第3話
噴水の前で一人の少女が肩まで掛かったかがやく金色の髪をたなびかせていた。何やら誰かを待っている様子だ。街行く人々は皆彼女の美貌に足を止める。女性であっても例外ではなかった。
異性だろうが同性だろうが全てを虜にする、彼女の美貌にはそれ程までの魅力があった。
そんな彼女は内心ーー
苛ついていた。
待てども待てどもやって来ない己の幼馴染に腹を立てる。
ーーわざわざ待ち合わせなど面倒くさいことなどせず、一緒に来れば良かった、と少女は今更ながらに後悔を始める。
ギルドに備え付けられた個人部屋で未だに寝ているであろ幼馴染を叩き起こしに行こうと思った瞬間だった。
彼女がある人物を捉えたのは。
真っ赤な髪色に端正な顔立ち、そしてこんな日でも野暮ったいローブ。そんな彼女がよく知る幼馴染が走ってくるのが見えた。
「おっそい!」
「す、すまない。寝坊してしまった……」
走って来たせいだろうか、アルネは肩で息をしながら、素直に遅刻を認めた。そしてその後、彼はさながら判決を待つ受刑者のように彼女の言葉を待った。
しかし、いくら待てども断罪の言葉は来ない。そう、彼女はそれ以上は彼を責めるようなことはしなかったのだ。
「だって私が待ち合わせにしようって言ったでしょう? アルネが朝弱いことを知ってながらね。ほら、行きましょう?」
笑いかけながらルミアは己の手を差し出す。
「ああ。……ところでどこに行くんだ?」
アルネは差し出された手を取り、笑い返す。
「まずは服よ、服。私のとアルネのね。ローブ以外に服、持ってないんでしょう?」
「まあな。俺にはセンスというものが無いらしいからな。出来ればルミアが決めてくれるとありがたい」
「いやよ、二人で決めましょう?」
そう、今日は二人の街でのお買い物デート
などではない!!
二人にとってこれはただの買い物である。
付き合ってもない二人からすれば、これはデートに含めないのだ。
周りからどう思われようと彼らにとっては関係ない。周りがいくらデートだと言っても、二人にとってはデートではないのだ!
『デートとは恋人同士がするもの』
それが二人の共通見解であった。故に友達以上恋人未満でしかない彼らにとってこれはデートではないのだ!
ーーーーーー
ーーーー
ーー
アルネとルミアが手を繋いで歩いていることは街の人間にとって驚くべきニュースであった。
前々から怪しいと思われていた二人の関係がついに発覚! そんな噂が街中を巡った。
二年程前にこの街に移転して来た二人の関係を知る者はあまり多くない。
そんな街の様子を知ってか知らずか、二人は今日のお出かけを楽しんでいた。
『賢者』『勇者』などと呼ばれるようになってからは二人はこうして街巡りなどあまり出来なかった。
だからこそ、今日は周りの目など忘れて羽を伸ばそうというのだ。
ついでにいつもの口論も忘れて。
「それにしても良かったのか? 服選び、こんなに早く済ませてしまって」
「いいのよ、別に。それよりアルネはどこか行きたい所はないの?」
「そうだな……魔道具屋に行ってみたいな」
最近面白い魔道具が入ったらしい、とアルネは己の服が入った紙袋を持ちながら言う。
最近、極東系の人間を見かけるようになった。彼らは黒髪黒目という極めて特徴的な容姿をしており、様々な文化や発明を伝えた。
以前ならば高価であった紙の大量生産による低価格も彼らもたらしたものだという。
彼らこそまさしく『賢者』ではないか、とアルネは心の中で苦笑する。
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