出発
「それじゃ、いってきまーす!」
そう言って元気に村を出発したのは良いものの…………、
「まさかお互いに方向音痴だったとはな………」
絶賛迷子中だった。
「私は昔ちゃんと方向音痴アピールしてましたしー、むしろ予め教えておいた私に感謝して欲しいくらいですしー」
「……? そんなことあったっけか? まぁなんでもいいけどよ、このまま行くと冗談抜きで夜通し歩き続ける羽目になるぞ」
日は既に山の向こうへ落ちていて月が顔を覗かせている。本来ならもう既に街に着いていて良いはずなのだが………。
「街の灯りすら見えねぇってのはどうしたもんか……」
だからと言って脚を止めることは出来ない。これはポジティブな考えだからではない。怖いのだ、正直なことを言うと未見の地で迷子というのはどうしようもなく恐ろしい。平原な分見晴らしが良いのがせめてもの救いか。
「うーん、もしかして私たちここら辺で野宿になっちゃうのかな?」
「可能性は十分にあるよな……、悪いランタンで照らしてくれ、日が落ちたせいで地図が見にくいんだ」
「はーい」
何だかランタンで照らすには距離が近すぎる気がしないでもないが何も言わないでおこう。しかし『センケツの街』か、規模がでかいから見つけやすい筈なんだけどなぁ………」
「そうでもないわよ? この街は街専属の魔法使いによって結界が張られていて魔物はもちろん盗賊にすらそうそう見破られることはないらしいし」
…………ん?
「おい、そんな話聞いてないんだが? つーか俺達が見つけられないのってその結界のせいなんじゃ………」
「だって知ってるものだと思い込んでたし、あとこの結界は日が落ちないと起動しないか……ら…………」
自信満々に結界のことについて語っていたが後半になるにつれ段々声のトーンが下がっていった。そして震える声でこう訊ねてきた。
「野宿かな………?」
「野宿だろうな」
「…………準備しよっか」
その言葉をきっかけに俺達は黙々と野宿の準備を始めた、と言っても適当な木陰に焚火をたいて毛布とは名ばかりの薄い布を纏って寝るだけだが。
「………おやすみ」
「おやすみなさい」
もしかしたらすぐ横に街があるかもしれないという何とも言えない気持ちのまま俺達は夢の世界へ微睡んだ。
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