第39話 カナレ城へ
父が死んでから数日後、クラン挙兵の報告が私の耳に飛び込んできた。
クランは挙兵をする際に檄文を書いており、ローベント家のような弱小領主の家にも届いていた。
檄文の内容は、とにかく弟バサマークを非難するものだった。
まず暗殺の黒幕をバサマークと断定(明確な証拠はない)。さらにバサマークの欠点をそこまで言うかというくらいに書いてあった。バサマークには総督たる器はなく、自分こそふさわしいと強調していた。
そして、バサマークが現在州都アルカンテスを手中に収めていることを非難していた。何度も州都を明け渡すよう要求したが、その要求は飲まれなかったため、今回挙兵をすることにしたようだ。
しかし、アルカンテスは現在はバサマークの手中にあるのか。
アルカンテスは州都というだけあって、ミーシアン州の中で一番人口が多い都市である。
当然それだけに動員できる兵力も多くなる。
ミーシアンには、アルカンテスのほかに三つ大都市がある。
西側、ランベルクから一番近い場所にある大都市マサ。
南側にあるセンプラー。
東側にあるベルツド。
ちなみにアルカンテスはミーシアン中央にある。
クランは現在センプラーを治めている。
センプラーは海に面している都市だ。船での貿易が盛んに行われており、ミーシアンの中でももっとも富を生み出している都市だ。
資金を使って傭兵を雇えば、人口では負けていても兵数では負けずに戦えるかも知れないな。
問題は残り大都市マサとベルツドの領主がどちらに付くかである。
この二つの領主がどちらに付くかまだ私は知らない。今回の挙兵でどう動くか、早いうちに見極める必要があるな。
「アルス様、ルメイル様より書状が届いております。恐らくカナレ城へ登城せよとの事でしょう」
リーツがそう報告してきた。
読んでみると、リーツの予想通りだった。
「やはりそうなるか。カナレ城では何を話し合うのだろうか」
「恐らく戦の戦略についてですかね。もしかしたら、クラン様より指示を貰っているかもしれません」
「ふむ、今回の戦でカナレ郡としては、どう動くことになるだろうか……」
「そうですね。状況次第というしかないでしょうね。現時点でミーシアン西側の領主たちがどちらにつくのか、分かっておりませんし。ただマサ郡長が弟の方に着くとなれば、中々厄介なことになるかもしれませんね」
西の大都市マサがある、マサ郡はカナレ郡とも領地が少しだが接している場所にある。場所はカナレ郡の北東方向だ。
カナレ郡の数倍の規模を誇る郡であり、まともに戦っても勝ち目は薄い。
カナレ郡の東隣にあるペレーナ郡は弟に付くという情報があるし、仮にマサが弟に付くとなると、カナレ郡も弟側に付かざる得ない状況になるだろう。
「まあ、カナレ城に行けばどういう状況かはある程度知ることができるか。これが私の領主としての初仕事になるな」
「そうですね。まあ、以前代理で行かれているので、初めてと言う感じはしませんがね」
「そうだな」
以前の話し合いは簡単なものだったので、今回はだいぶ複雑なやりとりをする可能性が高いから、やはり初めての仕事みたいなものであるが。
「そうだ。町に行くが、この前リーツの言っていた『シャドー』という傭兵団と、コンタクトを取ることはできるか?」
父が亡くなり領主になったため、傭兵を雇うか雇わないかの判断は、これからは私が行う。
何人かの兵たちに、情報収集役として訓練は積ませているが、やはり時間がかかるので今すぐにでも情報収集役が欲しいと思っていた。
これからどうするか考えれば考えるほど、やはり情報が必要だと思ってくる。どれだけ知略の高いものがいても、情報がなければ適切な判断をすることは出来ない。
「カナレの町からコンタクトを取ることは可能ですよ。しかし、彼らは金だけで動くタイプではないので、雇えるかどうかは分かりません」
「傭兵なのに金だけで動かないのか?」
「ほとんどの傭兵団は報酬次第ですが、稀にそうじゃない傭兵団もいますよ。シャドーの団長は変わり者ですから、どういう基準で選んでいるのかはよく分からないんですがね」
「そうなのか。とにかく雇いたいから、カナレ城で話を聞いた後、私をシャドーの団長と会わせてくれ」
「了解しました」
その後、私は同行するものを選ぶ。
前回と同じくリーツとシャーロットと何名かの家臣、そして今回はロセルも連れて行くことにした。
今回は本格的な軍議が行われる可能性もある。
ロセルが良い意見を言っててくれると思っているわけではなく、将来軍師になるなら早いうちに経験を積ませたいと思ったから連れて行くことにした。
私は家臣たちと共に屋敷を出て、カナレ城へ向かった。
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