第25話 リシア
私は、リシアが来たという報告を聞いて、急いで屋敷を出て門の前に行き、出迎えに行った。
門の前に、数人の執事やメイドを連れた、金髪の少女がいた。
少女は急いで駆けつけてきた私を見て、微笑みを浮かべ、
「初めまして、わたくしリシア・プレイドと申します」
と綺麗に頭を下げて挨拶をしてきた。
優雅な仕草から、育ちの良さを感じさせる。
私も自己紹介をしながら挨拶を返した。
リシアを改めて見る。
身長は低い。
十歳くらいの年齢だと、女子と男子は成長は変わらないか、女性の方が成長が早いというイメージがあるが、一歳年下の私より背が低いくらいだ。決して私も背が高い方ではない。
顔はおっとりしているという印象の美少女である。
目は垂れ目気味。肌は白い。体型は子供なので当然未発達である。
花が好きだという前情報から、心優しそうな子をイメージしていた。少なくとも外見はイメージ通りである。
私は、一応彼女も鑑定して見ることにした。リシアは許嫁であり家臣ではないので、それほど優秀でなくてもいいのだが、優秀であるのに越したことはないからな。
リシア・プレイド 10歳♀
・ステータス
統率 5/10
武勇 5/10
知略 45/73
政治 77/100
野心 80
・適性
歩兵 D
騎兵 D
弓兵 D
魔法兵 D
築城 D
兵器 D
水軍 D
空軍 D
計略 B
な、なんだこのステータスは……?
政治の高さが突出していている。知略も高いけど政治に高さに比べれば霞むくらいだ。
100て……現時点で77もあるし。
政治は高ければどうなるか、いまいち分かりづらい能力だ。
コミュニケーション能力が高かったり、交渉能力が高かったり、調整能力が高かったり、良い政策を考えつく発想力があったりすると高くなると思う。
それと野心の高さがおかしい。
80って……なぜこんなに高い。
大領主の嫁にでもなりたいのかこの子は。
何というか第一印象のおっとりとした優しい様子が、鑑定をしステータスを見ただけで百八十度変わった。
今もニコニコと笑みを浮かべているが、天然で笑みを浮かべているのではなく、相手に良い印象を与えるよう、計算でやっている可能性がある。優秀な人間なことには間違い無いだろうが、果たしてこれはローベント家にとって吉となるのか凶となるのか分からない。
まあ、計算ではなく天然でそれをやれるからこそ、政治力が高くなっている可能性もあるか。あまり、考えすぎは良くないかもしれない。
「あの……わたくしの顔に何かついておりますでしょうか?」
鑑定結果に驚いて、遂リシアの顔をじっと見つめてしまっていたようだ。
どうやって誤魔化そうか考えていると、
「きっとリシア様のお顔が綺麗で、見惚れていらしたのですよ!」
と後ろにいるメイドがそう言った。
場面が場面なら、無神経な発言と取られかねない発言だが、この場は助かった。
「そ、そうです。笑顔が素敵な方だと思って見ておりました」
とメイドの発言に乗っかり、リシアを褒めた。
似合わないギザな発言であるが、褒められて悪い気のする女性は多分いない。
「まあ、照れますわ……」
リシアは少し頬を赤く染めて、照れていた。
とても自然な反応で、演技であるとは思えない。
「それでは、屋敷までご案内します」
「はい、よろしくおねがいします」
私は屋敷に向かって歩き出し、リシアはその横を歩く。メイドや執事たちは、私たちから五歩ほど後ろを歩いている。
「ランベルクは素晴らしい場所ですわね」
リシアはそう切り出してきた。
お世辞なのか、本気なのかは分からない。
「そうですか?」
「ええ、自然豊かで村にも活気があります。わたくしの故郷トルベキスタもいい場所ですが、それよりもっと素晴らしいですわ」
嘘をついているようには見えない。
田舎で何もない土地なので、幻滅されるかとも思っていたが、心配し過ぎだったか?
「トルベキスタは、どんなところなのですか?」
「ここと同じく自然が豊かです。領民たちは優しいですわ。でも、勇猛さには欠けているので、戦ではあまり活躍できておりません。レイヴン様の率いる兵は、とても勇猛で戦場で活躍しておられると聞きますので、その点は羨ましいですわ」
こんな感じで、会話をしながら歩いた。
門から屋敷まで、普通に歩けば一分もかからないくらいであるが、話が弾み、途中で止まったりしていたため、結構時間がかかった。
彼女は、非常に会話がうまい。
私はそれほどコミュ力があるタイプではないので、話が弾んでいるのは、彼女のおかげだろう。
始めて許嫁と会うということで、多少緊張しそうなものだろうが、それが全く見られない。
私の話を引き出して聞くのも上手ければ、自分で起承転結のある話をするのも上手い。
リアクションも嘘っぽさをまるで感じず、素直に驚いたり笑ったりしているように見える。
仕切りに相手を褒めて、気分を良くさせることも出来ている。
出会って五分程度だが、すっかり打ち解けた。
私が前世の知識もないただの子供で、さらに鑑定スキルを持っていなかったら、この五分間であっさりと籠絡されていたかもしれない。
これを仮に全て計算でやっているのなら、リシア恐ろしい子……である。
政治の高いリーツもここまで会話は上手じゃない。
下手な方ではないと思うのだが、飛び抜けて上手いと思ったこともなかった。
案外コミュ力は政治と関係ないのか、もしくはほかの能力で補えているのか、どちらかだろう。
ゆっくりと歩いていたが、屋敷に到着した。
周囲にはミラミスの花が咲き誇っている。
「あら、綺麗なミラミスがいっぱい咲いておりますわ。もしかして、わたくしのために?」
「ええ、手紙に好きと書いてあったので。お気に召しましたか?」
リシアは庭に咲き誇るミラミスを眺め、「綺麗ですわ……」と呟き、
「わたくしにために……大変でしたでしょうに。ありがとうございます。わたくし、感激しております」
と頬を赤く染め、屈託のない笑みを浮かべながら、リシアはそう言った。
その笑顔を見て、前世ではこんな娘が欲しいと思っていたということを、思い出していた。
いや、許嫁にこんな父性みたいな感情を抱くのは、良くないだろう。
将来結婚するということは、男女の交わりをする必要があるということだ。
そうなった時、凄く罪悪感が湧いてくる気がする。まあ、その時は、彼女も成長しているから、大丈夫かもしれないが。
「どうかなさいました?」
今度はリシアの笑顔に見惚れて、思わず見つめてしまっていたようだ。
いつもなら何でもないと言って、首を振るところだが、先程のメイドのおかげで私は成長を遂げていた。
「リシア様の笑顔が綺麗でつい見惚れておりました」
「まあ……アルス様は本当にお上手ですわ」
とリシアは再び照れて顔を赤く染めていた。
本当にキザな男なら、ミラミスの花より綺麗、みたいなことを言うかもしれないが、流石にそれを言うと恥ずかしくて死にそうになるだろうから、言えなかった。
そして私はリシアと一緒に、屋敷の中へ入った。
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