第4話 優秀な人材

 ローベント家が治めているランベルク領のランベルク村には、領内人口の約八割が住んでいる。


 ランベルク村は、ローベント家が住んでいる屋敷のすぐ近くにある。歩いて五分くらいの距離だ。


 私は一人で村に向かった。

 この辺は割と安全なため、一人で出歩いても特に危険ではないのだ。


 それでも一人で出歩くなとは、言いつけられている。だが、護衛を引き連れて村に行くと、変に目立って、人材探しどころじゃなくなってしまう。

 領主の息子と分からぬよう、顔を隠すフード被って私は村に向かっていた。


 八分歩いて村に到着。四歳児の体なので、普通より長くかかった。


 ランドルフ村は、平凡な村である。

 農業や畜産業、狩りなどをして村の人たちは暮らしている。


 村の雰囲気はのどかで、食糧事情も悪くないためか、村人の健康状態は全体的に良さそうである。


 村といっても人口は全部で八百人ほどいるため、全員を見て回るのは困難だ。


 とりあえず若い奴らだけを見ていくか。


 私は近くで力仕事をしている若者を鑑定で見た。


 うーん、あまりいい数値ではない。

 というかこの者は、練兵場に来ていたはずだな。


 冷静に考えれば、若い男はいざという時は、兵として動けるため練兵場に来ていたはずだ。


 つまりこの村の若い男の多くは、一度鑑定したことがあるだろう。


 女を見てみるか。


 女は戦に向かないと思われており、出世をすることはこの世界ではほぼほぼない。まあ、昔の日本と同じ感じである。


 実際、女性で武勇が高い者は中々見かけない。

 知略や統率力、政治力は男とあまり変わらないから、家臣にするのが相応しくないというわけではない。


 私は女性も見てみる。

 だが微妙な数値ばかりだった。


 子供も見てみたが、優秀なステータスを持つものはいない。


 そう甘い話でもなかったか。

 いくら鑑定出来るからと言って、優れた人材などなかなか見つかるものではないようだ。


 何人も見てきて目が疲れてしまった。

 鑑定を使うと若干、目を消耗するのだ。

 今日はそろそろやめておくか。

 そう思って帰ろうとすると、


「出て行いきな! あんた何かに売るもんはないよ!」


 怒鳴り声が聞こえてきた。

 気になって声の聞こえた方を見てみると、青年が店から叩き出されて路上に膝をついていた。


 褐色肌で顔立ちも、この辺の人とは違う。


 私たちの人種が白人に似ているとしたら、あの者は肌の濃い日本人といった感じの風貌だ。


 確かあの人種は……。


「マルカ人じゃないか」

「汚らわしい、なんでこんなところにいるんだ」

「放浪してここに来たんだろう」


 村人たちの会話を耳にして思い出す。


 マルカ人とは、サマフォース大陸から、海を越えた先の国に住んでいる人種である。


 特徴はこの青年とほぼ同じ。

 サマフォース帝国には、ほぼいない人種であるが、稀に存在する。


 そのほとんどが大昔奴隷として連れてこられた者の子孫で、サマフォース帝国の人々はマルカ人を差別している。


 正直、差別を見るのはあまり気分が良くないが、下手に助けると私の評判を落としかねない。


 まあでも、一応鑑定しておこう。


 私は軽い気持ちで青年を鑑定した。


 リーツ・ミューセス 14歳♂

 ・ステータス

 統率 87/99

 武勇 70/90

 知略 88/99

 政治 78/100

 野心 21

 ・適性

 歩兵 A

 騎兵 S

 弓兵 A

 魔法兵C

 築城 S

 兵器 A

 水軍 D

 空軍 C

 計略 S


 その鑑定結果を見て私は我が目を疑った。


 の……の……。


「信長だ!!」


 まさに非の打ち所のない、圧倒的なステータス。日本人では誰でも知っている英傑の一人、織田信長に匹敵するくらいの能力値(あくまで某歴史ゲーム上での能力値)だった。


 まだ若いので、育ちきっていないが、将来は恐ろしいことになっているだろう

 あんな捨てられた野良猫のような青年が、まさか信長だったとは。

 世の中分からないものである。


 名前はリーツ・ミューセス君か。


 彼をこんなところで野良猫のままにしておくわけにはいかない。


 絶対に部下にしなくては。

 人種的に間違いなく、変な目で見られるだろうが、彼を部下にできるメリットを考えれば、そんなものどうでもいい。


 私はリーツを部下にするため、彼のそばに駆け寄った。

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