第3話 方針
「な……初めてであんなに完璧に……」
「ま、まぐれだ、きっとまぐれだ。おいミレー! もう一回やってみろ!」
年上の兵士に促され、ミレーはもう一度矢を放った。
今回も矢は真っ直ぐ綺麗に飛んでいき、的に命中した。
二度目でまぐれはまず無い。
兵士たちは再び驚愕した。撃ったミレー本人ですら、驚いて開いた口が塞がらないというようすだ。
「お前弓使いなった方がいいぞ」
「そうだ才能あるって!」
「ぶっちゃけお前槍、下手くそだったし」
とミレーは同僚に勧められ、
「ま、まあ、弓もそんなに悪くないかもな。戦いに卑怯もクソもないからな、はっはっは」
びっくりするほどあっさりと、手のひらを返した。
男が使う武器じゃないとまで言っていたのに、単純すぎるやつだ。
「しかし、坊ちゃん。何でミレーに弓の才があると分かったのですか?」
兵士の男が尋ねてきた。
自分も知りたいという風に、その場にいた者たちが、私に視線を向けてくる。
能力が数値化して見えるという話を、果たして信じてもらえるだろうか。
分からなかったので、私は、
「勘」
と答えた。
○
翌日、私は家族と一緒に朝食を食べていた。
私の正面の席では、この世界での父、レイヴン・ローベイトが食事を取っている。
レイヴンは背丈が非常に高く、顔がゴツくて、目つきも鋭くて、正直少し怖い。
この男は、農民の出であるが持ち前の武勇で貴族に成り上がったという経歴を持つ。
その武力は凄まじく、兵士たち十人を一人で軽くあしらえるくらいである。
ちなみにステータスと適性は、
統率 86/86
武勇 94/95
知略 44/56
政治 23/31
野心 67
歩兵 A
騎兵 S
弓兵 B
魔法兵 D
築城 D
兵器 D
水軍 D
空軍 D
計略 D
こんな感じである。
優秀な統率力と武勇を持っており、大勢の兵を率いる将としての器がある男である。
反面、政治力が低く、おそらくそれが原因で、これだけの能力を持ちながら、少領の領主に甘んじているのだろう。
食事が終わった後、
「アルスよ。お主、昨日ミレーの弓の才を見抜いたそうであるな」
と質問をしてきた。
「はい、そうです」
「何でも勘で見抜いたそうだとか。案外その勘は馬鹿にならぬかもしれん。磨いておくのだぞ。人の才を見抜く力は、領主して非常に重要な事の一つなのだからな」
三歳児にするかというアドバイスをしてきた。
まあ、私もこれまで何度か三歳児らしからぬ行動を取ってきたので、仕方ないか。
レイヴンの子は現時点では私一人しかいないため、もしかしたら子供の成長速度を私基準で考えている可能性もある。
「肝に命じておきます」
私はレイヴンのアドバイスにそう返答した。
○
それから数カ月が過ぎた。
私は四歳になる。
その期間中、私は自分の置かれている状況について、さらに詳しく知ることになった。
はっきり言っておこう。正直私の将来は全く明るくない。
私というか、私の住んでいるサマフォース帝国の将来が明るくないと言った方が正しいか。
近い将来この国は、乱世に突入する可能性が高い。
サマフォース大陸全土を支配しているこの国は、外敵が存在しない。長い海峡を渡らないと攻めることが出来ないため、ほかの国からと戦争は起こりにくい状況にある。
つまり起こるのは内乱である。
現在、サマフォース帝国の政権を握っている連中が非常に腐敗しているらしい。
そのせいで、各地で農民の反乱が起きる。
父レイヴンもこの前、反乱を沈めに行くために、出陣していた。
反乱が次々に起きて、サマフォース帝国の皇帝の力がドンドンと落ちていき、各地の貴族たちが、徐々に自治を強めていっているらしい。
帝国中で小競り合いが起きているが、今のサマフォース帝国にはそれを止める力がもはやない。国は荒れたい放題で、戦が各地で年中起こっているというのが、今の帝国の状況だ。
まさに乱世といった感じだ。
このままいけば帝国は倒れ、群雄が割拠し、小競り合いでなくやがて大きな戦が起きるようなそんな予感がする。
そんな時代に、貴族家の長男として生まれてきてしまった私の先行きは、非常に不安である。
要は何度も戦に出なければならないということなのだ。
当主として自領の兵を率いながら。
平和な時代なら、のんびり内政しながら暮らしていればよかったのかもしれないが、今の現状だとそんな事言ってられない。
前世の私は平和な日本に生まれて育った、戦など全く知らない人間である。
そんな私が戦など出来るのだろうか。
この厳しい時代を生き延びることが出来るのだろうか。不安でしかない。
死にたくはない。
前世では三十五歳という若さで、突然死してしまった。
まだやり残したことだってたくさんあったのだ。
二度目の人生でも、早死にするのは絶対に嫌である。今回の人生は孫たちに囲まれて、老衰で逝きたい。
死なないようにすればどうすればいいか。
私は一生懸命考える。
そして、
――――人の才を見抜く力は、領主にとって非常に重要な事の一つなのだからな。
父の言葉が頭に浮かんできた。
そうか、人材だ。
優秀な人材を色々配下にして、この領地の力を強くしよう。
そうすれば私も死ぬ可能性が下がるだろう。
この国が乱世に突入するというのなら、一番重要なのは力に他ならないのだから。
私の鑑定をフル活用して、優秀な人材を集めまくろう。
そう決めて、屋敷を出て、人の集まる村の方に赴いた。
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