第23話 許嫁

 許嫁……だと……?


 いや、冷静に考えたら今の私は貴族なので、許婚の一人くらいいてもおかしくない。


 しかし、今に至るまで一言もその存在を聞いたことなかったので、かなり驚いた。


「あの、本当に許婚が私にいるのですか? なぜ今まで言ってくれなかったのですか?」

「忘れておった」


 忘れたって、そんな大事なこと忘れないぞ普通……。

 父は抜け目ない性格に見えて、大雑把なところがあるからな。


「お主の許嫁は、ここカナレ郡のトルベキスタの領主プレイド家の娘だ。ゴホッゴホッ……トルベキスタ領主のハマンドと私は仲が良く。今から十年前か、お前が生まれる一年前、ハマンドにはすでに六歳の長男と、四歳の次男と、生まれたばかりの長女がいた。私に子供が出来たらその長女が嫁ぐと、約束を交わしておったのだ、ゴホッゴホッ……」


 時折咳を交えて、父が事情を説明した。


 複雑な政治事情があるというわけではなさそうだな。まあ、でも父は成り上がりで、貴族に血族が少ないから、婚姻は重要になるだろう。


 当然、血族が少ないという弱点は、私が領主になった時も残る。自分のためにも、貴族の子と婚姻できるというのは、悪い話ではない。


 好きになった人と、恋愛して結婚したいという気持ちは、前世ではそれが当たり前だっただけに、なくはないが、ここは諦めるしかないだろう。


 手紙はリーツが現在は持っているというので、私は部屋を出て、リーツの下に向かった。



 ○



 リーツは勉強部屋にいた。

 ロセルとシャーロット、そして、双子のクライツとレンもいた。


 双子の相手はシャーロットがしていて、リーツとロセルは勉強をしているという感じである。


 シャーロットにも最低限の知識を身につけさせた方がいいだろうと、最近勉強させている。あんまり覚えはよくないが。


「おはようございます、アルス様」

「おはようアルス」

「あ、アルス様だ。おはー」


 リーツ、ロセル、シャーロットが入ってきた私に挨拶をする。私も挨拶を返した。


 この三年で、三人の見た目も大きく変化した。


 まずリーツだが、年齢が十八歳となり幼さは完全に消え去り、もう大人と言っていいような風貌をしている。日本の十八歳といえば、まだまだ幼さを残していた気がするが、リーツの場合、戦で壮絶な経験を何度も積んでいるからか、幼さなさはカケラも見えない。

 背も伸びて、190cm近くになっている。


 戦場に何度も経験しているので、ステータスもかなり成長した。現在は、


 統率 95/99

 武勇 89/90

 知略 95/99

 政治 90/100


 満遍なく上がって、武勇以外は全て、九十台に乗っている。


 ロセルは八歳で、まだ子供だが、以前よりかはだいぶ成長した。背も十五センチくらい伸びて、130cmほどある。

 顔つきはまだまだ幼い。いつも眉間にシワを寄せ考えを張り巡らせているためか、若干目つきが悪くなっているような気がする。

 性格は非常に大人っぽくなっている。時々大人でも唸らせるよな事を言う事もある。


 ステータスは、


 統率 40/88

 武勇 15/32

 知略 88 /109

 政治 50/95


 こんな感じだ。

 知略の上昇が目覚ましいが、ほかは政治が上がったくらいか。まあ、武芸の修行は全くさせてないし、統率は戦場で経験を積まないと上がらないから、上がるはずがないな。

 一応、ロセルにも武家芸の修行をさせた方が、いいかもしれないな。


 最後にシャーロットだが、彼女は十五歳か。

 会った時はまだまだ体は未発達だったが、成長期を迎え、背も伸びて、体つきも女性らしくなった。

 特に胸の成長が凄い。巨乳と言ってもいいくらい大きくなってる。たまに理由は不明だが私に抱きついてくる時があるが、その時は非常に反応に困る。女性の扱いにはあまり慣れていないからな。

 性格は三年経ったが、相変わらず掴みどころはない。ただ、今も双子の相手をしているように、子供は好きみたいだ。

 ステータスは、


 統率 78/92

 武勇 103/116

 知略 44/45

 政治 36/40


 こんな感じである。

 何度も戦を経験し、統率が急上昇している。

 しかし、武勇は意外とあまり伸びていない。三年で2しか伸びていない。

 ステータス上昇速度は、いまいち分からないところも多い。

 一日で3上がるような日もあれば、今回みたいに三年で2しか伸びないようなケースもありうる。


 シャーロットの場合は、本人に上昇志向がないことが原因だと思う。

 どうも、現在の魔法ですでに満足していて、これ以上、上手くなろうとしていないように思える。


 実際、現時点の数値でも、飛び抜けて高いのは間違いないため、満足する気持ちは分からないでもない。

 私としてはMAXまで上げたら、どこまで凄い魔法が使えるようになるのか気になるので、もっと上げてほしいけどな。

 彼女を上回るような魔法兵が現れれば、対抗意識が芽生えて、上手くなろうとするかもしれない。


「リーツ、父上から、手紙を預かっていないか?」

「ああ、アルス様の許婚の方からの手紙ですね。預かっておりますよ」


 リーツが懐から出した手紙を、私は受け取った。


「ア、アルスって許嫁がいたんだ……どんな子なの?」

「見たことはない。ついさっき知った。そういえば名前も知らん」

「そんなことあるんだ……」


 ロセルは若干衝撃を受けたようである。


「えー、許嫁いたのー? アルス様は、わたしを嫁にするために買ったんじゃなかったっけ?」

「誰がいつそんなことを言った」

「あ、そうか愛人にするために買ったんだね」

「それも違う」


 シャーロットはケラケラと笑う。からかってきているだけのようだ。たまに本気で変な発言をするので、判断が付きづらい。


 私は手紙を見てみる。


 差し出す人は、リシア・プレイドと書かれていた。リシアというのだな。覚えた。


 手紙の中身は、挨拶から始まり、花を育てるのは趣味だとか、最近綺麗な花が咲いて嬉しかったとか、近況が綺麗な文字で綴られている。

 そして最後、


『それでは約束通り、もうすぐそちらに伺いますので、その折はよろしくお願いします』


 と書かれていた。

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