第2話


 多くの屋台や商店が連なり、喧騒を極めるその街は活気に溢れていた。

 そこには一際異彩を放つ一組の男女が。


 二人を見かけた途端、その街の住民たちは色めき立つ。しかし、「賢者」「勇者」と呼ばれる二人はそんな街人の様子など気にした素ぶりを見せない。

 そしてそのまま、二人はある建物内に入って行く。


 そこはその街にいくつかある冒険者ギルドと呼ばれるものであった。


 冒険者ならば冒険者ギルド、商人ならば商人ギルドという風にこの街の人々はそれぞれの職業別のギルドに属さなくてはならなかった。

 それは、如何な大商人であろうとも、例えそれが「賢者」「勇者」と呼ばれる冒険者であってもだ。



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 冒険者ギルド セレン


 この名前は神話上唯一マトモであったとされる神の名から取ったものであるらしい。その名の通り荒くれ者が多い冒険者にしてはこのギルドに属する冒険者は比較的穏健な者ばかりである。


「あっ、アルネさん! ルミアさん! お戻りになったんですね!」


 今しがたギルドのドアを開けた二人の男女に駆け寄る一人の小柄な少女が。

 名をレーニャといい、彼女はこのギルドの受付嬢を任されている。彼女はギルドに属している冒険者が帰ってきた時、必ずこうして出迎えに来てくれる。


「ああ、いつも悪いな。これ、依頼されていたものだ」

「はい、確かに受け取りました。……それにしてもいつもながら早いですねぇ」


 燃え盛るような赤色の髪の少年ーーアルネが少女が先程狩ってきたモンスターの爪を渡す。


「まあ、でも今回はあのモンスター見つけるのに手こずったから、いつもよりは時間が掛かっちゃったのよ」

「まるで自分が見つけたかのように言うな。見つけたのは俺だろう?」

「はいはい、悪かったわね。ほんっと、昔からそういうのに細かいんだから」


 まさに売り言葉に買い言葉である。

 ちょっとのことですぐ口論を始める二人に対し、レーニャはこれ以上はヒートアップさせまいとすぐさま止めに入る。


「はいストップです。ストーップ! もう……そんなに喧嘩するようでしたら、パーティ解散させて、他の人たちと組んでもらいますよ?」

「「それは嫌!」」


 示し合わせたかのように同じ言葉を同じタイミングで重ならせる二人。

 本来であれば、受付嬢にパーティ選出権などないのだが……『勇者』の方はともかくとして、『賢者』と呼ばれる少年もお互いのこととなると、途端に知能レベルが下がってしまうのである。

 恋は盲目というが、この二人に限っては馬鹿と形容する方が相応しいかもしれない。


「……はぁ、お二人は本当に仲がよろしいですね。では明日、依頼達成の報酬をお二人にお支払い致しますのでーー」


 いつものやりとりながら、いや、いつものやりとりであるからこそ、普段から見慣れているレーニャは呆れていた。

 レーニャが呆れながらも、報酬について話そうとしたその時、アルネがそれを遮る。


「いや、今回の報酬はルミアに渡してくれ。討伐したのはルミアだからな」

「ちょっと! た、確かに、倒した方がお金貰うって二人で決めたけど、探したのはアルネじゃない。わざわざ魔法使って。大体、見つからなければ倒せないじゃない。そんな訳だからレーニャちゃん、お金はアルネに渡して」

「は、はぁ……」


 この二人、先程は私が倒した、俺が見つけたと己の手柄を主張していたにもかかわらず、現在は何故か譲り合っている。

 そもそもの話、二人にとってあれは口論などではなく、ただのじゃれ合いに過ぎない。彼ら流の一種のコミュニケーションなのである。


 要するに二人とも、この掛け合いを楽しんでいるのである。十年の付き合いともなると、お互いが何を思っているのか分かってくる。

だからこそ、時には暴言とも取れるような言葉を平気で投げつける。相手がそれを受け取り、投げ返してくれることを信じて。


 巻き込まれる周りの人間(主にレーニャ)からしたら、たまったものではないだろうが。

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