第34話 忘れる

 郡長からの話が終わった後、私たちは一晩城に宿泊した。

 ちなみにハマンドとクラルのステータスを鑑定してみたが、どちらも特に優れたステータスではなかった。


 翌朝、帰り支度を整えて、城を出ようとすると、


「アルス、少しいいかい」


 ハマンドに声をかけられた。


「はい、何でしょうか?」

「実は娘について聞きたいことがあるんだ。最近少し機嫌が悪いようでね。君はリシアと頻繁に手紙のやり取りをしているようだが、何か原因に心当たりはないかね?」


 機嫌が悪い?


 残念ながら心当たりはない。

 最近届いた手紙の内容も、いつもと変わらない感じだったはずだ。


 ……いや、待てよ?


 手紙は確かに読んだし、内容に違和感を感じることもなかった。

 しかし、手紙を読んだあと、私は返事を書いただろうか?


 ……書いていない気がする。


 返事手紙を書こうと思っていた時、ちょうど父が倒れたり、総督が暗殺されたりと、色々あったので、すっかり忘れてしまっていた。


 確かに忘れてしまったのは、失礼だったと思うのだが、リシアがそれで周りから分かるほど不機嫌な態度を取るものだろうか?


 まあ、もしかして案外私との文通は、心の底から楽しんでいたという可能性もあるか。

 それなら不機嫌になっていても不思議ではない。


 私は手紙の返事を出し忘れていたということを、ハマンドに話した。


「あー、それはいけないかもね。娘は君から返事が来るのを、毎回凄く楽しみにしていたからね。色々あって忙しいとは思うけど、出来れば返事を出してあげて欲しい」


 ハマンドが言っているのだから、かなり楽しみにしているというのは、間違いなのだろう。

 悪いことをしてしまったな。


「分かりました。帰ったらすぐに書いて出します」

「よろしく頼むよ」


 そこで会話は終わり、ハマンドは去っていった。


 私たちは城から出て、急いで屋敷に戻った。



 ○



 屋敷に戻ると、リシアからの手紙が届いていた。

 内容は、


『アルス様、長らくお返事いただけないのですが、何かあったのでしょうか? わたくしに至らぬ点があったでしょうか? 仮にあったのなら教えて下さるとありがたいです』


 と書かれていた。

 罪悪感を抉ってくるような手紙だった。


 彼女の本性を考えると、本当にここまで健気に思っているのかは疑問であるが、それでも罪悪感を感じずにはいられなかった。


 私はすぐに、


『リシア様は悪くありません、最近父が倒れたり総督が暗殺されたなど色々あって、返事を出すのをすっかり忘れてしまっていました。申し訳ありませんでした』


 と謝罪の念を書いた手紙を出した。



 そのあと、ロセル、リーツを勉強部屋に集め、改めてこれからの方針について話し合うことにした。


「さてこれからの方針だが、やはり郡長の言った通り、まずは軍備をより整えた方がいいだろうか」

「軍備は整えるべきですが、これ以上兵を増やすのは難しいのが現状です。兵の練度を上げることは出来ますが、数が増えないことには劇的な戦力アップにはつながらないでしょう」

「それもそうか」

「レイヴン様が治られる前に戦が起きた場合、アルス様が兵を率いる事になると思うので、やはりまずはアルス様ご自身が、兵の指揮になれる事が肝要かと。数は少なくなりますが、兵を率いての模擬戦をするのも、よいかと思います」


 模擬戦か。

 実戦とは違い、命のやり取りはしないだろうが、やった方がいいだろうな。

 いざというとき慌てないようにするためには、模擬戦でも戦をするという経験を積むほか、方法はないだろう。


「ロセルからは何かないかい?」

「うーん、郡長は兄の方につくって明言したんだって? その兄は弟に勝てそうなのかな?」

「現状持っている情報では判断しかねる」

「そっかー。でもそれじゃあダメだと思うよ。この戦で負ける方についちゃったら、下手したら弱小で成り上がりのローベント家は、潰されちゃうよ。確実に勝てる方につかないといけない」

「……それはそうだな。しかし郡長殿が決めたことに、逆らうわけにはいかないだろう」

「仮に兄がダメだと分かったら、弟に鞍替えするよう説得して、それで駄目だったら裏切ることも考えないといけない」

「裏切り……」


 まさに戦国大名のようなことをしなくては、この先、生きていけない可能性があるというわけか。


「今、俺たちに足りないのは情報だよ。情報がないと、どんな戦術も戦略も立てられない。今からでも何とかミーシアン全土の情報を積極的にかき集めるべきだよ」

「具体的にどうやるべきか」

「……誰かに情報を集めさせるとか? 兵士を使って」

「それで上手くいくか?」

「うーん……」


 ロセルと私が悩んでいると、


「情報収集ならうってつけのものがいますよ。『シャドー』という傭兵団です。影魔法を得意とし、情報収集、工作行為などを得意としています。金を出せば雇えますが、決して少額ではありませんよ」

「傭兵か……流石に父に黙って傭兵を雇うのはまずいだろう。それは父の容体が回復してから考えるべきだな」

「それもそうですね」


 ただ、情報収集を専門とする傭兵がいたというのは、収穫だった。情報こそもっとも大事であるという考えは正しいと思うからな。


「傭兵は雇えないが、情報収集が上手そうな兵士を何人か選抜して、ミーシアン各地に派遣しよう。やらないよりかはマシなはずだ」

「分かりました」


 今日の話し合いで決まったことは、模擬戦の練習をやるという事と、情報収集をするための家臣をミーシアン各地へと送り込むの二つだ。


 数週間後。


 再び予想外の事態が起きた。





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