第20話 結果

 罠の作成は、数人の使用人に行わせた。


 囲いの素材は木である。杭を打ち込んでいき、その間に木の板をはめるという作りである。


 木の板は万が一突進してきても壊れない厚さにしている。

 中の様子を見ることだできるよう、板には小さな穴が空いてる。


 大きさは畳、三畳分ぐらいだ。スーはこれで三体は入るという。


 ただ、入りすぎると、中のスーに、外から突進してきたスーが、当たる恐れがある。


 まあ、今回はとりあえず罠に効果があるかの実験なので、囲いを広くすれば解決可能な問題は無視することにした。


 扉の素材は、薄目の鉄板にした。

 あんまり厚すぎると開かないだろうし、薄すぎると壊れるので、これが正しい厚さなのかは、現時点では不明である。

 こればかりは、やって確かめるしかないようだ。

 駄目なら、また扉部分は作り直しとなる。


 扉に塗るための黄色塗料は、町で仕入れてきた。


 一度突進させると、色がある程度落ちると予想されるため、結構な量を買った。塗料は色によっては高値がつくが、黄色は安かったので、大した金額にはならなかった。


 スーをおびき寄せるための、リンゴの匂いを染み込ませた布は、すぐに作れる。リンゴは村によくあるため、それをジュースにして、その汁を染み込ませれば、簡単である。


 そして、最初の罠は作成開始から、三日後に完成した。場所はランべルク村、近くの森の真ん中だ。


「こ、これで上手くいくのかな?」


 ロセルが完成した罠を見て、不安げに呟く。


「それはやってみないと分からん。まあ、こういうのは何度か試行錯誤を重ねて、完成度を上げていくものだ、最初は出来なくても問題ない」

「そ、そっか」


 私の言葉を聞いて、ロセルの不安は少し晴れたようだ。出来なくても大丈夫という言葉は、ネガティブなロセルには案外効果的だったのだろう。


 その後、私たちは罠を離れた。



 翌朝。


 罠にスーがかかっているのか、リーツ、ロセルと一緒に見に行った。


「これは、多分入ってますね……」


 リーツが罠の様子を見た瞬間にそう言った。


 扉に塗った黄色塗料が、若干はげている。

 スーが突進した証拠だろう。


 リーツは壁に開いた穴を見て、中を覗き込む。


「二体入ってますよ。寝てるみたいですね」

「え、ほ、本当?」

「成功か?」


 私たちも壁の穴を覗く。子供は届かない位置に、穴を開けているので、リーツに抱えてもらって中を見る。確かに二匹のスーがいた。リーツの言う通り寝ている。閉じ込められているのに、寝ているとはかなり神経が太い奴らだ。


 リーツは扉の状態なども確かめてみる。


「問題ないみたいですね。これなら結構もつと思いますよ」


 扉の耐久性も、問題ないみたいだった。


「そ、それってこのまま囲いを広くした罠を作っていいって事かな?」

「問題ないと思うよ。これなら狩りの効率も上がって、グレッグもロセルの事、見直すんじゃないかな?」

「と、父ちゃんが俺を見直す?」


 ロセルには、余計なプレッシャーを与えないため、良い罠を作ったら、グレッグが見直すかもという話は、一切していなかった。


「それではこれを広くしたものを作りましょう。今度は狩人の方たちにも手伝ってもらって」

「そうだな。ところで捕らえたスーはどうするんだ?」

「とりあえず昏倒させて、屋敷に持ち帰りましょう。スーの解体なら出来るはずですよ。今日の昼に食べましょう。そうだロセルも食べようか。自分の罠で取ったスーだから、普通よりうまく感じると思うよ」


 その後、リーツが中のスーを昏倒させて、屋敷に持ち帰った。


 そして、昼になるとそのスーを食べる。ロセルは嬉しそうに食べていた。



 ○



「仕掛けでスーを狩る……ですか?」


 翌日、村の狩人を、村にある集会所に集めて、スーを取るための罠を作成すると言った。

 同意が取れれば、村の狩人たちに罠の作成を手伝ってもらうつもりだ。


 リーツが図を用意して、罠の説明をした。

 ロセルが描いたものを見やすく書き直した図である。


「なるほど……確かにこれが上手くいけば、狩りの労力がだいぶ下がりますね……流石、アルス様、こんなことを考えつくとは」


 グレッグが感心したようにそう言った。


「私が考えたわけではない。ロセルが考えたのだ」

「え!?」


 びっくりして、グレッグはロセルの顔を見る。


「それは嘘でしょ。ロセルにそんなことできるわけ……」

「ロセルには、高い知の才があると言っただろう。それは全てロセルが考えたもので、私はなにもしていない」

「……ほ、本当なのかロセル」


 グレッグに聞かれて、ロセルは頷いた。


「……これ、本当に上手くいくんですかい?」


 ロセルが作ったと聞いた途端、罠の性能を疑い始めた。よほどロセルの才を認めたくないようだ。


「一度、規模の小さいもので試した結果、成功しているので、大きくしても大丈夫でしょう」


 リーツがそう説明した。


「それで、これを作るのをここにいるものたちに、手伝ってもらいたいが、やってくれるか? 当然、罠を利用して捕らえた獲物は、全てそちら収穫としていいぞ。作り方を覚えたら、同じものを自分たちで作ってもいい」


 私がそう言うと、狩人たちは手伝うと、手を上げ始めた。

 最後に残ったのはグレッグだが、彼も抵抗感を感じる素振りを見せながらも最終的には手を上げた。


「全員が手伝うということでいいか。じゃあ、始めるのは明日から。場所は近くの森に作る。早朝、この場所に一旦集まってくれ」


 その翌日、広い囲い罠の作成がスタートした。

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