相変わらず

 彼が手を振りながら家に戻っていく。深く深い紺色の髪と黒目な服装をしているせいで彼の姿はすぐに闇に消えてしまった。

 今夜は冷えるがおかげで月が綺麗に見える。街に出たらこうして真っ暗なところで月を見ることは出来なくなるのかと思うと少し感慨深い気持ちになる。そう言えば彼に好意を抱くきっかけが出来た日もこんな夜だったか。

 風邪をひいた祖母の為に薬草を採りに山に入ったのはいいが小さい頃の私は薬草採りに夢中で帰り道を忘れてしまっていた。その日は一応冬服を着ていたとは言え寒さが肌に滲みるような夜で、今日のような感想は一切感じられなかった。薬草が入ったカゴを抱きながら草むらの陰で泣いていた私を見つけてくれたのはカイだった。どんな道を通ったのか知らないが彼の服がところどころほつれていたのを覚えている。怯える私の手を握ってくれたあの温かさも………。

 彼はもうこんなこと覚えていないかもしれないが、それ以来私は彼に釘付けになっていた。彼が戦士に憧れているように、私は彼に憧れを抱くようになった。それがいつしか好意に変わっていて今に至る。


 さて、長い間思いに耽っているのもいいがここで風邪でも引いてしまったら目も当てられない。私だって出発を延期させるのは嫌だ。

 そんなことを思いながら足早に家に戻る。あぁ、明日が楽しみだ。

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