったわけではないので、リスクが大きいが成功させると郡長からの評価が上がることになる。
リーツがこれから提案するのかと思っていたら、
「そうですね……何か良い方法を考えないと……」
と呟きながら、私に目配せをしてきた。
私に提案しろと言っているのか、もしかして。
少しでも郡長から私への評価を上げるためのリーツなりの気遣いなのだろうが、正直お膳立てされるのは少し気恥ずかしい。
まあ、ここは乗ってやるか。
「情報を集めるため傭兵団を雇うのはどうでしょうか。ちょうど今回の任務に最適な傭兵団に心当たりがあります」
「傭兵か……一応私の家臣にも、情報収集の役目を持っている者がいるが、残念ながらそこまで腕がいいとは言えぬ。その傭兵団は腕はいいのか?」
チラリとリーツの方を見ると、頷いていた。リーツが腕があると言うのなら、少なくともポンコツではないだろう。私は「はい」と返答した。
「それならば、ペレーナ郡長家の内情を探る役はお主に任せることとしよう。ただ、傭兵団を雇えぬことになったり、傭兵団が信頼できぬ者たちだと判明した場合は、すぐに失敗したと報告に来るのだぞ。失敗することは罪ではないが、それを黙っておるのは罪であるからな」
「了解しました」
この人なかなかいい事を言うな。
前世でも部下はいたが、失敗して黙られるのが一番困るからな。
軍議は一度お開きになり、私はシャドーに会うために城を出た。
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