第16話 許可を得る
この知略限界値は、とにかく凄まじいの一言だ。
109もあれば、恐らくサマフォース帝国内でも、上の者はそういないだろう。
それ以外にも、政治力、統率力に優れている。低いのは武勇くらいだ。戦闘の才能はないだろう。
現在はまだ五歳なので、全ての能力値が低い状態だが、育てれば必ず優秀な家臣になるだろう。
兄二人でも十分良い人材が来たと思っていたのに、ロセルみたいな子がいるとは。
キーシャ家がこの村に引っ越してきたことは、僥倖だったな。
「アルス様、その子が気になるのですか?」
私がロセルをじっと見つめていると、リーツが声をかけてきた。
「ああ、この子は、頭の良さにおいて、類い稀なる潜在能力を持っている。育てればいずれ良い軍師になるだろう」
「軍師ですか……アルス様がおっしゃるなら、間違い無いでしょう」
「まだ、潜在能力があるというのに過ぎないので、高度な教育を受けさせてあげたい」
「それならば、アルス様と一緒に、勉強するのがいいでしょう。そこまで頭の良い子なら、私も教え甲斐があります」
私と一緒に勉強か。
それがいいだろうな。
リーツの教え方は、非常にうまいし、すぐに知略も上がってくれるだろう。
問題は本人と父親から許可を貰えるかだな。
ロセルはさきほどから、私を見つめながら黙って震えている。目にうっすらと涙を浮かべたりもしている。
どうやら私とリーツに怯えているようだ。
特に何かしたというわけでないのに、ここまで怯えられる理由は分からない。私もリーツも、そこまで見た目が怖いというわけではない。父を見て泣くというのなら、分からないでもないが。
「あ、ロセル!!」
父親のグレッグがやってきて、ロセルを見て叫ぶ。
「お前、アルス様に挨拶をしたのか!?」
ロセルは首を横に振った。
「挨拶しなきゃダメじゃねーか! 領主の息子様だぞその方は! 全く人見知りな奴だなお前は!」
人見知りするタイプだったのか。
ここまで怯えるというのは、相当ひどい人見知りだな。
まあ、ロセルの場合、政治力も限界値が高い。
人見知りのまま政治をするのは、難しいと思うので、恐らく訓練をすればそのうち治るのだろう。
ちょうどグレッグも来たところだし、ロセルに教育を受けさせるという話をしよう。
「グレッグとロセルよ。話があるのだが、いいか?」
「ん? まだ話があったんですかい? というか俺だけじゃなくて、ロセルにも話?」
「このロセルを見て、彼は将来、軍師になれる才能がある。当然、今は子供なので現時点の能力は低いため、高度な教育を受けさせたい」
「ロ、ロセルが軍師? この小便タレ小僧が? じょ、冗談でしょ?」
「寝小便は子供なら誰もすることだ。そう恥ずかしいことではない」
「しかし、こいつは本当に出来が悪くて、まともに人と目を合わせられないし、体はずっと細くて小さくて、全然成長しやがらなぇ。兄二人はそんな事なく、五歳の頃も、ロセルより遥かにしっかりものだった」
思ったより、グレッグのロセル評は低いようだ。
恐らく体の強さばかりを見て、頭の良さは見ていないのだろう。
現時点でも子供にしては間違いなく賢い方なので、学問を学ばせる家で生まれていたら、神童としてもてはやされていたかもしれないが、狩人の家で学問など学ぶ機会はない。
兄二人が武勇において、優秀であるというのも、低評価に拍車をかけていだろう。
確かに武勇だけ比べてみれば、兄二人よりロセルは遥かに劣っている。総合力では逆にロセルの方が遥かに上であるが。
現時点で、グレッグにロセルの能力を認めさせるのは、難しいと感じた。これは、とにかく頼み込むしかないか。
「ロセルに才能があるというのは、本当のことである。私の下で学問を修めさせれば、必ず良い軍師になること間違いなしである。彼を私の屋敷で学ばせる許可をくれないか?」
「……まあ、アルス様がそうおっしゃるなら、断る理由もありません。ロセルいいな?」
ロセルはグレッグにそう言われて、無言で頷いた。
彼自身が決めたというより、親の決定に従ったという感じだ。あまり晴れやかな表情はしていない。出来れば自分の意思で決めて欲しかったが、五歳の子供だと大体親の言うことに従うものであるか。
「ありがとう。では明日から始めたいと思う。明日の朝、ガトスとマルクスは練兵場へ、ロセルは私の住む屋敷へ連れて来てくれ。では以上だ」
「わかりました」
いきなり始めるのもどうかと思ったので、明日からにすることにした。
グレッグの返事を聞いた私は家を出て、屋敷に帰り、ワクワクしながら翌日を待った。
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