第27話 トラブル
私たちは屋敷を出て、二人で歩く。
後ろからは見えない位置で、護衛が付いてきている。
武装した兵が近くにいては、純粋に楽しめないかもしれないという配慮で、遠くからの護衛になっているわけだが、正直、普通に付いてきたほうがいいと思う。
いざ何かあった時、あの位置から対応できるのか疑問だ。まあ、村で襲われた経験は一度もないので、多分何ともないとは思うが。
それと問題は村で何をするかである。
ランドルフ村には大したものがない。
娯楽施設だとかがゼロなため、果たしてデートとして成立するのか疑問である。
花でも眺めながら、ゆっくり庭の周りを歩いた方がいいような気がするのだが、リーツは「領民に慕われる事は、良い領主になれるというアピールになります」と言って村を歩くように勧めてきた。
子供にそんなアピールが通用するのか疑問だったが、相手も貴族の子だしそういう教育を受けていうのかもと思って、結局村に行くことに決めた。
リシアは賢い子だろうから、それは間違っていなかったようである。
会話で楽しめさせられたらいいのだが、得意な分野ではない。
大丈夫かと不安に思っていたが、リシアが会話上手だったためか、存外会話は盛り上がった。
数分歩いて村に到着する。
とりあえず村の中心にある広場に行こうと思う。
広場には小さいけど市場がある。基本的に大したものは売っていないが、珍しいものがある日がたまにある。人が一番多く集まる場所で、いつも賑やかなので、とりあえず最初はここに行ってみる。
「ではまず、村の中心の広場に向かいます」
「はい」
最初にどこに行くかを告げて、私は広場に向かって歩き出した。
広場に到着すると、何やら少し様子がおかしいことに気づく。
いつも賑やかな場所なのだが、何やら人だかりができており、そこから怒号が聞こえてくる。
「金返せ!」、「そっちこそ約束を守れクソども!」と口汚い罵り合いが始まっている。下手したら、乱闘になりかねない勢いだ。
こんな大事な時に、何かトラブルでも発生しているのか?
どうするか。無視した方がいいか。
しかし、領主の息子として領民のトラブルを無視するのは、悪い印象になるかもしれない。
「何があったのでしょう?」
リシアが不安そうにそう呟いた。
気になっているようだし、やはりここは何とか解決するか。
こんな時に面倒ごとを起こすとは、タイミングの悪いことこの上ないな。
村人たちには、リシアが来るという事は伝えているが、具体的にどう過ごすのかまでは伝えていない。
村に来ると思っている人は、少ないのだろう。
「聞いてみましょうか」
私は近くでその様子を見ていた村人に、事情を尋ねてみた。
「何事だこの騒ぎは」
「坊ちゃんじゃないですかい。あれ? そういえば許嫁の方が来るって聞いたけど……あ、そちらの別嬪さんがそうなんですかい?」
リシアは村人にもお行儀良く挨拶をした。
「この騒ぎなんですがねー、ちょっとややこしいことになってるんでさぁ」
「ややこしいこと?」
そのあと、村人から事情を全て説明してもらった。
順を追って説明するとこうだ。
この村にも小規模だが、仕入れ業者がある。村の家具職人達が、その仕入れ業者とが取引をした。
家具職人達は冬になったため、新たに開発された暖房器具を作り売ろうと思った。その材料である炎の魔力石を、仕入れ業者に仕入れてくるように頼んだ。
魔法に使う魔力水の原材料となる魔力石だが、それ以外にも用途がある。
例えば炎の魔力石は微かに熱を発する。詳しくは知らないが、その魔力石に何らかの物質を当てると、熱が急上昇するということが最近発見されて、その特徴を活かした暖房器具が開発されたらしい。
私の家にもない暖房器具なので、恐らく作られたら買っていたと思う。
魔力石は各地で戦争が起こった影響で、値段が高くなっているが、質の悪い魔力石は魔法水にしても、魔法を使うことが出来ない。そのため、安く取引されており、それを仕入れ業者は仕入れてきた。
しかし、そこでトラブルが発生する。
仕入れ業者が仕入れてきた魔力石は、炎ではなく音であった。
どこかで情報伝達に誤りがあったのか、仕入れ業者は音の魔法石を使って、音声拡張器を作成し、それをローベント家に売るつもりであると思っていたらしい。
音声拡張器なんて複雑な機材は作れないし、音の魔法石は使えないものだ、ふざけるな、と家具職人達は言うが、間違いなく俺たちは音の魔法石を仕入れるよう頼まれたと、仕入れ業者は譲らない。
家具職人達は前金を返せと怒っており、仕入れ業者は約束を守って音の魔法石を買い取れと怒っている。
正直どちらが悪いのかは、分からない。
どちらかが、情報を伝え損なったということになるだろうが、それが分からないからな。
こういうトラブルが起こらないよう、取引をする際には、ローベント家が立ち会うことになっているのだが、問題が起こったことが少ないため、面倒くさがってそれを怠っていたようである。
どちらか一方が損したなら、損した方が悪いという事になるが、現状どっちとも損をしているからな。
立ち合いを頼まなかったのが悪いと、私が言えば騒ぎは一旦は収まると思うが、両者の気は晴れる事はないだろう。再び争いが起こりそうである。
取引に関わったものに事情を聞いていけば、どちらが悪いのか分かるだろうか。
しかし、ミスをしたものが本当の事を言わないかもしれない。
この状況を綺麗に収める良い方法が、どこかにないだろうか?
私が考えていると、
「あの、アルス様、少し耳をお貸ししてくださいませんか? わたくしこの場を丸く収める、良い方法を思いつきました」
リシアがそう言ってきた。
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