第10話 町で人材探し

「アルス、今日も町に行くのか」


 屋敷を出た瞬間、父に話しかけられた。

 剣の素振りをした後らしく、顔から汗を垂れ流している。


「はい、優秀な人材を探して参ります」

「そうか。実はお前に魔法に長けたものを、探してきて欲しいと思っておったのだ」

「魔法ですか?」

「ああ、これからの戦は魔法こそ重要とのなる。魔法は才能がないものでは、使いもんにならないからな。私も魔法はまともに使うことできん。家臣にも魔法が使えるものが何人かいるが、まだ足りんから、才能あるものがいたら連れてきてもらいたい」


 魔法か。

 私はあまり魔法については詳しくはない。

 父に言われて、一度使ったことはある。変な道具に、赤い液体を入れて短い呪文を唱えたら発動した。小さい火の玉が発生して、的に向かって飛んで行った。

 しかしあの時、「お前に魔法は向いていないみたいだな」と父に言われて、それからは二度使わせて貰えていない。


 魔法が発動した時は結構感動したので、もう一度使ってみたいのだがな。

 私には魔法を使う才能が無かったということなのか。一度使っただけで分かるのなら、わざわざ私に頼まなくても良さそうであるが。

 よっぽど才能を感じない魔法を使ったのだろう。


「分かりました。魔法に長けた人材を探して参ります」

「頼んだぞ」


 私は父の頼みを快く受け入れ、リーツと共に町へと出発した。



 ○



 町への道中は馬を使う。

 私は乗れないので、リーツに抱え込まれるような形で二人乗りしている。


 リーツは流石に騎兵適性S。

 父を唸らせるほど、馬の扱いは上手であった。


 馬を使うと、約二時間ほどで町にたどり着く。


 二日ほどは町に滞在するつもりだ。


「リーツ、私は魔法について詳しくないので、教えてくれないか?」


 道中の時間を使い、私はリーツに魔法について教えてもらおうと思った。


「魔法ですか。基本的なことはご存知ですか?」

「ああ、一度使ったことはあるからな。変な機材に赤い液体を入れて、呪文を唱えたら発動した」

「はい。その変な機材を触媒機、赤い液体を魔力水と呼びます。触媒機に魔力水を入れて呪文を唱えると、魔法が発生するのです。その際、入れた魔力水は消費されます」


 触媒機と魔力水というのか。記憶しておこう。


「元々魔法はやたら呪文が長くて、威力も弱く戦では使えないものと思われていたので、余興に使われるものでした。しかし、触媒機の開発により、呪文が短縮され威力も上がり、戦で用いられるようになりました。約十年くらい前から、サマフォース帝国内で爆発的に普及し出してきたみたいですね」

「そんな最近なのか」

「ええ、僕が傭兵団にいた時も、古参の兵士は、最近とんでもないものが開発されて、困ると嘆いていましたよ」


 もっと前から戦で使われていたものではないんだな。意外だった。


「燃料にする魔力水というものは、よく取れるものなのか?」

「魔力水は、魔力石と呼ばれる石を溶かして作るものです。魔力石自体はそこまで珍しいものではないですが、需要の増加により価格は高騰しているようで、魔法部隊の運用には多額の金がかかります」

「金か……ローベント家はそれほど、収入が多くないからな」


 少領で、特産品も特にないため、収入は毎年少ない。何とかやりくりしているのが現状である。


「部隊を組まなくても、有能な魔法兵が一人いればだいぶ変わりますからね。一人くらいは雇えるはずです。今回、見つけてきましょう」

「そうだな」


 それからしばらく馬に揺られ、町に到着した。


 私が今回訪れた町はカナレという。

 カナレ郡の主要な町である。

 立派な城壁で囲まれている、城郭都市だ。

 城郭外にも結構家が立っている。

 これは長い間平和だったため、防御する必要がなかったからこうなっているのだろう。

 当然城郭が作られたのは、サマフォース統一前の時代ということで、かなり古く、老朽化が進んでいるようだ。


 この町の中央にカナレ郡長家、パイレス家が住む、カナレ城が立っている。


 私は城郭外の町を歩く。

 城郭内には、現在では身分の高いものでしか入れない。

 まあ、私は城主の息子なので入れるが、今回の人材探しで城郭内に用はない。


 城郭外の町は結構賑わっている。人も大勢いる。


 全人口が約5万人だからな。

 これら全員を見るのは、かなり目を消耗しそうだ。だが全員を見る必要はない。貧しそうな格好をした者だけを見ていけばいい。


 この町の人材は、仮に優秀だからと言って、雇えない可能性が高い。


 ランドルクまで来るように誘うのだが、わざわざ町から村に来たくないと考えるものが多いだろう。報酬もそんなに高くは出せないし。


 よほど、金に困っているものくらいしか、雇うことができない。

 最初から村に住んでいるものなら、基本的には快く引き受けてくれるのだが。


 とにかく裕福そうな者は、来てくれない可能性が高いので、貧しいものだけを見ていけばいい。


「さて、探すぞ」

「はい」


 私は馬の上から、路上にいる貧しそうな人々を虱潰しに見ていった。


 そう簡単には見つからない。


 そこそこ優秀な者は何人か見つけたが、今回は魔法兵適性が高いものが目的なので、声はかけなかった。


 リーツくらい優秀なら別だが、最高が60後半程度のものなら、雇う必要はないだろう。


 目が疲れ、ついでに腹も減ってきたので一度休憩をする。


 一度馬から降りて、市場で何か買って食事をすることにした。


 私が市場にたどり着くと、


「あれは……」


 札を首から下げられた人間が、牢の中に入っている。


「奴隷商人ですね……」


 地球でもかつてあった奴隷制が、この世界では実在している。


 しかし、そうか奴隷か。

 他人を買うというのに抵抗はあるが、奴隷にもいい人材がいるかもしれない。

 わざわざ、家臣にする交渉をする必要もないし、楽ではある。


 問題は値段だ。

 一応、前金として払うための金を所持しているが、それで買えるだろうか。


 とりあえず見てみるか。


「飯を食べ売る前に、奴隷を見てみよう」

「奴隷を買うのですか?」

「いい人材がいるかもしれない」

「はー、いますかね……」


 リーツは気がすすまないようだったが、反対はしなかった。


 私は折に入っている奴隷たちを一人一人調べていく。


 そうそういい人材などいるはずもなく、駄目かと諦めかけたその時、


 シャーロット・レイス 11歳♀


 ・ステータス

 統率 65/92

 武勇 93/116

 知略 34/45

 政治 31/40

 野心 1

 ・適性

 歩兵 D

 騎兵 D

 弓兵 D

 魔法兵 S

 築城 D

 兵器 D

 水軍 D

 空軍 D

 計略 D


 この驚くべきステータスを目の当たりにした。

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