13 微睡みにいる悪魔は悪夢に溺れる
ボク、ジェット・アンバーは不思議な目を持っている。陛下と王妃である両親、そして兄姉妹も持っていない、血のように赤い目だ。
ボクの国では赤い目を持つ子どもは災いを招く悪魔だと言われてきた。それでも、家族や家臣達はボクを優しく接してくれる。なぜなら、この赤い目は強すぎる魔力で変色したものだからだ。実際、この目が赤くなったのは、ボクの魔力が覚醒した時だった。通常では強すぎる魔力を暴走させてしまうらしいが、幸いボクには魔法の才能があったらしい。暴走なんて一度もしたことがなかった。
だから、むしろお祝いされたくらいである。
しかし、魔力が覚醒した日からだった。ボクが人には見えないものが見えるようになったのは。
「ねぇ、兄さん。兄さんの胸についているのは何なの?」
人の胸にはキラキラと輝くものがあった。兄姉だけじゃない。両親や家臣、そしてまだ生まれたばかりの妹の胸にもそれはあった。そのキラキラとしたものはみんな色が違う。中には真っ黒でドロドロとしたものを胸にある人もいる。そういう人は何か悩んでいたり、悪い事を企んだりしている。ボクがそれを指摘した相手はその悪事がすぐに明るみに出た。
それが人の心だと気づいたのは、だいぶ後からだった。
そして、人の心だと気づいた時には、ボクの周りから自然と人が離れていった。
『ジェット殿下は人の心が読める』
『どんなに誠実な態度や言葉を述べても、嘘を見破ってしまう』
そんな噂が流れ、心が読めるボクが疎ましくなった両親や兄姉妹たちは、ボクから距離を置くようになった。
人の心を読まれるのは気持ちが悪い。誰だって知られたくないことがあるのをボクは知った。だから、どんなに心が汚い奴を見ても、ボクは見て見ぬふりをした。
そして時は流れ、ボクは20歳になり学校を卒業すると同時に臣籍に下り、辺境の地へ追いやられた。でも、これでいいんだと自分に言い聞かせた。ボクはボクで、任された領地を管理すればいい。元々の力もあったから、自然と領地は栄えていった。嫁を取れと言われた時もあったけど、そんな気にもなれなかった。
そして、ボクが30歳を越える頃、国で反逆が起こることになる。心優しい兄を騙し、民に嘘をばら撒き「あの王族は
両親と兄は死に、嫁いでいった妹とその家族は国に追われて、ボクの領地に逃げてくる途中で捕まったと聞いた。
「ボクは、城に戻る。あとは頼んだよ」
部下に領地を任せて、ボクは王都へ向かった。
酷い有様だった。綺麗だった街並みは汚れ、空は煙で常にくすんでいた。
そして、ボクは──妹、そしてその家族の処刑を目にすることになる。
──どうしてこうなったんだ?
──これはボクのせいなのか?
嬉々として掲げられた妹の首。
そして、その首をゴミのように投げ捨て、蹴り飛ばした。
その時、頭の中で何か切れるような音がした。
気づいたら、ボクは血まみれで城の中にいた。ボクの周りにあるのは無残に転がった死体。
ボクは王の間へ行き、血濡れた玉座に触れた。
──どうしてこうなってしまったんだ?
──全部、ボクのせいなのか。ボクが見て見ぬふりをしたから?
──ボクが生まれたせいだから?
分からない。分からない。人の心は分かるのに。何一つ答えは出ない。
──そうだ。やり直そう。
◇
夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、薄暗くなりつつある廊下でボクは、頭を痛めた。
「これは一体どういうことですか……ブルース、グレイム、そしてシヴァルラス様?」
イヴ・ラピスラズリを守るように前に立つ3人を呆れた目を向ける。
シヴァルラスはともかく、この場にブルースとグレイムがいるのはおかしい。ボクは理由を探っていると、さっきクリス達が話していた内容を思い出し、今までの当てはまらなかった
「ああ、前世の記憶を持ってるっていうのは君か? そういえば、君は群を抜いて今までと違ってたな。ねぇ、ブルース?」
ブルースに目をやると、彼の表情が一層にこわばった。
クリスはボクの物語を途中まで知る人がいると言っていた。それがブルースなら全て合点がいく。クリスが参加していたお茶会やパーティでちょくちょく姿を見かけ、少しばかり様子がおかしいと思ったが、学園に入学した後、それは確信に変わった。
シヴァルラスやヴィンセントのように頭がおかしくなったクリスの影響を受けてしまったのかと思ったが、家同士のこともあって元々クリスと彼は交流が少なかった。クリスが原因とは考えにくい。理由がわからず様子を見ていたが、クリスの頭がおかしくなった原因と同じであれば納得がいく。
一度、この場にいる人間の心を確認するが、ほぼ予定通りだ。ほぼ予定通りなのに、想定外なことが起きてしまっている。
「ジェット!」
聞き慣れたボクを呼ぶ声。ボクは背後に目をやると、先ほど泣きながら思念通話を飛ばしてきた彼女がいた。思ったよりもひどい顔をしている彼女にボクは少し呆れながら、彼女に足を向ける。
彼女は少し顔をこわばらせながらこちらを見上げ、涙で濡れる彼女の頬をハンカチで拭った。
「クリス、さっきも言ったけど、君は勘違いをしてるよ」
「か、勘違いって……あ、貴方、イヴに手をかけるって……言ったじゃない! 絶対だめよ、そんなこと!」
ボクを叱りつけるように泣きながら訴える彼女の姿を愛しく思いながらも、苦笑せざる得ない。
どうしてこうなってしまったんだろう。
まるで子供のように泣きじゃくりながらダメと連呼し「まずはこの私を倒していけーっ!」と訳の分からない事を口走ってボクに抱き着いている。きっと彼女は身を
ボクはため息をつきながら彼女の頭を撫でて落ち着かせ、ようやくヴィンセントを連れてやってきたセピアが到着する。
(さて……どうしたものかな……)
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