第33話 郡長の話

 メナスに付いていくと、豪華な装飾がなされた扉の前に案内された。


「少々ここでお待ちいただきますか?」


 そう尋ねてきた。私は「はい」と頷く。


 私の返事を確認すると、メナスは扉の中に入っていく。

 数秒後、


「何!? それはまことか!?」


 という叫び声が聞こえてきた。


 その後、慌てたようすでメナスが入ってきて、


「皆さま、お、お入りください」


 部屋に通された。


 すると、髭面の男が私に駆け寄ってきた。


「君がアルスか! レイヴンが病に倒れたらというのは本当か!?」

「え、ええと、本当です」


 男の勢いに私は少し押されてしまう。


「あ、すまない。わしはルメイル・パイレス。この城の城主であり、カナレ郡の郡長を任されている男だ。君はアルスか。まだ幼い頃会ったことがあると思うが、覚えているか? 随分、大きくなったな」

「はい、覚えております」


 だいぶ昔のことなのでうろ覚えだが、確かに見覚えがある。その時はもうちょっと若かった記憶がある。

 鑑定もしたはずだが、覚えていない。結構優秀だった気がする。


 私はルメイルを鑑定してみた。


 ルメイル・パイレス 44歳♂

 ・ステータス

 統率 67/68

 武勇 86/86

 知略 56/56

 政治 72/73

 野心 31

 ・適性

 歩兵 B

 騎兵 C

 弓兵 C

 魔法兵 D

 築城 D

 兵器 D

 水軍 D

 空軍 B

 計略 D


 武勇が高いし、ほかの能力もどれもそれなりにある。郡長としての器があると言っていいのかどうかは分からないが。


「お主の父がかかった病は、グライ病で間違いないのじゃな……実はほかでもないわしは妹をグライ病で亡くしておる。であるから、あの病気の恐ろしさはよく知っておるのだ。レイヴンは今は安静にしておかねばならないであるだろうな……」


 身内がグライ病にかかっていたのか。

 医者は珍しい病気だと言っていたから、メナスが知っていることに、少し違和感があったが、それならおかしくないか。


「まだ十歳やそこらで、父の代理にここまで来たのは、まことに立派なことである。良い後継がローベント家にいるようだな」


 ルメイルは私に頬ええみかけながらそう言った。


「ほかの領主たちがまだ来ておらんから、しばらく待っていてくれ。メナス、アルスたちを部屋へと案内するのだ」

「はっ」


 メナスは返事をしたあと、「それでは付いてきてください」といい、私たちを待つための部屋に案内した。


 それなりに広い部屋で、ソファやイス、ベッドなどが置いてあり、寛げるようになっていた。


「郡長殿の話とは、やはり今回の戦で兄弟のどちらかにつくかということだろうか」

「そうでしょうね。恐らくどちらに着くか、ルメイル様の腹は決まっていて、それを伝えるために呼んだのでしょう」


 恐らく兄の方につくという話をするのだろう。

 意見を求められる可能性もあるが、その際は特に何も言えないな。今の私の持っている情報で、兄と弟のどちらについた方が得か損か、分からないからな。


 しばらくすると、メナスが部屋に現れて、


「ほかの領主様たちが来られたので、ルメイル様のお話をされます。私について来て下さい」


 そう伝えてきた。


「分かりました」


 私たちはメナスのあとについていく。


 城の大広間に案内された。

 真ん中に円卓がある。その円卓にはすでに二人の男が座っている。私以外のカナレ郡の領主だろう。円卓の周りには領主たちの家臣と思われる人たちが、直立姿勢で立っていた。


 カナレはランベルク、トルベキスタ、クメール、そしてカナレの四つの領地で構成されている。


 領土の大きさと領民の多さは、カナレ>>>>トルベキスタ>クメール>ランベルクという感じだ。


 郡長が直接収めるカナレが一番広く、一番人も多い。ほかはランベルクが一番小さいとはいえ、どこも大きな違いはない。


「初めましてアルス・ローベントです。ランベルク領主、父レイヴンの代理で来ました」


 私はほかの領主二人に挨拶をした。


「初めまして、私はトルベキスタ領主のハマンド・プレイドだ。この前は娘がお世話になったようだね。娘も喜んでいたよ」


 最初に金髪の男がそう言った。

 彼がリシアの父親だ。どことなく似ている気がする。


「おもてなしを喜んでいただけたなら、こちらも嬉しい限りです」

「しかし、レイヴンが風邪で倒れたって? あの殺しても死なないような男が。まあ、奴なら風邪も吹き飛ばすだろうから、そこまで心配はしていないけどね」


 ハマンドは父のことを心配はしていないようだ。父と仲が良く、よく知っているからこそ、病気で死ぬとは毛ほども思っていないようである。


「わしも初めてじゃな。クメール領主、クラル・オルスローじゃ。レイヴンが来れぬとなれば、痛手になるのう」


 初老にさしかかった男がそう言った。


 この二人の領主のことはきちんと知っておかなければな。早速鑑定を使ってみようと思ったその時。


 ルメイルが姿を現した。


 領主たちは席から立ち上がり、ルメイルに向かって頭を下げる。私もそれを真似した。


「頭を上げよ」


 その言われて、私は頭を上げる。

 そして、ルメイルが席に座ってから、私を含め領主たちは席についた。


「よく集まってくれた。今から話すことはほかでもなく、総督様が暗殺されたことで戦が起きた場合、兄のクラン様に付くか、それとも弟のバサマーク様に付くか、ここで私の意思を示しておきたい」


 話は予想通りだった。


 どちらにつくかも予想通りで、兄のクランに付くと、ルメイルは明言した。

 事前に決めていた通り、私は特に意義は申さずに賛同した。ほかの領主たちも反対するものはいなかった。


「そうか、今話すことはこれ以外にはない。各々来るべき戦のために、戦力を整えておいてくれ」


 これだけだったのか。

 それだけ言うために集める必要あったのかと思うが、重要なことなのでどうしても直接同意を得たかったのだろう。

 私たちはルメイルの了解の返事をして、今日の話は終わった。

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