第30話 病気
翌日、リシアは朝食を食べた、贈り物を受け取った後、トルベキスタへ帰っていった。
贈り物を受け取ったリシアは、満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
とても自然な笑顔で演技だとは思えなかったが、リシアの事なので恐らく無邪気に喜んでみせたのだろう。
リシアが帰ってから数日経過した。
すると、リシアから手紙が届く。
おもてなしに対するお礼や、貰った花はきちんと育てているなどの報告が書かれていた。
礼儀として返答の手紙を書いて、リシアの元へと送った。
それからというもの、やたら早いペースで手紙が届くようになった。内容は他愛のない近況報告から、愚痴みたいなものである。返答しないわけにもいかないので、全ての手紙に返答をしているのだが、そもそもそんなに書く内容は存在しないので、かなり悩んで毎回手紙を書いている。
リシアはどういうつもりでこんなに手紙を出してくるのだろうか。私の語彙力を試したりでもしているのか?
それとも、意外と単純な理由で、文通をするのが純粋に楽しいと思っているからなのだろうか?
いや、それはないか。
リシアと文通を始めた事以外、特に変わった事はない。特別凄い人材は見つかっていない。そもそも領地が弱小なので雇える数にも限度がある。もうローベントが雇える、ギリギリ限界まで家臣の数は増えていた。
そして、大きな出来事も起きずに一年半ほど過ぎたとある日。
父が病で倒れた。
◯
それは三月四日、秋の日の事だった。
私が十一歳の時の出来事であった。
実は数ヶ月ほど前から、父は咳をすることもなくなり、元気になった。病気は完治したものであると思っていた。
なので、父が突然倒れたという話を聞いたときは、とにかく驚いた。
朝、練兵場で兵たちに訓練をしていたところ、倒れてしまったらしい。死んではいないようだが、意識を失ってしまったようだ。
原因は不明。父はすぐに屋敷へと運ばれ、ランベルクにいる医者を呼び治療にあたらせた。
「父は大丈夫なのか? 助かるのか?」
私は医者に、父の安否を尋ねた。
目の前にはベッドで横になっている父がいる。
「今のところ命に別状はありませんが……かなりの高熱があるみたいですね。うーんこれは……ちょっと前までレイヴン様は体調を崩されておりましたよね……長い風邪だと思っていましたが、治ったみたいで安心していたのですが……どうやらこれは……」
医者は少し暗い顔で呟く。
「父の病気は治っていなかったのか?」
「ええ、恐らくレイヴン様はグライ病という少し珍しい病にかかっております。何が原因で病になるのか分からない謎の病気です。人に移ることはありません。一度かかると、最初は風邪のような症状が続き、それからしばらく症状が収まるのですが、しばらくすると、こうやって突然、高熱を出すようになったり、食欲が急激に衰えてきたり、嘔吐や下痢をするようになったり、ほかの病気にもかかりやすくなったりと、様々症状が出てきます。そして、最終的に死に至る事もあります」
聞いたことない名前の病気である。
前世でも同じような症状の病気は聞いたことはない。まあ、私は病気に詳しくはなかったので、もしかしたら知らないだけで似たような病気があったのかもしれないが。
「治るのかその病気は?」
「治す薬はありません。自然に治るのを待つしかありませんが、ほとんどの場合、治らずに一年以内に死んでしまうようです。レイヴン様は常人より丈夫ですので、普通の人より生き残る可能性は高いと思いますが……」
「……」
死ぬ。
父は死んでしまうのか?
私は激しく動揺した。
いずれその時が来るとは思っていたが、いくらなんでも早過ぎはしないだろうか。
「とにかく普通の風邪を治す時のように、絶対に安静にしておけば、まだ死なない可能性もあります。レイヴン様は働き者であられるので、絶対に周りが働くのは止めて、寝かせておいて下さい。そうすればもしかしたら、治って死なずに済むかもしれません」
医者は、精のつく食べ物を教えてくれたり、薬草を煎じたりしてくれたあと、帰っていった。
安静にしていれば治るかもしれない、か。
きっと治るだろう。
父は誰よりも丈夫な体を持っている。病などには負けたりしないはずだ。
最近、意外と戦も少なくなってきた。
死ぬかと思われていたミーシアン総督が、奇跡的に復活して、兄弟の争いを止めたからだ。
ちなみに、後継に弟を指名したというのは、本当のことであるらしい。
ただ、今回の件で弟を跡継ぎに指名して、荒れそうだと思ったのか一度白紙に戻した。
もう少し家臣や本人と、長い議論を交わした上で、改めて決めると結論を出したらしい。
とにかくそのおかげで、戦は現状少なくなっている。
戦がなければ、父も安静にしていてくれるはずだ。
私はそう思っていたのだが……
その日の夜、ミーシアン総督が暗殺されたという、この上なくタイミングの悪い報告を受けた。
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