第31話 これから

 翌日、父は目を覚ました。


 目覚めたはいいが、あまり元気ではなさそうだった。気怠そうにしていて、熱もまだ下がっていない。病気のことは全部は伝えるとショックを与えるかもしれないので、死ぬ可能性があるということは、現在は伏せておいて、とにかく安静にしているようにと言った。

 本人もよほどきついのか、大人しく指示に従った。


「今のレイヴン様にあの事を伝えるのは、やめておいた方がいいかもしれませんね」

「そうだな……」


 私はリーツと話し合って、父にミーシアン総督が暗殺されたという件を伝えないことに決めた。


 余計な心労をかけて病気が悪化したら不味いからである。


「それで……ローベント家はこれからどうなると思う?」


 私はそう尋ねた。

 ちなみに今はいつも勉強をしている部屋に、リーツとそれからロセルを読んで話し合いをしている。

 リーツは当然として、ロセルも知略が94まで伸び、こういう話し合いでいい意見を言ってくれるようになっている。


「うーん、戦は間違いなく起こると思うよ」

「やはりか」

「だって後継者決まる前に、総督さん死んじゃったんでしょ? 戦わないと決まらないよ」

「リーツもそう思うか」

「はい、戦は起こるでしょう」


 やはり、総督がこの時点で死んでしまった=戦、と見て間違い無いだろう。


「問題はいつ起こるかですがね。ただ死因が暗殺ということだけあって、お互いがお互いを黒幕だと主張して、すぐに戦い始める可能性もゼロじゃないでしょう」

「なるほど……しかし、こんな時期に暗殺されるなんて、誰が暗殺者を差し向けたんだ」

「総督を殺したものは一度は捕らえたらしいのですが、情報を聞き出す前に自害したらしく、誰が黒幕かは謎のままです」

「兄弟のどちらかが犯人なのか?」

「どうだろうね。あくまで現時点では後継者が白紙に戻っている段階だから、暗殺しても意味がない気がする。総督が誰に決めるのか、胸中を誰かに打ち明けていて、それを選ばれなかった方のどちらかが、聞いていたという可能性もあるけど。あと、ほかの州の刺客という可能性もある。総督を殺せばミーシアンが混乱するのは、目に見えていたからね。まあでも、外部から暗殺者を差し出して、暗殺を成功させるなんて、難易度がかなり高いから、それも違うかも知れない」


 兄弟以外にも外部犯の可能性ありか。

 どちらにせよ、暗殺者が死んでしまった以上、本当のことを知るのは難しいだろうな。


「犯人探しは考えても分からないし、分かったところでどうにもならないので、ここまでにしましょう。問題は戦が起こってから、どうするかです。レイヴン様はしばらく戦に出られるようなお体ではありません」


 リーツとロセルには、父の診断結果を話してある。


「リーツが兵を率いるわけにはいかないのか?」

「と、とんでもないですよ、そんなこと。確かに私は以前に比べて、ローベント家の人達にも受け入れられてきましたが、兵を率いるなんてのは無理です。アルス様が行くしかありません。兵はローベント家に忠誠を誓って戦っております。そのため、レイヴン様かアルス様がいなくては、兵の士気が落ちてしまうのです」


 士気、か……やはり父が戦場に出られない以上、私が行くしかないか。


 果たしてちゃんとやれるか疑問であるが、やれなければ父が死んでしまう。やるしかないのである。


「まあ、戦う前に、恐らくカナレ郡長から招集がかかるでしょうね。今後カナレ郡全体として、どういう方針で行くのか、決めるための会議が行われるでしょう」

「……それにも父は出ない方がいいな」

「ええ、話し合いだけとはいえ、そもそも移動だけで御身体に障ります。出るべきではないでしょう」

「うーん、会議となるとやはり私が代表として出ざる得ないだろうな……いきなり出てちゃんとやれるのだろうか……何というかいきなり問題が山積みになってきた……昨日までさほど忙しくなかったのに」


 私は思わず頭を抱える。


「が、頑張れ」

「ロセル……やけに他人事だな……」

「え、えーと、アルス様。私が全力で補佐をしますので。ロセルも他人事みたいに思っていないで、ちゃんとアルス様の手助けをしなさい」


 ロセルは頷いた。


「それと総督が死んだという情報は、父にはこれから先ずっと一切伝えない方がいいか。」

「そうですね……総督が死んだことを伝えると、病気なのにはりきってしまわれるかもしれませんからね。医者に言われた通り、安静にしてられるなら、情報がバレることもないでしょうが。仮にバレたときは、かなり怒られるでしょうけどね」

「怒られるくらいなら安いものだ」


 父は怒ると確かに怖いが、この状況でそれを怖がるわけにはいかないだろう。


「まずはカナレ郡長から招集がかかるまでは、ある程度時間はあるだろう。それまで私は戦の勉強や、剣術の稽古などをしておかなくてはな」

「はい、教えることならお任せください」


 私は、しばらくの間、いつもより多めに勉強や稽古に励んだ。



 そして、三月十五日。

 カナレ郡長から、至急カナレ城へと来いという内容が書かれた書状が届いた。


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