第21話 褒美

 狩人たちの手を借りて、広い罠の作成を開始した。


 罠を置く場所は、狭い罠を置いた場所と同じく、森の中央辺りである。最初に作った罠を撤去して、その場所に作ることにした。


 囲いの広さは、最初に作った物の約七倍。


 囲いの中に木が何本も入って、罠にかかったスーを処理する時、不便になりそうなので、数本を残して木を切った。その木は、囲いの素材に利用する。


 最初に作った罠には設置しなかった櫓も作った。

 極めて簡易な作りの櫓で、高さも四メートルくらいだ。戦場ならあまり使えないだろうが、今回はこの程度の高さで十分である。


 作業を始めて六日で、罠は完成した。


 規模は大きくなったが、作業する人数も以前よりも多くなったので、かかった期間はそこまで伸びていない。


「これで本当にスーはかかってくるんですかい?」


 グレッグが、完成した罠を疑いの眼差しで見ながら呟いた。


「規模を大きくしても基本的な仕組みは変わっていないので、大丈夫ですよ」


 リーツがそう言ったが、グレッグの疑いは中々晴れないようだ。


 作り終わった後は、前と同じく罠から離れて、一日待った。


 そして翌日、成果を確認するため罠を見に行く。


 ロセルの目にくまがある。明日かかっているのかどうか不安で、眠れなかったのだろう。

 最初の罠を確認するときはそうでもなかったが、やはりグレッグにも見られるというのは、相当プレッシャーになっているようだ。


 以前の罠と同じく、扉を見れば罠にかかっているのかは、一目瞭然で分かる。


 黄色い塗料が剥がれている。前よりも剥がれているため、恐らく以前よりもかかった数は多いのだろう。


「たぶんかかっていますね」


 リーツがそう予想し、中を覗きに行った。


「三体……いや、四体かかっていますね」

「ほ、本当か?」

「お、俺も見る」


 グレッグや作成に手伝ってくれた狩人たちも、罠の中を見始めた。


「ほんとだ! かかってやがる!」

「成功だ!」


 狩人たちは、罠の成功を喜び始めた。


 私も中を見たが、確かに四体のスーが囲いの中にいた。今回は起きていた。りんごの匂いが染み込んだ布を舐めたりしている。


 ロセルもスーが入っているのを見て、ほっと一安心して息を大きく吐いた。


「いやー、しかしこれは便利だな。わざわざ追っかけて取りに行かなくていいからな」

「スーの奴は逃げ足がはえーし、一発外したら、すぐ逃げられちまうからな。あんま大きくねーから矢も当たりにくいし」

「この状態なら流石にすぐ狩れる。いやー、グレッグの三男は上二人とは違って、大丈夫かと思ったが、中々すげーじゃねーか」


 狩人たちが、罠の成果を見て、これから狩りが楽になるだろうと喜び、設計したロセルを褒め称えた。

 あまり褒められ慣れていないロセルは、困惑している。


 グレッグはどうするか、少し戸惑いながら、ロセルの頭に手を置いて、


「ロセル、よくやったな」


 とロセルを褒めた。


 褒められたロセルは、一瞬大きく目を見開いた。そして、


「うん!」


 今まで見たことのない満面の笑みを浮かべて、頷いた。



 ○



 それから、狩人はロセル発案の罠で、狩りをするようになった。


 それにより、スーの狩り効率が上がり、村ではスーがよく食べられるようになった。


 元々はそこまで頻繁に狩れるようなものではなかったので、スーの肉はご馳走だったため、大きく変わった。


 さらにスーの干し肉を取引材料に、ほかの食料と物々交換を行なって、今まで出回っていなかった食べ物が、出回るようになった。


 今回の件で父親に褒められたことで、ロセルも自信がついたのか、ネガティブな性格は少しだが改善された。


 ロセルは罠を発案した功績が認められ、父に呼びだされ褒美を貰うことになった。


「金貨5枚を褒美として取らせよう」


 結構な大金である。

 ロセルの隣に居たグレッグが、目を丸くして驚いている。


 ちなみに私の近くで同席していたシャーロットが、「わたし十二人分……」と呟いていた。シャーロットを買った値段は銀貨五枚で、金貨は銀貨十枚と同価値なので、十人分が正解である。シャーロットにも、最低限の勉強はさせた方が良さそうであるな。


 ロセルは金貨五枚を父からもらっても、あまり嬉しそうではない。浮かない表情をしている。

 グレッグの方は、飛ぶように喜んでロセルを褒めまくっているのに、何でだろうか。金貨五枚は大きな金額だし、嬉しくないということはないはずなのだが。


 疑問に思った私は、褒美の授与が終わった後、ロセルに尋ねてみた。


「いやだって、貰っていいのかな……こんなに……って思ったから」

「ロセルはそれだけの事をしたから、貰っていい当然だぞ」

「だ、だってさ……村の狩人は皆、罠を使うようになって、そのうちスーが森からいなくなっちゃうかもしれないし、そうなったら、逆にお、俺のせいでスーを食べられなくなっちゃったことになるんだ……」

「あー……」


 言われてみたらそうだ。狩り続けたら、スーはいずれいなくなってしまう。

 単純な事だが、スーを多く狩れるようになったという、嬉しい現実が目を曇らせていたようだ。

 ロセルだけは、きちんと目を曇らせず、未来を見ていた。


「あ、あんなに金貨を貰ったから、そんな事にしちゃだめだよね……何とか、何とかしないと……でも何匹かリリースしてと言っても、聞いてくれるかな……取れるのに取るななんて、狩人が聞いてくれるだろうか……子供だけ、逃すようにするとか……でも、親は殺して子供だけで生きていけるのかな……別の動物を捕る罠を開発するとか……もしくはもっと別のいい方法が……」


 ロセルはぶつぶつと呟いて、対策を考え始めた。


 普通なら浮かれそうなところ、未来を不安視して対策を考えている辺り、根がネガティブだというのは変わっていなようだ。


 でも、今回の件でネガティブな面は必ずしも悪いだけではないようだと、理解した。


 案外ロセルはこのままの方が、いい軍師になるのかもと私は考えを改めた。


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