第2話 鑑定

 それから数ヶ月が経過した。


 言葉を理解できるようになって、判明した事がいくつかある。


 まず転生した私の名前だが、アルス・ローベントというらしい。


 実は前世の名前が全く思い出せない。

 どんな人生を歩んできたからは、覚えているのだが名前だけが、完全に欠け落ちてしまっているのだ。


 覚えていたら、名前が二つあることになり、混乱してしまうので逆に良かったのかもしれない。


 もう一つわかったことは、この世界は地球ではない可能性があるということだ。


 なぜそう思ったのかというと、文化レベルが地球に比べるとあまりにも低いのだ。


 テレビやラジオ、スマホなどもちろん、電気がなく今時、ランプを使っている。とにかく家に文明の利器と呼べるものが一つ足りともないのだ。


 よほど、貧乏な家ならわかるが、家は結構大きくて豪華である。これで貧乏だというのは無理がある。


 よっぽど変わった家庭に生まれたとい可能性もあるので、これだけでは断定できない。

 私がここが地球でないと思ったのには、もう一つ理由がある。


 見たこともない生物が、家の中で飼われているのだ。


 犬のようなのだが、犬ではない。

 背中から翼が生えているのだ。それをばたつかせれば、二、三メートルほど宙に浮く事が出来る。

 翼がなければ日本原産の愛玩犬、チンのような見た目である。

 ちなみに名前は、アーシスと呼ばれているようだ。


 いくら何でも翼の生えて、飛べる犬というのは、地球にはいなかっただろう。


 やはりここが地球ではないという可能性が濃厚にであると、結論を出さざるを得ない。


 どんな世界かは、まだ具体的には分からない。


 しかし、翼のある犬がいるくらいであるから、ファンタジーな世界である可能性も大いにあると思う。


 やはり私は大変な事に巻き込まれてしまったようだ。



 ○



 それから三年が経過した。


 流石に三歳になると、私も歩いたり喋れるようになる。言葉も完璧に習得した。

 そして、現在置かれている状況にもある程度、詳しくなってきた。


 まず、私の生まれたこの世界だが、やはり地球とは別の世界のようだ。


 サマフォース大陸の、サマフォース帝国という場所に私は生まれたらしい。


 そんな大陸と国は、全く聞いた事がない。歴史上にもないはずである。


 さらに魔法という、火を起こしたり、水を出したり、とにかく不思議な現象を起こす術がある事を知った。


 魔法を見たときには、流石にここが異世界であると確信した。


 そして、私が生まれたこのローベント家だが、どうも貴族らしい。


 戸数約二百、人口約千人ほどのランベルクと呼ばれる、小さな土地を統治している。


 私はローベント家の長男として誕生し、どうやら家を継ぐ運命にあるようだ。


 正直不安しかない。


 所詮、サラリーマンだった私が、人を率いる立場になれるものなのだろうか。


 実務は部下に任せて、自分は遊び呆けるという事が許されればいいんだけどな。


 それと最後にもう一つ分かった事がある。


 私には普通の人間にはない、ある能力があるようなのだ。



 ○



「坊ちゃんおはようございます」

「おはよう」


 私は屋敷のすぐ横にある練兵場を訪れていた。


 ローベント家の動員可能兵力は、120ほどでそのほとんどが農民である。

 農民たちは忙しい合間を縫って、こうして練兵場で練習を行っていた。


 槍を突いたり、弓を放ったりと色々な練習をしている。


「坊ちゃんはよくここに来ますのう」

「まだ3歳なのに、将来が末恐ろしいわい」


 三歳の子供が武芸に興味を示していると思い、部下たちは好意的に見ていた。


 実際は、武芸に興味があるわけではない。

 私が興味を抱いていたのは、だった。


 私は、練兵場で槍を突いている男を見つめ、とある能力を使った。


 その名も【鑑定】である。


 鑑定こそ、私の持つ特殊な力だ。

 何かをじっと見つめると、そのものの詳細な情報を得ることが出来る。

 人間だけを鑑定することが可能だ。


 別に誰かから、これは鑑定っていう能力だよ、と教えられたわけではない。

 名前は自分で名付けた。

 ものの詳細が分かる能力なので、鑑定と呼ぶのが相応しいと思ったのだ。


 男を見つめ続けると、黒い板が私の目の前に現れた。これに今見つめている男の情報が書かれている。この板は私以外の者には見えない。


 板にはこう書かれている。


 ミレー・クリスタル 21歳♂


 ・ステータス

 統率 21/35

 武勇 60/62

 知略 22/32

 政治 15/31

 野心 3


 ・適性

 歩兵 D

 騎兵 D

 弓兵 B

 魔法兵 D

 築城 D

 兵器 D

 水軍 D

 空軍 D

 計略 D


 こんな感じで、私の好きな某歴史ゲームを思わせるようなステータスが、表示されるのだ。


 統率は軍を率いる能力。

 武勇は強いか弱いか。

 知略は頭の良さ。

 政治は交渉のうまさ、内政のうまさ、調整能力。

 野心は裏切りやすさ。


 左の数字が現在の能力で、右の数値が潜在能力だ。

 能力値の目安として、


 100以上、化け物

 90台、超優秀

 80台、優秀

 70台、良い

 60台、平凡

 50台、微妙

 40台、悪い

 30以下、駄目駄目


 こんな感じか。

 某歴史ゲーム通りだったら、こんな感じだろ

 う。


 一応色んな人を見た結果、ある程度、某歴史ゲーム通りと見て、いいと結論は出ている。

 次は適性だが、


 歩兵は接近戦をする適性

 騎兵は騎乗戦闘の適性

 弓兵は弓戦闘の適性

 魔法兵は魔法を使う適性

 築城は城を作る時の適性

 兵器は兵器を扱うとき、作る時の適性

 水軍は船上で戦闘の適性

 空軍は恐らく空で戦う何かがあるのだろうから、それの適性

 計略は戦況を有利にするための戦術を考えられるかどうかの適性


 Dが最低でSが最高である。


 ちなみにこの鑑定、自分にはできない。手や腹部など肉眼で視認可能な場所を見ても、ステータスは出てこない。鏡などで顔を見ても無理だった。自分の才能を知りたいのに、それが分からないのは正直残念である。


 今、訓練をしているミレー君のステータスであるが、武勇は最低限あるが、あとは壊滅状態だ。


 まあ、雑兵のステータスなど普通はこの程度だ。

 ほかの者も、武勇は最低限あるが、他は壊滅といったものばかりである。中には武勇すら駄目な者もいる。


 ミレーに関して気になることがある。

 彼は弓兵適性が高い。つまり弓を使うのが、上手いはずなのだ。

 しかしながら現状槍の練習をしている。

 この前から練習を見ていたのだが、ずっと槍の練習をしていて、弓の練習をする気配がないのだ。


 ミレーは弓を使う気は無いのだろうか?


 尋ねてみよう。


「そこのミレーよ」

「え? な、何ですか坊ちゃん。てか俺の名前知ってたの?」


 私に話しかけられて、ミレーは狼狽える。


「なぜお前は弓を使わないのだ?」

「弓ですか? だってあんな武器ダセーですぜ。敵の届かんとこから、撃ってさ。男がやるような行為じゃあねえっす」


 割とどうでもいい理由だった。

 これなら使わせてやったほうがいい。

 適性がBあれば間違いなく、それなりに上手く弓を扱えるだろう。


「一度使ってみろ」

「えぇ?」

「お前には才能があるから一度使ってみろ」

「いや、坊ちゃんの頼みでも……」


 とミレーは断ろうとするが、兵士たちが「坊ちゃんの頼みだぞ。断るんじゃねー」的な視線を一斉に浴びせたので、


「はぁー、分かったやりますよ」


 ため息をついてそう答えた。

 兵士たちは別に私の鑑定を知っているという訳ではない。単純に領主の息子の機嫌を取ろうとしているのだろう。


「俺、弓なんて、使ったことねーのにな……」


 そんな事をぶつぶつ言いながら、弓と矢を持つ。

 そして、的に向かって弓を構えた。


「ミレー、初めてならもうちょっと近くから撃った方がいいぞ。その位置では絶対に的まで届かん」


 と弓が達者な兵がアドバイスをするが、


「その位置で撃て」


 と私が命令したので、近づかず、そのまま打つことになった。


 ミレーは弦を目一杯引いて、そして手を離し矢を放った。



 矢は真っ直ぐと飛んでいき、的の真ん中を綺麗に射抜いた。



 その様子を見て私以外のものは、目を見開いた。

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