第11話 買う

 統率92、武勇116、そして魔法適性S……。


 これは凄まじい数字だ。ほかのステータスは大したことないが、とにかくこの統率と武勇の値は凄まじいの一言だ。成長途中の現在でも、武勇値が父とほぼ互角である。


 戦闘能力は武勇と適性の数字で決定する。

 武勇が高くても、適性がDであればあまり強くはない。彼女も魔法以外はDなので、魔法以外を使った戦闘はあまり強くはないと推測される。


 しかし、魔法に関してだけは圧倒的な戦闘能力を持っているだろう。


 見た目は長い青髪の少女で、顔はまるで作り物のように整っている。成長したら相当な美人になるだろう。まあ、容姿はどうでもいい。


 この子は買うしかない。

 連れて帰って魔法兵にしよう。


「このシャーロットという子は、いくらだ?」


 私は奴隷商に尋ねた。


「え? ああ、シャーロットね。銀貨五枚だよ。欲しいのかい?」


 銀貨五枚。


 大人が一年生きていくのに、金貨十枚(銀貨十枚で金貨一枚)必要であると考えると、そんなとてつもなく高いというわけではない。


 周りの奴隷の金額を見てみると、平均的に女より男が高い。労働力として、使い勝手がいいからだろう。この少女は若くて、顔が綺麗なため、ほかの女奴隷よりかは若干高めに設定されている。


 現在所持している金は、金貨五枚。

 買うことは十分可能であった。


「あ、あのアルス様。まさかその女の子をお買いになるつもりなのですか?」

「そうだ。彼女にはとてつもない魔法の才能がある」

「え、えーと、アルス様の人を見る目を疑うわけではないのですが、女の子ですからね……戦わせるわけにはいかないというか……レイヴン様は許してくれないと思いますよ」


 この世界には女性は戦いに参加するものではないという考えがある。基本的に戦いは男がするものという考えは、地球でも色んな地域で根付いていた考え方だ。


 彼女を兵隊にすると言った場合、差別されているマルカ人のリーツを家臣として推薦するより、変な目で見られることだろう。

 下手をしたら狂ったかと、思われるかもしれない。


 まあ、最初はどう思われようと、彼女に魔法を使わせれば、それで全て黙らせることができるだろう。


「とにかくこの子には、魔法を使う才能が間違いなくある。女だからという理由でそれを活かさないのは、愚の骨頂だ」


 私の強い意志に、リーツも諦めたようで口を噤んだ。


 私は奴隷商に金貨を一枚支払い、お釣りに銀貨五枚を貰う。


「毎度あり」


 奴隷商人はそう言って、牢屋からシャーロットを出した。そして、彼女の首にはめられている首輪に繋がった鎖と、首輪の鍵を手渡してきた。


 これから戦い、恐らく大戦果を上げていくであろう彼女に、首輪というのは相応しくないな。


 私は彼女の首輪を解こうとする。


「おいおい、坊主、そいつは大人しいが、一応首輪はしておいたほうがいいぞ」

「問題ない」


 私はお構いなしに、シャーロットにかけられた首輪を外す。


 彼女は逃げずにその場に立ち尽くす。


「なぜ首輪を?」


 私は始めてシャーロットの声を聞いた。


「私は、お前を奴隷にするためでなく、家臣にするために買った。首輪は相応しくないだろう」

「???」


 何を言っているかよくわかっていないようだ。


「とりあえず腹が減った。飯を食べながら詳しい話をするとしようか」


 私たちは市場で食料を買い、食事を取ることにした。



「私はアルス・ローベントだ」

「僕はリーツ・ミューセスだ。よろしく」


 食事をしたあと、私とリーツはシャーロットに自己紹介をした。

 彼女はあまり腹が減っていなかったらしく、食事は一緒にしなかった。


「シャーロット・レイス、よろしく」


 彼女も挨拶を返してきた。

 平坦で抑揚のない声である。


「先ほども行ったが、私は君を家臣にするために、奴隷商人から買い上げた」


 自分がランベルク領主の息子であるということを、シャーロットに説明した。


「出来ればこのまま、家臣となって欲しいのだが、どうだ?」

「領主の息子だとは分かった。別にほかに行く宛もないし家臣になるのも構わない。でも、わたしは女。家臣にする理由が分からない。もしかして、男と思っていた? 確かに胸はないけど、間違いなくわたしは女だよ。証拠を見せてあげようか?」


 証拠とは何をするつもりだと思っていたら、ズボンを脱ごうとし始めた。


「待て待て、お前が女だとは承知している!」


 慌てて私は止める。


「……そう。まあ、そうだよね。わたしほどの美少女を男と間違えるなどあり得ないこと」


 自分で美少女っていうのか……間違ってはいないが。


 リーツが小声で、


「こ、この子、ちょっと変じゃないですか? 大丈夫なんでしょうか?」


 と心配して尋ねてきた。


「才能さえあれば、多少変人でも構わん」


 私はそう言ったが、少し不安を感じていた。


「何で女のわたしを家臣にするの?」

「お前に魔法の才能があるからだ」

「魔法? 使ったこともないんだけど、わたしに才能なんてあるの?」


 シャーロットは首を傾げる。

 嘘をついているようではなさそうだ。


 おかしいな。武勇値が現時点でも高いから、使用経験があると思ったのだが。いくら限界値が高いからといって、未経験でここまで武勇が高くなるものなのだろうか?


 自分の能力を疑うわけではないが、念のため、一回、魔法を使わせてみたい。


 魔法の使用機材は一応リーツに持って来させている。


「リーツ、彼女に一度試しに魔法を使わせてみよう」

「分かりました。街中で使うわけにいきませんので、外に出ましょうか」

「そうだな」


 私は、リーツ、シャーロットと共に、町の外にある平原に向かった。


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