第26話 挨拶

 リシアをもてなすための一日の予定はこうである。


 まず、私が屋敷までエスコートしたあと、総出でお出迎え。その後、昼食を振る舞う予定だが、思ったよりリシアが早くきたため、変えるかもしれない。早めに昼食を取ることもあるので、そのままにする可能性もある。


 その後、昼は村を私とリシアの二人で歩く、所謂デートをする。二人でと言っても、少し遠い場所にだが、護衛をつけるらしい。


 その後、戻ってきて少し休憩。

 昼寝でもしたあと、夜になると夕食。

 夕食中には余興を開く。演奏をしたり、魔法を使った余興などをやる。

 一応ローベント家には、急な来客があった場合、もてなせるように、いつでも余興を出来るようにしている。


 使用人たちには演奏技術を仕込んでいるし、兵も戦うだけでなく余興も出来るようになっていた。


 ただあくまで、大人を楽しませるための余興なので、子供のリシアが喜んでくれるかは分からない。その辺どうするかは、完全にリーツ任せとなっている。彼なら何とかするだろう。


 そして帰り際に、ミラミスの花束やその他喜ばれそうな物を贈呈する。


 滞在期間は分からないが、基本的に一日以上いてはならないみたいな、貴族としてのマナーみたいなのがあるので、多分明日帰るだろう。


 仮に二日以上いるのなら、相当忙しくなる。


 ということで、まずは総出でお出迎えということで、屋敷に入った瞬間、「ようこそおいで下さいました、リシア様」と家臣たちがピシッとお辞儀をして、出迎えた。


 全員、いつもよりもきっちりした格好になっている。

 屋敷の内装も、いつもよりも綺麗である。ミラミスの花が飾られていたり、いつもは倉庫にしまってあるような、美術品が飾られたりしている。


 総出で出迎えなのだが、父はいない。

 風邪を引いた状態で、リシアの前に出てまずいと考えたのだろう。まあ、うつしてしまってらまずい。賢明な判断だろう。

 それとなぜかリーツもいない。何か用があるのだろうか?


「初めまして、ご存じのようですが、わたくしリシア・プレイドと申します。よろしくお願いしますわ」


 と家臣たちにも頭を下げて挨拶をした。

 下の身分の者には、非礼になる貴族は割と多いのだが、彼女はそういうタイプではなさそうである。


 その後、リシアは、「これからわたくしの家臣ともなられるかもしれない方々と、なるべく早く仲良くなりたいですわ」といい、一人一人丁寧に挨拶をしていった。


 この場にいる家臣たちは、この家に住んでいる使用人と、魔法兵や、騎兵など高度な戦闘技能を持ち、直接ローベント家から給金を貰っている者たちだ。


「アルスの許嫁、綺麗な子だね」


 そのどちらにも当てはまらないロセルもいた。

 彼の場合は将来直接雇われる立場になるだろうかが、今はあくまで立場上は狩人の三男である。

 まあ、ロセルは私には常にタメ口なのだが、礼儀は知っている子なので、この場にいても問題はない。


「リーツはどこにいるんだ」

「ん? 先生ならマルカ人が出迎えると、不愉快に思われる可能性もあるから、出ないと言って引っ込んでいったよ?」

「あー……」


 そこを気にしていたのか。

 リーツは、戦場で活躍しはじめているので、名声が高まっており、最初は他家から馬鹿にされていたようだが、最近はすっかりそんな声もなくなっているという話を聞いている。

 なので、この場に出てきても特に問題はないと思うのだが。


 そのうちリーツの存在はリシアも知ることになる、いやすでに知っている可能性が高いので、問題があるのなら直接会う約束を取り付けられて、いないと思うのだがな。


 その辺のことはリーツなら考えているだろうが、考えた末に念のため引っ込んでおくと、結論を出したのだろうか。


 リシアは家臣と一人一人と握手を交わして、軽く会話をする。

 とにかく、完璧な笑顔と口のうまさで、良い子だという第一印象を家臣たちに植え付けいっているようだ。


 どう見ても良い子にしか見えないが、やはり私には心の中で鑑定で見たステータスが、引っかかっていた。


 政治の高さではなく、野心の高さにひっかりを覚えている。

 よく考えれば、政治が高いだけなら天然で人に好かれやすいで説明がつくかもしれないが、野心まで高いとなると、計算でやっている可能性がある。


 そして仮にそうだとすると、油断して気づいたら実権を握られていたなんて事にもなりかねない。


 気軽に心を許してはいけない。


「うーん、第一印象は綺麗な子……なんだけど……何か怖さを感じるなぁ……」


 横でリシアを観察していたロセルがそう言った。


「何でそう思う?」

「う、うまく言えないけど……笑顔が作りっぽいっていうか、言葉が白々しいっていうか……何か取り入っているような感じがして……ア、アルス……下手に彼女に気を許すと、毒を盛られて殺される可能性もあ、あるよ……そ、それで俺は逆らえなくて、奴隷のように扱き使われるかもしれない……だ、駄目だ、彼女に気を許しすぎちゃ……」


 と小声で私に忠告してきた。


 割と直感が鋭いところがロセルにはある。

 少しネガティブになりすぎているだけの可能性もあるが。


 彼女がどんな人間かは、これから自分の目で見極めるしかないか。人の心の奥底は、鑑定でも見ることはできない。


「あ、シャーロット姉さんの番になった」


 ロセルの言葉に、私はしまったと思う。


 シャーロットには、あまり礼儀作法などを教えていない。

 何を考えているのか分からないところがあるので、何をしでかすのか分からない。

 すごく無礼なことをやる可能性もある。


 リーツではなく、シャーロットを引っ込ませるべきだったと、失礼なことを思ってしまった。


 リシアはシャーロットに、握手をする前に、


「あ、もしかして、ローベント家のシャーロット様ですか? 女性でありながら、凄い魔法を使い、戦場では数多の敵を葬り去っているという話を耳にしておりますわ」


 と言った。


 シャーロットは、魔法兵らしくローブを身につけた服装なので、それでリシアは気づいたのだろう。


 他家に自分の名前が知れ渡っていることが嬉しかったのか、


「以下にも、わたしがシャーロットだ」


 と何様だというくらい、胸を張って挨拶をした。


 完全に非礼な行為である。

 やばい終わったかと思ったが、


「やっぱりそうですわよね! わたくし一人の女性として尊敬しております! 握手してください!」


 とリシアはまるでヒーローショーに行った子供のようにはしゃいで、握手を求めた。


 どうやら大丈夫だったようだ。肝を冷やした。


 握手をした後、相変わらず偉そうな態度を改めない。一応大人相手にはあんな横柄な態度は取らないが、リシアが子供で年下なのであんな態度になっているのだろう。奴には礼儀というものも、叩き込んでやる必要があるようだな。


 それから全員とリシアは挨拶をし終える。


「あの、レイヴン様はおられないのでしょうか?」

「父は少し病が酷くなったみたいで、うつてしまったらいけないので、会わないつもりのようです」

「そうですか……心配ですねが、お会いになられないつもりなら、仕方ありませんね。あ、それからマルカ人のリーツ様はおられないのでしょうか? 戦場での活躍が目覚ましいお方だと聞き及んでおりましたので、ぜひお会いしたいと思っていたのですが」


 どうやらリシアには、リーツに対する差別意識はあまりないようだ。出てきても良かったようだな。あとでリーツにはこの事を伝えよう。


 少し早い時間だが昼食を取り、そして昼、一番緊張するデートの時間がやってきた。

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