第1話 海賊伯

「反乱を起こすと言うことかな?」


両者の近侍が凍りつく。ニコニコとただし目だけは笑っていないコンラート3世皇帝は静かに但し冷酷に問う。


「いえ、叔父上。ご存知ないのですか?彼らが行っている恐喝によって首都星系から遠い中小貴族が困窮しているのですよ。」

「待って。思い出した。あそこか。許可どころか支援しても良い。あそこの艦隊長は帝国成立直後から続く伯爵家の弟だからね。面倒なんだよ。」


それに微笑みながら返答する12歳少年。


「首都星に来給え。気に入った。」


皇帝の一言、エスターライヒ辺境伯は神聖フランク帝国首都星トレドへと向かう事となった。


🔹🔸🔹🔸🔹🔸🔹🔸🔹🔸🔹

「エスターライヒ辺境伯にしてティロル伯爵、ベーメンにおける王ロンバルディア公爵ヴィルヘルム二世閣下ご参内!」


「神聖フランク皇帝にしてエスパニア国王ナーポル王、ティリア王、ミラノ公爵、ブルゴーニュス公爵コンラート3世陛下ご出来!」


それぞれの侍従が大音声をあげる。礼服のエスターライヒ辺境伯と玉座に君臨する皇帝。

更に両側の壁沿いにズラっと帝国軍将官や高位の貴族、文官が並ぶ。


「直答許す。我が甥ヴィルよ。何事だ?」


内向きの口調では無く皇帝としての威厳溢れる絶対者としての口調。


「はっ。陛下にエスターライヒ辺境伯位継承のご挨拶と我がエスターライヒ家と叔父上のアブスブルゴ家間の継承問題を解決したく参上致しました。」


「うむ。エスターライヒ辺境伯挨拶ご苦労である。余はエスターライヒ辺境伯の継承を承認する。それで、如何に解決する?」


「まずは、私のエスターライヒ辺境伯位をエスターライヒ大公位継承を認めて頂きたく存じます。」


「そうか。それは良い認めよう。」


既定路線。既に事前打ち合わせは済んでおりお互いに発表しそれを公表する為のロールプレイである。


「それでは叔父上。継承問題の存在する爵位を挙げようと思います。」


継承問題の存在する爵位は以下だ。

ネーデルクス連邦

サルデニア王国

マージャル王冠領

セルビス公国

ボスニアス公国

オルテニア公国

パールマン公国

ガリツィス・ロドメニア王国

ヴェーノ公国

ダルマティア王国

ブルゴーニュス自由伯領

の11。


「我々はガリツィス・ロドメニア王国、サルデニア王国、マジャール王冠領、セルビス、ボスニアス、ヴェーノ公国、最後にダルマティア王国の7領地をエスターライヒ家が、残りをアブスブルゴ家と考えていますが如何でしょう?」


「余はそれで構わぬ。エスターライヒ大公位 ヴィルヘルム一世、汝をエスターライヒ大公位に選帝侯位を重ねエスターライヒ大公並びに選帝侯ヴィルヘルム一世とする。」


不自然極まりないがぶっちゃけエスターライヒ家と分家筋のアブスブルゴ家の継承問題な訳で両家の当主が認めてれば問題は無い訳である。既にここに来る前に管理権は移行され、その下の役人達もそのまま移っている。

要するにアブスブルゴの皇帝と歴代皇帝の57%を排出した名家エスターライヒ家が和解していて良好な関係を持っていると言うことが大切な訳だ。


「アルマ。」


アルマーノ・エスネティ・フォン・アブスブルゴ。年齢15歳皇帝の第一正妃の長女。

そして神聖フランク皇帝位以外の全爵位の法定推定相続人。


「はい、お父様。」


そして帝国一の美女と名高い。


「婚約相手が決まった。そこにいるヴィルヘルム大公だ。」


「承知しました。」


家系としては遠く遺伝的には問題は無いだろう。そんで俺とアルマーノ殿下の間の子がエスターライヒ系の中で最大の領地を持つこととなる。

フランツ王国のドートリッシュ家、エスパーニャの公爵の一族アウストリア家、バーエルン王家や各世襲選帝侯家。今や伯爵家以上の貴族でエスターライヒ家の血が入っていない一族は無い。真に青い血とはエスターライヒ家の事を指すとも言い放った皇帝も居る。

莫大な所領を俺が継承した訳だが不満が出ないのはもうひとつわけがある。

ダルマティアとサルデニアの両王国のみそれ以外はマジャール王を自称するフニャディ・マーチャーシュに実効支配されている。両王国もフランツの圧力に晒され係争地でもある。

つまりは他家から見れば幼いエスターライヒ家の当主が現皇帝であり御歳236歳の分家の当主に騙され協力させられてるのである。

ちなみに現代の平均寿命は約500歳前後。


「退出して良い。後程、余の私室へと参れ。」


「はっ。」


アウグスタを伴い、宛てがわれた客室に戻り暫くするとライン宮中伯、つまり宰相のマックス・フォン・アダルバートとアルマーノ殿下が呼びに来た。


「ヴィルヘルム様、お父様がお呼びです。」


「ありがとうございます。直ぐに。」


マックス宰相は無言で殿下の後ろに控え立っているが何をしに来たのやら。


「閣下、私は待機致します。」


「いえ、お父様がアウグスタ様も御一緒にと。」


ほう。二重婚姻か?

暫く歩き、宮殿の皇帝の私室へと入る。


「アウグスタは久しぶりだね。」


「お久しぶりです。陛下。」


手を振り、叔父でいいと訂正する。


「叔父上。」


「ヴィル。私の養子としてアウグスタとも婚約して貰いたい。」


「何故でしょう?」


「アウグスタの父は私の末弟だよ。利益は渡したいし君の嫡子がエスターライヒ系宗家に領地を集めれば良い。これからは我々の一族だけでも中央集権化すべきだよ。」


一理はある、がそれだけではないだろう。

しかし、断れる力も無くアウグスタの事を憎んでいるわけでも生理的に受け入れられない訳でも無い。


「構いません。」


その後、俺は自領へと戻り新領地を回ることになった。


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星間国家の辺境領 佐々木悠 @Itsuki515

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