第9話 勉強
それから数ヶ月経過した。
リーツは戦で戦功を残す事に成功する。
さらに、頭の良さでも注目をされ始める。
何度かリーツと一緒に戦った父は、彼の頭の良さを見抜いた。
試しに、本を読ませてみたところ、たちまち中身を理解した。これにはさすがに父も舌を巻いたようだ。
それから高度な教育を受けたりなどして、実質的には雑兵と呼ぶのは相応しくない立場になっていく。教育を受けたことでリーツの知略は大幅に伸びて、現在は89になっている。もう少しで90台に突入である。
そして今のリーツは、戦には出ずとある役職を父から与えられている。
「さてアルス様、今日もお勉強をしましょうか」
その役職とは私の教育係だ。
現時点で、ローベント家中の中でトップクラスに知識を、リーツは身につけていた。
勉強を始めてから数ヶ月と考えれば、驚異的な進歩だ。
長男である私の教育には、中々力を入れており、文武に優れた後継者にしようと、リーツを教育係にあてがったようだ。
私はこの数ヶ月間、人材発掘作業に明け暮れており、この世界の知識を身につけるのを疎かにしていた。
そのため、リーツから教わるということは、望むところであった。
リーツは本を持ち、私と向かい合う。
「今日は、サマフォース帝国の現状についてお話ししましょう」
そう言いながらリーツは本を開いて、私に見せてきた。
サマフォース帝国がある、サマフォース大陸の地図が描いてあった。割と大雑把な地図だ。この世界の地図作成技術はそこまで高くはないらしい。
「えーと、このサマフォース大陸には、元々七つの国があり、それを統一してサマフォース帝国ができたとは、前に教えましたね」
「ああ」
サマフォース大陸には、元々七つの国に分かれていた。
大陸北東にあった、ローファイル王国
大陸北西にあった、キャンシープ王国
大陸中央東側にあった、アンセル王国
大陸中央西側にあった、シューツ王国
大陸中央にあった、パラダイル王国
大陸南西にあった、サイツ王国
大陸南東にあった、ミーシアン王国
この七つだ。
サマフォース大陸と、別の大陸の海峡がある、アンセル王国が、サマフォース大陸外の国と貿易を行い、力を蓄えて、ほかの王国を侵略していく。
すべての国を侵略した後、アンセル王のアナザス・バイドラスは皇帝を称するようになり、国名もサマフォース帝国と改めた。
ちなみにこれらの国名は今でも、地方名として残っている。
例えばローファイル王国は、ローファイル州と、キャンシープ王国は、キャンシープ州と呼ばれるようになっている。
それぞれの州を統治するものを総督と呼ぶ。
皇帝の血族だったり、早期にアンセル王国に降伏して、処刑を免れた国王の末裔が総督になっている。
我々の住むランベルク領はミーシアン州にある。
ミーシアンは四季があり、平地が多いため食料が多く取れ、人口も多い、いい土地である。
「サマフォース帝国が設立してから、今年で二百三年目となりますね。現状のサマフォース帝国はもはや瀕死の状態です。
各州の総督たちが帝国の命令に従わないようになり、徐々に独立し始めております。ただそれでもバイドラス皇帝家の影響力は低くはなく、皇帝家の所有する領地も決して狭くはないので、有能な人物が指揮を取れば巻き返すことはできるかもしれません」
「バイドラス家の当主は有能な人物なのか?」
「現当主バイドラス十二世は、八歳の子どもです。実権は家臣が握っているようです。詳しくは知りませんが、誰か一人が実権をもっているというわけではなく、様々な派閥がしのぎを削っているという状態らしいので、上手く行っているとは僕には思えませんね」
こんな緊急下でも揉めてしまっているのか。
それはもう皇帝家はダメっぽいな。
「まあ、内輪で争っているのは、何もバイドラス家だけではありません。我々のいるミーシアン州でも、近々後継者争いの戦乱が起こる可能性があります」
「どういうことだ?」
「現ミーシアン州総督のアマドル・サレマキア様はご高齢であられるので、病気になったと話は聞きませんが、十年以内にお亡くなりになられる可能性が高いです。
アマドル様には、ご子息が二人います。普通なら長男が継ぐべきなのですが、弟のほうが優秀で、どちらに家を継がせるか悩んでおられるらしいのです。
決める前に亡くなってしまった場合、高確率で戦争になります。仮に決めてお亡くなりになられても、戦争が起こる確率は低くありません。
兄弟はどちらも自分が家を継ぎたいと思っておられるようなので」
後継者争いか。
下手をすれば大きな戦になりかねないな。
小さな戦は何度か起こっているようだが、大きな戦となると、私が生まれてから一度も起こっていない。
仮に本当に後継者争いの戦が起きた場合、負ける方についてしまうと、領地を失ってしまう可能性がある。
逆に勝った方について、さらに戦で活躍できれば、領地が加増されるだろう。
戦が起こる頃は、父も生きているだろうから、どちらに味方をするか決めるのは父だ。
どうするつもりなのだろか?
「父はどちらにつくつもりなのだ?」
「レイヴン様は、兄が継ぐのが筋であると思われているみたいですが、どちらに付くかを決めるのはレイヴン様ではありません」
そう言われればそうだな。
というのも、父はミーシアン総督の直属の家臣ではない。
それぞれの州は、約二十の『
郡を収めるものを郡長という。このランベルク領は、カナレ郡にあり、父はそのカナレ郡長の下に付いている。
このランベルク領を、日本の住所みたいにいうと、サマファース帝国ミーシアン州カナレ郡ランベルクとなる。
要はカナレ郡長が、どちらにつくのかを決めるので、父に決定権はないということになのだ。
まあ、意見を言える立場にはあるので、父の意見を参考にカナレ郡長がどちらにつくかを決める可能性もあるがな。
「リーツはどちらに付くのがいいと思う?」
「ぼ、僕ですか? うーん、僕は兄弟のどちらにもお会いしたことがないので、なんとも言えないです……」
リーツは知略と政治が高いので、分かるかと思ったが、流石に判断する材料が少なすぎたか。
こういうどちらにつくか決める時も、私の鑑定は有効に働きそうだな。
兄弟のどちらが優秀か、それと兄弟のどちらに優秀な人材が多く味方しているのか、それらを鑑定で測れば、勝つ確率が高そうな方を見抜くことが出来はずだ。
そして、父と意見が違えば何とか説得し、さらに父にカナレ郡長を説得させれば、勝ち馬に乗れるだろう。
「ローベント家のような少領地持ちは、この気をチャンスだと思うべきですね。戦で活躍をして、郡長にまで出世できれば、大躍進と言えるでしょう。そのためには、これから力をつけるべきでしょうね」
リーツはそこで話を締めくくった。
それから少し勉強を続けて、終わった後、
「さて、今日もいつも通り人材を探しに行くか。力を付けるなら、やはり必要なのは優秀な人材である」
私はそう提案した。
「分かりました。お伴します」
最近はリーツも護衛を兼ねて、私と共に人材探しに付いてくるようになった。
村の人材は大方見終えたし、最近は近くの町で探すようになっている。村には何人かそこそこ使いそうな人材がいたので、家臣にしたのだが、リーツ級の人材は流石に見つかっていない。
町に行くには、危険が付きまとうので護衛が必要なのだが、リーツがいるなら非常に安心だ。
「それでは行くか」
「はい」
私はリーツと共に町に向かった。
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